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パキスタンの糖尿病

パキスタンの糖尿病の記事が出ていました(Lancet 2022)。我が国と比べてみてどうでしょうか。 簡単に紹介します。

パキスタンの糖尿病患者数は3300万人と推定されています。年齢補正して比べると、世界第3位の多さです。糖尿病はぜいたく病の印象がありますが、中〜低所得国の問題でもあります。パキスタンの糖尿病予備軍(耐糖能異常)は1100万人、うち890万人が未診断です。

パキスタンで糖尿病が多い原因は、遺伝的素因があるかもしれませんが、栄養状態の変化・ライフスタイルの変化が大きく影響しています。田舎から都市に人口が集中し、人口転換(多産多死から少産少死への移行)が、食事パターンや身体活動量を変化させています。

糖尿病に対する年間支出は1人当たり332.90米ドル(日本は3239.3米ドル)と少なく、その多くが自己負担です。パキスタンの健康管理システムは予算が少なく、負荷が過剰にかかっています。

官民連携が進んでおらず、糖尿病の教育、予防プログラム、早期診断が不十分です。若者や生殖年齢の女性の肥満、BMI(体格指数)増加が進んでいます。これらは、特に貧困層で顕著です。

すでに「女性健康ワーカー」システムがありますが、このシステムは家族計画、母子サービスに主眼が置かれています。糖尿病状況を改善するには、ここをてこ入れして糖尿病プライマリケアに積極的に取り組むようにするのが良いでしょう。

WHOやADA(米国糖尿病学会)の提言にもとづいた改善案が必要でしょう。それは (1) 先を見越したチーム連携ケア、(2) 自己管理の増強推進、(3) エビデンスに基づいた決定のサポート、(4) 医療情報システムの改善、(5) ライフスタイル変化に向けた地域社会の取り組み、(6) クォリティ向上を目指す健康システム環境 を含む必要があります。

パキスタン政府も動き出しています。疾病優先管理(第3版)を採択し、ここに1型、2型糖尿病の診断・治療戦略を組み込みました。パキスタン疾病管理センターを設立し、国民皆保険(Sehat Sahulat Card)を開始しました。これらの取り組みは早く結果が出ることが大切です。なぜなら、時間がかかると糖尿病の負担がさらに大きくなるからです。

記事はまだまだ続きますが、パキスタンの社会政策がうまくいき、糖尿病の抑制に成功することを祈ります。


令和4年6月2日

SGLT2阻害薬とGLP1作動薬の併用

まだ学会発表(American College of Cardiology 2022)の段階ですが、ちょっとびっくりする発表がありましたので紹介します。

動脈硬化が進んでいる糖尿病の人を対象に行われた「SGLT2阻害薬とGLP1作動薬」の研究で、両者を併用した人は単独使用の人に比べて全死亡、脳心血管イベントが大幅に減少したという発表です。

SGLT2阻害薬、GLP1作動薬は共に心血管イベントを減らします併用するとさらに良い結果が得られるのではないかと考えて研究が始まりました

対象は米国退役軍人です。虚血性心疾患、脳卒中、末梢血管障害を有する糖尿病患者で、SGLT2阻害薬、GLP1作動薬のみを処方されている121,174人を選びました。43.7%がSGLT2i単独、29.3%がGLP1作動薬、26.9%が両薬併用でした。

この中から傾向マッチングさせた3群(SGLT2阻害薬単独処方群、GLP1作動薬単独処方群、両者併用処方群)各5,277人を選びました。マッチングは年齢、性別、心左室機能(LVEF)、HbA1c、収縮期血圧、それに冠動脈疾患か末梢動脈疾患に基づいて行われました。

平均年齢は67歳、97%が男性、BMI 34kg/m2と肥満があり、HbA1c7.9%、腎機能eGFR55-66ml/分/1.73m2、LVEF 55%で、平均追跡期間は902日でした。

SGLT2阻害薬は主にジャディアンスが処方されていました。GLP1作動薬(全て注射薬)はビクトーザ、オゼンピック、トルリシティが多く、バイエッタは5%未満でした。

主要評価項目は、全死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中です12ヶ月後の評価で、併用群はSGLT2阻害薬単独群に比べて46%、GLP1単独群に比べて主要評価項目が49%少ない結果でした

併用による減少は主に全死亡の減少によるもので、全死亡だけに限るとそれぞれ83%、81%少ない結果でした。

まだ学会発表の段階で、はっきりしたことは言えないのですが、併用療法は単独療法より、脳心血管保護作用が強い可能性があります。今後の研究に期待します。


令和4年5月9日

よく運動する人はぼけにくい

よく運動する人ほど重症認知症が少ないようです。日本人のデータが出ましたので、紹介します(JAMA Network Open 2022)。

日本8地域の43,896人(JPHC-Study)を対象に分析しています。中央値9.5年経過観察し、5,010人が重症認知症を発症しています。

身体活動の多さで4群に分けています。最も運動する群(第4分位)の重症認知症リスクは、最も運動しない群(第1分位)に比べて、男性で0.75(0.66-0.85)、女性で0.75(0.67-0.84)でした。

「中等度以上の運動」でみても、同様の結果でした:男性0.74(0.65-0.84)、女性0.74(0.66-0.83)。

「余暇時間の中等度以上の運動」でみると、それぞれ0.59(0.53-0.67)、0.70(0.63-0.78)でした。

観察開始から男性で7年間、女性で8年間に認知症になった人を除くと、身体活動と認知症の関連が認められなくなり、因果の逆転バイアス(認知症が強くなると運動しない)の可能性も考えられました。

しかし「余暇時間の中等度以上の運動」では、9年間に認知症になった人を除いても運動量と重症認知症の逆相関が認められました。

まとめますと、身体活動が多いほど重症認知症が少なく、「余暇時間の中等度以上の運動」が最も認知症リスクの低減に関連していました。

「余暇時間の中等度の運動」では、第3分位の運動量でも認知症リスクは男性0.65(0.57-0.74)、女性0.76(0.68-0.85)と低下していました。第3分位の運動量は男性で0.9、女性で0.8MET-h/日です(MET-h/日は聞き慣れない単位ですが、速足が3METsの運動、毎日20分速足すれば1MET-h/日になります)。

糖尿病の運動療法の目安は「速足20分(80kcal消費)を1日2回、週5日」です。この論文にあてはめますと、目安運動量で重症認知症を予防しています。ぜひ運動を続けましょう。


令和4年4月26日

日本人の食事に含まれる塩分

日本人の普段の食事に含まれる食塩量について論文がでましたので紹介します(J Nutri Sci 2022)。

調査が行われたのは福島県で、79人が参加しました。1ヶ月間の食事調査と尿中ナトリウムをみています。

各食品の1週間当たりの摂取回数(皿)
(1) 主食(穀類)では、白米9.8回、味付け飯3.8回、パン3.1回、ラーメン0.6回、他の麺類1.5回、他の穀類1.2回、穀類なし1.2回、(2) 副食では、魚/肉類13.4回、野菜類11.8回、乳製品3.0回、果物4.8回、(3) その他の食品は、味噌汁4.3回、他スープ類0.8回、漬物/佃煮2.3回、スナック4.3回 でした。

各食品の1皿当たりの推定塩分量
味付け飯1.3g、パン1.9g、ラーメン3.2g、他の麺類2.2g、他の穀類1.4g、魚・肉類1.5g、野菜類0.9g、漬物0.7g、味噌汁1.4g、他スープ類1.5gでした。

1食事あたりの食塩量は、
穀類の種類によらず3gでした。料理別にみると、魚や肉類の料理から摂る食塩量が最も多く、35%を占めていました。次に多かったのが野菜料理からで19%でした。漬物・佃煮類3%、みそ汁11%でした。

魚・肉類、野菜料理は白米との組み合わせが多く、ラーメンとの組み合わせは少なかった。乳製品はパン食の時に多く、果物は穀類の種類と関係しませんでした。

バランスをとりつつ塩分を減らすには (1)  白米の回数を多くし、(2) 魚・肉類の味付けを薄くし、(3) 野菜を多く摂ることを勧めています。

また、(4) 麺類は塩分が多く、魚・肉類料理が減るので回数を減らし、(5) 乳製品はパン食で多くなるが、パンには食塩が含まれているので副食の塩分量に注意する。(6) 果物をよく食べることを勧めています。


令和4年4月11日

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