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最近の鶏卵の統計:さまざまな結論

米国民を対象に鶏卵が心血管系疾患を増加させるという論文が発表されました(JAMA 2019)。この論文では、29,615人を17.5年観察しています。その結果は、コレステロールの摂取が300mg増える毎に心血管系疾患のリスクが1.17倍に増えました。なお米国の鶏卵は小ぶりで1個200mgのコレステロールが含まれています。

別の米国論文(J Am Coll Nutr 2019)は逆の結論です。23,524人の米国人を対象に「鶏卵を摂ると糖尿病と高血圧が増える」が、「全死亡と心血管疾患死亡のリスクは増えない」成績が発表されています。この論文では既発表論文のメタ分析もなされていて、メタ分析でも「全死亡と心血管疾患死亡のリスクは増えない」としています。おまけですが、男性では鶏卵で脳卒中死亡が減るようです。

次に中国の成績ですが、鶏卵が心血管系疾患を減らすという報告です(BMJ 2018)。この研究では鶏卵摂取量を5群に分けて検討しています。46,213人を平均8.9年観察し、鶏卵を最も多く摂取する群(平均0.76個/日)は、ほとんど摂取しない群(0.22個/日)に比べて心血管系疾患の発症リスクが0.89と低下していました。この論文では最も多い摂取群でも平均1日1個未満ですね。

論文によって結論がさまざまです。鶏卵の影響には地域特性もあります以前にも紹介しましたが、米国で行われた研究だけが「鶏卵を摂取すると糖尿病患者が増える」結果が出ています。「鶏卵を摂取すると糖尿病リスクが減る」とする北欧の論文もあります。鶏卵の影響に本来地域差があるわけがなく、明らかに「鶏卵以外の背景」が統計に影響を与えています


令和元年9月9日

鶏卵摂取のガイドライン

鶏卵はコレステロールが多く、動脈硬化を気にする人は鶏卵を制限してきました。それは、コレステロールを多く摂取すれば血中コレステロールが増加し、動脈硬化を促進すると考えたのです。しかし、この三段論法は問題がありました。

コレステロールの吸収は調整されています。そのため、食品中のコレステロールが多少増えても血中コレステロールに大きく影響しないかもしれません。また増加したコレステロールが動脈硬化と関連するかどうかも確かめる必要があります*。

食品中のコレステロール、鶏卵と心血管系疾患、死亡との関連を検討したメタ分析論文(Am J Clin Nutr 2015)を見ますと、 (1) 食品中のコレステロールが増えると血中のコレステロールが少しだけ増えます。(2) しかし心血管系疾患との間に関連を見出せませんでした

最近は「一般人では鶏卵摂取と心血管系疾患の間に関連がない」と考える人が多くなってきました。そのため各国の食事ガイドラインから鶏卵制限が除かれました

我が国でも「日本人の食事摂取基準2015年」で鶏卵摂取の目標量を算定することを控えました(日本人のデータ**も検討されています)。

日本人の食事摂取基準2020年(案)」が提案されています。「脂質異常症および循環器疾患の発症予防の観点から目標量(上限)を設定するのは難しい」は2015年版と同じです。しかし、動脈硬化学会のガイドラインと整合するように「脂質異常症を有する者及びそのハイリスク者においては、コレステロールの摂取を200mg/日未満」と脚注に追加記載する提案になっています。


本当の悪玉コレステロールはLDLコレステロールの一部です。善玉と言われるHDLコレステロールも量より質(コレステロール引き抜き能)が大切です。

**
(1) 「NIPPON DATA 80」で鶏卵摂取量と虚血性心疾患や脳卒中による死亡とに関連がない(Am J Clin Nutr 2004、ただし引用されている論文では鶏卵を制限すると女性の総死亡が減る可能性が書かれています。飽和脂肪酸のデータはありません )。(2) 鶏卵摂取量と冠動脈疾患との関連がない(JPHC研究)(Br J Nutr 2006)(3) 糖尿病患者においても、卵の摂取量と冠動脈疾患罹患との関連は認めておらず、横断的な卵の摂取量と糖尿病有病率との関連も認められていない(JPHC研究、引用されているBr J Nutr. 2006にこの内容の記載はありません。鶏卵と糖尿病リスクの論文はBr J Nutr 2014です)。(4) ハワイ日系人で総コレステロール摂取量と各疾患の死亡率を観察した研究があり、正相関で「325mg/1000kcal以上の群で虚血性心疾患の増加」を認めている。ただし飽和脂肪酸摂取量で調整されていないため、同時に摂取する飽和脂肪酸摂取量が影響している可能性がある。


令和元年9月7日

メトホルミンの認知症予防効果?

メトホルミンに認知症予防効果があるかもしれません。

65歳以上の糖尿病患者を対象にメトホルミンの認知症発症リスクを検討した研究があります(Neurology 2017)。SU剤服用を対照とした場合、メトホルミン服用は、(1) 75歳未満の人で認知症発症リスク(補正後)が 0.89と低くなっていました。(2) 残念ながら75歳以上ではメトホルミンの効果はありませんでした。

もう少し若い人(50歳以上)も対象に含めた新しい論文(Ann Fam Med 2019)が発表されましたので、紹介します。

この論文では退役軍人健康庁のカルテを分析しています。分析対象は、2000-2001年の段階で「糖尿病」と「認知症」がなく、その後に「SU剤」あるいは「メトホルミン」を開始した50歳以上の白人と黒人(計73,761人)です。「実地診療データ」の解析です。

結論を見ますと、(1) 50歳以上の黒人ではメトホルミンはSU剤対照に比べて、認知症リスクが少なくなりました(認知症発症リスク0.73)。(2) 白人ではこの効果はみとめられませんでした(同 0.96)。

もう少し細かくみますと、(3) 50-64歳の黒人が最もメトホルミンの効果が高く(同 0.6)、(4) 65-74歳では人種に係らず、メトホルミンの効果があり、(5) 75歳以上では効果がありませんでした。

SU剤には低血糖リスクがあり、低血糖が認知症に悪さをしている可能性も考えられます。つまり「メトホルミンが良いのでなく、低血糖を来しやすいSU剤が悪い」可能性があるのですが、論文では「平均血糖や低血糖イベントで補正しても認知症発症リスクにほとんど影響がなかった」としています。低血糖を来さない最近の糖尿病の薬ではどうなのか気になりますね。

人種差が何によるものか不明です。はじめに紹介した論文では、年齢を限ると白人の方に有意差が出ていて、結果がばらついています。もう少し追加論文が欲しいです。

日本人でも検討してほしいですね。


令和元年8月21日

空腹の「ものさし」

空腹の「ものさし」を作ってみませんか?

食べ物がいつも身近にあると、本当の空腹が分からなくなることがあります。「食べたい」と思った時、それが本当の空腹からくる欲求なのか、情動から来る「食べたい」なのかを区別してみましょう

0:とてつもなくひもじい
3:空腹
5:快適
7:満腹
10:これ以上は食べられない

自分は今、この「ものさし」のどこにいますか? 
「食べたい」が身体的欲求なら食べましょう。

そうではなく、「食べたい」という気分・感情だけなら、もう少し我慢してみましょう。

食事の時も、途中でちょっと箸を休めて感じてみましょう。
本当は満腹なのに、まだ胃に詰め込めるからと食べていませんか?


令和元年7月24日

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