女性の心血管系疾患
日本の人口10万人当たりの死亡率を紹介します(平成20年)。心血管死亡率は男性140.1、女性148.4人です。脳血管死亡率は男性99.4、女性102.1人です。脳+心血管疾患の死亡率(合計)は男性239.5、女性250.5となり、ほぼ同数です。(参考:悪性疾患の死亡率は、男性335.8、女性211.6人)
糖尿病は動脈硬化を促進させます。糖尿病があると心筋梗塞後の方と同じくらいに(2-3倍ほど)動脈硬化が起こりやすくなります。そして、糖尿病の影響は女性のほうが男性より大きいことが知られています。
なぜ女性で影響が強くなるのか、はっきりしていません。「女性では男性より肥満が強くならないと糖尿病にならないからだ」と提案する人もいます。この意見に従えば、糖代謝に付随する代謝異常が女性の方が強いからということになります(Diabetologia2013)。
平成25年8月6日
人類の歴史4000年にわたる動脈硬化
これら古代人の動脈硬化は特殊な人だから起こってきた病変なのでしょうか。最近、地理的にも時代的にも文化的にも異なる古代社会で普遍的に動脈硬化性病変が存在することが報告されました(Lancet2013)。
対象は古代エジプト人、古代ペルー人、プエブロ族(北米)の先祖、ウナンガン人(アリューシャン諸島の先住民)で、時代的には4000年にわたります。方法はCT検査で、動脈壁に石灰化したプラークがある場合に確実な動脈硬化、動脈の予想走行部位に沿って石灰化がある場合を動脈硬化の可能性としています。
結果ですが、全137人中47人(34%)に動脈硬化がみつかりました(確実例と可能性例の合計)。内訳は、古代エジプトでは76人中29人(38%)、古代ペルー人で51人中13人(25%)、プエブロ人で5人中2人(40%)ウナンガン人で5人中3人(60%)です。部位は、大動脈が28人(20%)、腸骨〜大腿動脈25人(18%)、膝〜脛骨動脈25%(18%)、頚動脈17人(12%)、冠動脈6人(4%)です。動脈硬化のある人の平均死亡時年齢は43歳で、ない人の32歳より高齢でした(当時は衛生状態が悪く、死亡原因の75%は感染だそうです(老衰は10%))。
現代においても、動脈硬化は先進国社会だけのものではありません。たとえばチベット人は動脈硬化が強いですね(塩入りバター茶と栄養バランスの悪い食事が原因)。古代社会において、どういった生活習慣が動脈硬化を強くしていたのかわかりません。この研究でわかったことは、動脈硬化は時代や地理を問わず一般的な病気であることです。
動脈硬化に伴う病気はサイレントキラーと呼ばれ、症状なく身体にダメージを与えます。ぜひ、予防対策をしていきましょう。
注: 対象になった人たちの食生活
古代エジプト人は小麦、大麦、豆類、ナツメヤシ、オリーブ、イチジク、ザクロ、ラディッシュ、キュウリ、レタス、キャベツ、ビール、ワイン、牛、羊、ヤギ、豚、ハイエナ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、キジなどを食べていました。ミイラになった古代エジプト人は貴族であり、食事を含めた生活習慣は同時代の民衆と大きく異なっていたと考えられます。
古代ペルー人はトウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、マニオック(キャッサバ)、豆類、バナナ、トウガラシなどを育て、アルパカ、モルモット、アヒルを飼っていました。アンデス鹿、鳥類、ザリガニ、魚などを採っていました。
プエブロ族の先祖はトウモロコシやスクワッシュ(カボチャの仲間)を育て、松の実や種、アマランサス(ヒユの仲間)、野草を摂り、ウサギ、ネズミ、大角羊、ミュール鹿などを狩りし、魚を採っていました。
ウナンガン人は、アシカ、アザラシやラッコ、クジラを狩りして、卵類、ベリー類、魚を採っていました。農業はありません。エスキモー(イヌイット)には動脈硬化が少ないと言われているので、ウナンガン人の成績は意外に感じました。
平成25年8月1日
食品の蛋白質含有量
もう少し詳しく説明しますと、国連食糧農業機関(FAO)が2003年に推奨した分析法を世界で初めて採用しました。それはアミノ酸組成から蛋白質量を求める方法で、食品中の蛋白質含有量がより正確に算定されました。その結果、今までの成分値より蛋白質含有量が1〜2割減少しました。
これまでの食餌療法の研究は古い成分表に基づいています。正確な蛋白質含有量のデータが普及してくるなら、指示量も変わっていく必要があります (例: 1.5割減少とすると、1.0-1.2g/kg → 0.85-1.0g/kg の蛋白質指示になります)。
平成25年7月26日
蛋白質摂取量
食品交換表は蛋白質の摂取量を1.0-1.2g/kgとしていますが、炭水化物 50%の配分例で蛋白量が1.2g/kgを超える例が出てきます。その時は「腎症2期以上は適応なし」とコメントが入るそうです。腎障害がない場合は、蛋白質が1.2g/kgを超えても問題ありません。三大栄養素の配分はグレードAになっていますが、実は蛋白質摂取量について統一された見解はありません。これまでの栄養指導の流れとガイドラインをいくつか紹介します。
まず日本の栄養指導です。
昭和50年代の糖尿病の栄養指導の蛋白質量は、軽作業以下1.0-1.5g/kg、 中〜重労働、発育期1.5g/kg でした。一番新しいガイドラインでは、「十分な科学的根拠を伴う成績に乏しいが、標準体重1kgあたり1.0-1.2gを指示することが多い」となっています(科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013)。(専門家の意見)
糖尿病の人に対する指導ではありませんが、2010年日本人の食事摂取基準では、蛋白質の耐用上限量について「明確な設定根拠はない」としています。そのあとに「成人では2.0g/kg未満が適当」と書かれています。
米国の栄養指導です。
米国糖尿病学会は、以前は糖尿病患者は0.8g/kgとするのが賢明としていました。糖尿病は腎障害を起こしやすいので、「最初から蛋白質制限を」という考えです(まず守られなかった制限と思います)。
2008年に同学会は低炭水化物食を制限付き承認します。この年のガイドラインでは、蛋白摂取量は一般人の場合(15-20%)から変更する根拠がないとしています(Diabetes Care2008)。(注:低炭水化物食は今でも制限付き承認です)
同学会の一番新しいガイドラインは蛋白質の数字を挙げていません。(蛋白質制限は腎障害のある人の項目に書かれているだけです)(Diabetes Care2013)
一方、ジョスリンクリニックの栄養指導(2011)では、補正体重=標準体重+0.25x(実際の体重-標準体重)を計算し、1.2g/kg補正体重以上を指導しています。上限については、「2g/kg補正体重以上は、それを支持する根拠がない」としています(ジョスリンクリニックはボストンにある世界的な糖尿病研究施設です)。日本のガイドラインより摂取量がずっと多くなります。
糖尿病のない人の栄養ガイドラインを見ると、19歳以上では炭水化物45-65%、蛋白質10-30%、脂質25-35%の配分になっています(Dietary Guidelines for Americans 2010、1800kcalとすると蛋白質は45-135gになります)。
その他を見ますと、
2型糖尿病管理の欧州・米国糖尿病学会合同声明(2012)では数字を挙げていません。食事指導は個人に合わせるべきとなっています。オーストラリアでは10-20%の配分を勧めています。
専門家の意見が異なると、ずいぶんと異なったガイドラインになりますね。
腎障害がなければ、蛋白質の摂りすぎは(極端でない限り)気にする必要はありません。
平成25年7月24日