新型コロナ感染後の糖尿病
新型コロナに感染した後に糖尿病が増えることが分かってきました。感染した直後でなく、急性期を過ぎてから発症する糖尿病です。
最初に紹介する論文はドイツの成績です(Diabetologia 2022)。880万人の観察集団から35,865人がコロナに感染しました。この人たちを傾向スコアを一致させた35,865人のコントロールと比べています。なお30日以降のステロイド使用者を除いています。
その結果ですが、コロナ感染者の2型糖尿病発症が15.8/1000人・年、コントロールが12.3/1000人・年でした(発症比1.28)。感染してから1年たっても発症のしやすさが残っていました。2型糖尿病以外の糖尿病では特に差を認めませんでした。
2つ目の論文は米国の成績です(Lancet 2022)。退役軍人の観察集団から糖尿病でない181,280人が新型コロナに感染しました。この人たち経過を同時期と過去の2つのコントロールと比べました。
コロナ検査陽性日から中央値で352日観察しています。同時期コントロールと比較して、糖尿病発症のハザード比は1.40と増加し、超過疾病負荷が13.46/1000人・年でした。糖尿病薬使用でみてもハザード比1.85でした。過去コントロールと比較しても同じ成績でした。新型コロナ感染症の重症度が高くなるとハザード比、疾病負荷が高くなっていました。
糖尿病も「新型コロナ後遺症」のひとつであるかもしれません。
令和4年3月26日
世界からみた日本の糖尿病
新聞やテレビで「日本は糖尿病が多い」と報道されます。本当はどうなっているのでしょうか。国際糖尿病連合(IDF)から糖尿病アトラス2021が出ましたので紹介します。
日本は西太平洋地域に属します。アトラスの西太平洋地域のページを開いて、最初に目につくのは糖尿病有病率(20-79歳)で色分けした地図です。国別に比較するため、有病率は年齢補正されています。有病率の色分け区分は8%未満、8-10%、10-12%、12%以上、不明でなされています。この地域の「年齢補正糖尿病有病率」の平均は9.9%です。
日本はどこに入るでしょうか。日本は6.6%です。つまり西太平洋地域では、日本は少ない国に分類されています。ちょっとびっくりしますね。1位はフランス領ポリネシアで25.2%、2位はニューカレドニア23.4%、北マリアナ諸島23.4%です。
一方、日本の糖尿病患者数は1100万人と多く、この地域では中国の1.4億人、インドネシアの1950万人に次いで3位です。日本は高齢者の数が多いため糖尿病の患者が多くなっているのですね。
全世界でみると、年齢補正糖尿病有病率は平均9.8%(高収入国で8.4%、中収入国で10.5%、低収入国で6.7%)です。最も有病率の高い国はパキスタンで30.8%、次いでクェート29.8%、フランス領ポリネシア25.2%です。
令和4年1月27日
SGLT2阻害剤は骨折を引き起こさない
SGLT2阻害薬(スーグラ、カナグル、フォシーガ、ジャディアンスなど)は尿糖を増やして血糖を下げる薬です。
初めのころの治験で、SGLT2阻害剤は骨折を増やすかもしれないという成績がありました。しかしその後の治験で骨折リスクがはっきりせず、結論が持ち越しになっていました。
今回、SGLT2阻害剤が実際の臨床に使われて骨折リスクを認めなかったことが報告されましたので紹介します(JAMA Diabetes/Endocrinology 2021)。
2013年4月〜2017年12月に米国メディケア保険に加入していた66歳以上の人で、過去に骨折がなく、SGLT2阻害剤、DPP-4阻害剤、GLP1受容体作動薬(GLP1-RA)のいずれかを新たに開始した466,933人が対象です。
SGLT2阻害剤を開始した人が62,454人、うち45,889人に傾向スコアマッチングを行い、DPP-4阻害剤を開始した人、GLP1-RAを開始した人を1:1:1で選びました(平均年齢72歳、男性47%)。
骨盤骨折、股関節骨折、大腿骨、橈骨、尺骨の骨折を見ています。SGLT2阻害剤の骨折リスクは、DPP-4阻害剤と比較して0.90(0.73-1.11)、GLP1-RAと比較して1.00(0.80-1.25)で増えていませんでした。性別、フレイル度(脆弱の程度)、年齢、インスリン使用でカテゴリー別にみても結果は同じでした。
ほっとする成績ですね。
令和3年11月22日
果物が糖尿病発症を予防する
オーストラリアから、果物が糖尿病を予防するという論文が出ました(J Clin Endocrinol Metab 2021)。以前に「果物が糖尿病を予防する」論文を紹介していますが、同じ結論です。
今回の論文では、果物がどのように糖尿病を予防するかを調べるために、インスリン感受性(HOMA-S:インスリンの効きやすさ)とインスリン分泌活動(HOMA-β)を計算しました。HOMA-βはインスリン分泌能とみられることが多いのですが、論文ではインスリン分泌活動としています。
対象は7,625人(ADOLS:45%が男性、平均54歳)、平均12年追跡しています。追跡開始時に「果物摂取」アンケートを聞き取っています。
果物を多く摂る人では、インスリン感受性(HOMA-S)が増加し、インスリン分泌活動(HOMA-β)が減少していました。空腹時血糖、食後血糖には影響がありませんでした。
糖尿病発症についてです。果物摂取量で4群に分けています。最も食べていない第1群(平均62g摂取)と比べて、中等度に果物を摂取している第3群(平均230g摂取)では、5年経過で糖尿病の発症が36%少なくなっていました。果物ジュースには糖尿病予防効果はありませんでした。
12年経過では、糖尿病予防効果ははっきりしませんでした。食事調査は追跡開始時の1回だけであり、影響がなくなっていても当然かもしれません。
まとめますと、果物を摂るとインスリンが効きやすくなり、インスリン分泌の負担が減ります。その結果として糖尿病の発症が予防されるようです。
令和3年10月21日