院長ブログ一覧

痛風腎

尿酸は肉食過多、アルコールで増加します。ですから昔の痛風はぜいたくができる特権階級の病気でした。「庶民と生まれが違う」から痛風がおこるのであり、「痛風は貴族のあかし」とされた時代もありました(欧州の話です)。こういった幻想は商人たちの経済力が上昇し、商人階級に痛風が起こるようになって消えていき、18世紀後半には痛風は怠惰と不摂生によるものとされました。日本の痛風患者の増加は最近のことで、貴族なみの生活(?)がおくれるようになってからです。

痛風腎と称される病気がありますが、1980年代以前と以後では病気の概念が変わっているように思います。「痛風特有」の腎の病理変化も発表されたのですが、1980年代にその病理所見が痛風に特有でなく(後述)、当時痛風腎とされていた多くの症例が鉛中毒による腎障害であることが分かってきました。「痛風→腎障害」ではなく、「腎障害→痛風」だったのです。1988年に日本で国際プリンピリミジン代謝学会が開催されました。その中で、痛風腎は消えゆく病気だが、家族性若年性におこる痛風腎を忘れないでね、という発表があり、時代の移り変わりを感じました。この家族性若年性高尿酸血症性腎障害はウロモジュリン遺伝子変異による顕性(優性)遺伝疾患で、痛風腎とは別物です。

現在では高尿酸血症による腎障害は大きく3つに分類されています。

1つ目が非解離性尿酸(uric acid)による腎障害、これは主として腫瘍細胞が壊れたとき(白血病の抗癌治療時など)に大量にできる尿酸結晶が腎臓の遠位尿細管や集合管に詰まるもので、特殊な状況での合併症です。

2つ目が解離性尿酸(urate)による慢性腎障害です。尿酸結晶が腎髄質の間質にたまり、炎症を引き起こして間質の線維化や慢性腎障害をもたらします。痛風患者では腎硬化症が多く臨床的に他の腎疾患と区別することが困難です。過去に痛風結節をおこした人にみられますが、合併頻度が少なく腎生検をしないと分からないことが多いとされています。

痛風腎の概念を難しくしているのは、髄質に解離性尿酸結晶の沈着があっても、それが痛風を伴わない腎不全患者にもみられ、まれに痛風も腎不全もない患者にもみられることです。腎機能が低下すると、残っている腎糸球体当たりの濾過尿酸が増加し、集合管内の尿酸濃度が高くなって結晶形成が促進すると提案されています。

3つ目が尿路結石です。尿中尿酸の濃度、尿pHが結石形成の重要な因子です。尿酸は尿pH7だと200mg/dlまで溶けますが、pH5だと15mg/dlまでしか溶けません。ずいぶん違います。尿路結石を予防するには水をしっかり摂って尿が濃くなるのを避け、肉類を減らし野菜などをよく摂って尿pHが下がらないようにしましょう(尿pHを上げる薬もあります)。

最後になりますが、高尿酸血症をアンブレラレビューした論文(BMJ 2017)では、高尿酸血症の合併症ではっきりしているのは痛風と尿路結石だけでした。アンブレラレビューというのはメタ解析論文を集めてさらに解析する手法で、メタ解析の上位解析になります。


令和6年4月3日

痛風患者の目標尿酸値

痛風を治療している時の尿酸目標値については、ガイドラインが一定していません。

米国リウマチ学会のガイドライン、日本痛風・核酸代謝学会のガイドラインは6mg/dl未満の目標を設定しています。

ところが、米国内科学会のガイドラインは「尿酸を測定して経過を追う」ことを推奨していません。測定した方が良いというエビデンス(確固とした証拠)が不十分なのだそうです。

そのため、米国の家庭医を受診する痛風患者の多くは尿酸の経過が分からないそうです。

最近、痛風治療中の尿酸値と痛風発作の関連を検討した成績が発表されました(JAMA 2024)。今更という気がしますが、先にのべた事情があるようです。

UK Biobankに登録している痛風患者3,613人(平均60歳、86%が男性)が対象で、平均8.3年追跡中に1,773回の痛風発作が起こりました。1,679回の痛風発作(95%)は尿酸が6mg/dl以上の人に起こっています

1000人・年でみますと、
6.0-6.9mg/dl --- 40.1 人・年
7.0-7.9mg/dl --- 82.0 人・年
8.0-8.9mg/dl --- 101.3 人・年
9.0-9.9mg/dl --- 125.3 人・年
10.0mg/dl-    --- 132.8 人・年

発作リスクでみますと、
-6.0mg/dl     --- 1.0
6.0-6.9mg/dl --- 3.37
7.0-7.9mg/dl --- 6.93
8.0-8.9mg/dl --- 8.67
9.0-9.9mg/dl --- 10.81
10.0mg/dl-    --- 11.42

尿酸が1mg/dl増加する毎に痛風発作のリスクが1.61倍になっていました。

痛風治療中の方は尿酸6mg/dl未満(98%予防のためには5mg/dl)を維持するのがよいでしょう

なお上にあげた米国のガイドラインは、痛風を発症していない高尿酸血症の人に尿酸低下薬を処方しないことを勧めています。英国やオーストラリア・ニュージーランドのガイドラインも同様です。

日本のガイドラインは、エビデンスが少ないとしながら、「状況に応じて薬物治療を開始する」としています。専門家の意見が分かれていますね。


令和6年2月15日

成人期のどの時期の運動でも運動した人は認知症が少ない

運動が将来の認知症予防に役立つことが知られています。しかし、人生のどの時期の運動が良いかについては、あまりよく分かっていませんでした。

今回、人生のどの時期の運動でも、どの程度の運動でも認知症予防に効果があるとする研究が発表されましたので、紹介します(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2023)。

対象は1417人(53%が女性)、イギリスに1946年に生まれた人のコホート(1946 British birth cohort)です。余暇時間の運動(スポーツあるいは激しい身体活動)について、36-69歳の間に5回聞いています。認知機能は69歳時に検査しています。

運動回数によって、非運動(0回/月)、中等度運動(1-4回/月)、多く運動(5回以上/月)の3群に分けました。

運動している人は運動していない人に比べて、69歳時の認知機能は高い結果でした。認知状態、言語メモリーはどの時期の運動(36, 43, 53, 60, 69歳)でも、中等度運動群と多く運動群で同じように高くなりました。さらに運動の総量と用量依存的に関連していました。

最も良い結果は、全ての時期も通じて運動を行っていた人でした。全時期に運動している人は全く運動していない人と比べると、ACE-IIIスコア(Adenbrooke's Cognitive Examination)で4点の差が出ています。この検査は100点満点で認知症カットオフ値が88点とされていて、4点の差は大きな差かもしれません。

思い立ったが吉日です。運動はいつの時期でも良い効果があります。ぜひ運動しましょう。


令和5年4月1日

よく運動する人はぼけにくい

よく運動する人ほど重症認知症が少ないようです。日本人のデータが出ましたので、紹介します(JAMA Network Open 2022)。

日本8地域の43,896人(JPHC-Study)を対象に分析しています。中央値9.5年経過観察し、5,010人が重症認知症を発症しています。

身体活動の多さで4群に分けています。最も運動する群(第4分位)の重症認知症リスクは、最も運動しない群(第1分位)に比べて、男性で0.75(0.66-0.85)、女性で0.75(0.67-0.84)でした。

「中等度以上の運動」でみても、同様の結果でした:男性0.74(0.65-0.84)、女性0.74(0.66-0.83)。

「余暇時間の中等度以上の運動」でみると、それぞれ0.59(0.53-0.67)、0.70(0.63-0.78)でした。

観察開始から男性で7年間、女性で8年間に認知症になった人を除くと、身体活動と認知症の関連が認められなくなり、因果の逆転バイアス(認知症が強くなると運動しない)の可能性も考えられました。

しかし「余暇時間の中等度以上の運動」では、9年間に認知症になった人を除いても運動量と重症認知症の逆相関が認められました。

まとめますと、身体活動が多いほど重症認知症が少なく、「余暇時間の中等度以上の運動」が最も認知症リスクの低減に関連していました。

「余暇時間の中等度の運動」では、第3分位の運動量でも認知症リスクは男性0.65(0.57-0.74)、女性0.76(0.68-0.85)と低下していました。第3分位の運動量は男性で0.9、女性で0.8MET-h/日です(MET-h/日は聞き慣れない単位ですが、速足が3METsの運動、毎日20分速足すれば1MET-h/日になります)。

糖尿病の運動療法の目安は「速足20分(80kcal消費)を1日2回、週5日」です。この論文にあてはめますと、目安運動量で重症認知症を予防しています。ぜひ運動を続けましょう。


令和4年4月26日

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