超加工食品で糖尿病が増える
以前に、超加工食品は食べ過ぎてしまうきらいがあり、心血管系疾患のリスクになることを紹介しました。今回、超加工食品は2型糖尿病のリスクにもなることを紹介します(JAMA Internal Med 2019)。
超加工食品の定義はあいまいですが、スーパーに並んでいる大量生産された加工食品はほとんどが超加工食品であり、ありふれた食品です。
今回紹介する論文はフランスのNutriNet-Sante研究で、参加人数は104,707人(18歳以上)、中央値で6.0年観察しています。摂取食品は複数回(平均5.7回)の食品アンケート(3500項目)で調査しています。多変数で補正した後の成績です。2型糖尿病のリスクは超加工食品が食事に占める割合が10%増える毎に1.15と増加していました。これは前回紹介した心血管系疾患リスクと同じ程度の増加です。
超加工食品の絶対量(g/日)でも検討していますが、これも糖尿病リスクと関連していて、この関連はたとえ未〜低加工食品摂取量で補正しても認められます。
いろいろな超加工食品をひとまとめにして論じていますので、具体的にその何がどう悪いのかは分かりません。きっと手軽でおいしすぎるんだろうと思います。また同じ食品でもインスタント食品はGI値(炭水化物量当たりの血糖の上昇しやすさ)が高くなります。
この論文を読んでいて、簡単に食べ物が手に入る環境(食品店の多さ)と成人糖尿病の関連を調べた論文(BMC Public Health 2017)を思い出しました。周囲に食品店が多くなると糖尿病リスクが増えるのです。もっとも、この関連は、余分な食品を買えるか買えないかの経済的な問題もあり、貧しい集団ではリスク増加がありません。
令和元年12月20日
極端な低炭水化物食はやはり身体に悪い
昨年、炭水化物を減らし過ぎると死亡が増えることを紹介しました。最近、米国国民健康栄養調査の論文が発表されましたが、同様の内容です(Eur Heart J 2019)。この論文ではこれまで発表された論文のメタ分析もしています。
対象は米国国民健康栄養調査(1999-2010)の24,825人、平均観察期間が6.4年です。炭水化物摂取量を4分位に分けて分析しています。結果をみますと、炭水化物の摂取が最も少ない群(炭水化物が39%)は最も多い群(同66%)に比べて、総死亡が32%、心血管病死亡が50%、脳血管疾患死亡が51%、癌死亡が36%多くなっていました。肥満のない人の方が低炭水化物食の影響が強く、総死亡は肥満なしの人で48%、肥満の人で19%多くなっていました。
メタ分析の対象は9論文で合計462,934人、平均観察期間16.1年です。メタ分析でも低炭水化物食群で総死亡リスクが1.22と多くなっていました。
メタ解析した9論文をみると、実は1編だけ結論が異なっています。この論文は日本の論文(Brit J Nutr 2014. NIPPON DATA80:対象9200人、経過観察期間29年間)で、低炭水化物食群(炭水化物が51.5%)が高炭水化物食群(同72.7%)に比べて、心血管系死亡・全死亡のリスクが減っていました。
結論が異なった理由ですが、食事背景が他の論文と異なっているからと考察されています。我が国は炭水化物摂取の割合が多く、低炭水化物食でも炭水化物の割合が50%を超え、他国の低炭水化物食の域にありません。以前に紹介したPURE研究では、炭水化物が50-55%のときに最も死亡リスクが少なくなっていました。その他にも低炭水化物食にするのに増減する食物の種類が異なる、社会階層が違うことも影響しているかもしれません。
麺類などが好きで炭水化物がとても多い方は、炭水化物を50-55%くらいまで減らす(1980年頃の低炭水化物食)のが良いのかもしれません。極端な低炭水化物食は良くないようです。
令和元年12月18日
メトホルミン以外の糖尿病薬と認知症予防効果
3ヶ月前にメトホルミンの認知症予防効果についてお話しましましたが、メトホルミン以外の薬にも認知症予防効果がありそうなことが報告されました(Eur J Endocrinol 2019)。
対象はオランダ国民糖尿病レジスターに登録された2型糖尿病患者176,250人で、コホート内症例対照研究です。1995-2012年に登録を行い、2018年5月まで観察しています。観察期間中に認知症を発症した人は11,619人、それぞれの認知症患者1人につき4人の対照(認知症のない人)を設定しました。
使ったことのある糖尿病薬を「インスリン」「メトホルミン」「SU剤あるいはグリニド剤」「グリタゾン系」「DPP-4阻害薬」「GLP-1製剤」「SGLT2阻害薬」「アカルボース」に分け、認知症発症に影響のありそうな変数を補正して検討しました。
結果ですが、メトホルミン、DPP-4阻害薬、GLP-1製剤、SGLT2阻害薬の服用歴のある人の認知症オッズ比は、それぞれ0.94 (0.89-0.99)、0.80 (0.74-0.88)、0.58 (95%CI 0.50-0.67)、0.58 (0.42-0.81)でした。
オッズは「見込み」のことです。薬のあるなしで「疾患の見込み」がどのくらい変わるか、割り算して比をとったのが、オッズ比です。オッズ比が低いことは「疾患の見込み、今回の場合は認知症の見込み」が低いことを意味します。
症例対照研究ですので、「こういった薬を使うと認知症が抑制される」とまで言えないのですが、GLP-1製剤、SGLT2阻害薬は良さそうに見えます。次の研究に期待したいですね。
令和元年11月21日
糖尿病と鶏卵の介入試験
過去10年間に発表された「糖尿病と鶏卵の論文」を解析したメタ分析論文(Eur J Clin Nutr 2018)では、
(1) 介入試験では鶏卵には心血管系疾患リスクがない。
(2) 観察研究で同リスクが指摘されるが、そのリスクは鶏卵そのものでなく、鶏卵摂取に付随した他の因子の影響だろうと結論付けています。
2型糖尿病患者と鶏卵の総説(Nutrients 2019)も、観察研究について同様の説明をしています。この論文では「鶏卵の動脈硬化予防効果」を述べ、鶏卵のどの成分が良い働きをするか、仮説をまとめています:卵白加水物、ルテイン・ゼアキサンチン、コリン、鶏卵由来ペプチドが研究されているそうです。
代表的な介入試験、DIABEGG研究を紹介します。DIABEGG研究はオーストラリアで行われました。まず観察期間3ヶ月の成績が発表され(Am J Clin Nutr 2015)、次いで観察期間12ヶ月の成績(Am J Clin Nutr 2018)が発表されました。参加人数は128人です。結果ですが、鶏卵摂取(朝食時に2個)は、糖尿病患者の心血管系疾患のリスク因子(血糖コントロール、血清脂質、炎症マーカー、酸化ストレス、アディポネクチン)に影響しませんでした。
米国で行われた介入試験も紹介しておきます(Food Funct 2018)。42人の過体重〜肥満の糖尿病予備軍〜糖尿病の方(40-75歳)が対象です。「鶏卵1個を12週間食べる」と空腹時血糖が4.4%減少し、インスリン抵抗性(HOMA-IR)が改善しました。HDLコレステロールに関連するアポ蛋白A1、ABCA1が増加し、LDLコレステロールの変動は有意でありませんでした。結論は「毎日1個の鶏卵は糖尿病リスクを減らし、脂質に悪影響を与えなかった」です。
介入試験は残念ながら観察期間が短く、代替指標を用いていて、説得力が少し弱いところがあります。そのため「鶏卵全面解禁」にはもう少し研究が必要でしょう。鶏卵の厳しい制限は不要かもしれませんが、原則は健康的な食事として食べることです。
令和元年10月25日