若い頃のコレステロール (続)
若い時のコレステロールが動脈硬化に大きく関連するという研究は昨年も発表されています(J Am Coll Cardil 2020)。
4,958人(18-30歳)を1985-1986年に登録し、16年追跡した研究(CARDIA)です。
275人が心血管疾患を発症しています。LDLc暴露面積(LDLcx年)のハザードリスクは1.053(100mg/dlx年ごと)、LDLc勾配とは0.797(mg/dl/年ごと)でした。LDLc暴露量が平均より多く、年齢とともにLDLcが下がっている人が最も多く心血管疾患を発症していました。
若い時のLDLcの方が影響が強く、動脈硬化を予防するには若い時期からLDLcをコントロールする必要がありそうです。
日本人で考えてみますと、「今の高齢者」が若い頃は、コレステロール値が低めでした。「今の若い人」は同年齢の米国人よりコレステロール値が高くなっています。若い人の食育は大切に思います。
動脈硬化疾患はこれからどんどん増えていくかもしれません。
令和3年10月11日
若い頃のコレステロール
LDLコレステロール(LDLc)が高くなると、動脈硬化が促進します。中年以降になってLDLc値を気にされる方が多くなりますが、実は若い頃のLDLcも大切です。
米国4つのコホートを合わせて解析した論文が発表されましたので紹介します(JAMA Cardiol 2021)。
対象は18,288人、平均56.4歳(56.4%が女性)、平均追跡期間16年です。18-60歳の間に2年以上の間隔で少なくとも2回LDLcを測定し、40-60歳で1回以上のLDLcを測定した人たちです。
心血管疾患が1165例、脳梗塞が599例、心不全が1145例、起こっています。最も近い採血でのLDLcで補正した場合のハザードリスクを計算しますと、最も高値群と低値群の比較で、
累積暴露LDLcで1.57(P=0.01)、時間荷重平均LDLcで1.69(p<0.001)でした。LDLc勾配とは無関係でした。心不全や脳梗塞とは関連が認められませんでした。この成績は若い時のLDLcコントロールが将来の心血管疾患予防に大切なことを示しています。
高コレステロール血症の治療では10年間の虚血性心疾患リスク(吹田スコア)をみることが多いのですが、もっと長い時間の影響を考えるのが良いかもしれません。
令和3年10月11日
インフルエンザ予防接種の勧め
昨年度、インフルエンザはほとんど流行しませんでした。新型コロナウイルスの予防策「3密を避ける」行動がインフルエンザの流行を抑えたと考えられています。
今年になっても、春夏が流行期である南半球で流行が抑えられています。オーストラリアのインフルエンザ患者数は500例足らずで、例年の30万人に比べてごく少数に留まりました。
一方インドでインフルエンザが出ているようです。西アフリカでもインフルエンザ流行が報告されています。インフルエンザはなくなったわけでなく、一部でくすぶっているようです。
米国でのインフルエンザ流行予測が報告されました。まだ査読前の論文ですが、例年より大きなインフルエンザ流行が数理モデルで予測されています。そのシナリオによると、インフルエンザで入院される方が10万2000人(5万7000〜15万2000人)です。また小さなお子さんで大きくはやる可能性も指摘されています。
昨年度インフルエンザの流行がなく、免疫を持つ人が少なくなっている、というのが流行が大きくなる原因です。
コロナ流行が下火になり(減ってくるのはうれしいですが)、3密を避ける行動が緩んでくると、インフルエンザがはやりそうです。インフルエンザワクチンの接種をお勧めします。
令和3年10月8日
糖尿病の新しい薬 ツイミーグ
糖尿病の新しい薬(ツイミーグ:イメグリミン)が認可直前です。
ツイミーグはメルク・セローノ社が作りました。ポクセル社に特許が渡され、ポクセル社から大日本住友製薬が導入して薬が開発されました。
ツイミーグは全く新しい構造の薬(グリミン:テトラヒドロトリアジン系)です。メトホルミンと似た構造を持っていてメトホルミンと良く似た作用を持ちますが、独自の作用があります。
ツイミーグはNAD+合成酵素とミトコンドリアに作用して薬効を示すと考えられます。膵β細胞に働き、ブドウ糖濃度に依存したインスリン分泌を促します。膵臓以外の作用では、肝臓に働いて糖新生を抑え、筋肉に働いて糖の取り込みを促進します。
注目されるのがミトコンドリアの保護作用です。ミトコンドリアは細胞の中にあって、酸素を使ってエネルギーを産生する小器官です。ツイミーグは活性化酸素の産生を抑え、ミトコンドリアDNAを増やし、ミトコンドリア機能を改善します。
ツイミーグの副作用としては、悪心、下痢、便秘(1〜5%未満)などがあります。低血糖(6.7%)も報告されています。消化管症状が多いことはメトホルミンと似ていますね。また腎機能の悪い人には使えません。
作用機序をみるととても期待できる薬です。
令和3年9月4日