14種類の食事療法の分析:食事療法の効果は長続きしない?
今回紹介するのは食事療法に関する論文121編をまとめた成績です(BMJ 2020)。これまでにいろいろな食事療法が論文として発表されています。今回の論文は14種類の食事療法のまとめです。
論文には全体で21,942人が参加しています。検討した食事療法を大栄養素(炭水化物、脂質、蛋白質)の配分で分類しますと、(1) 低炭水化物食に分類される食事療法が3種類、(2) 低脂肪食に分類されるものが2種類、(3) 中庸栄養配分食に分類されるものが8種類でした。
「旧石器時代食」は論文によって栄養配分が異なり、低炭水化物食に分類されるものと、中庸配分食に分類されるものがありました。
6ヶ月の時点で判断すると、低炭水化物食と低脂肪食は通常食に比べて同程度の体重減少(4.63kgと4.37kg)を来し、同程度の収縮期血圧低下(5.14mmHgと5.05mmHg)、拡張期血圧低下(3.21mmHgと2.85mmHg)を認めました。
低炭水化物食や低脂肪食に比べると、中庸配分食では体重の減少(3.06kg)や血圧低下がやや少ない(収縮期血圧3.48、拡張期血圧1.88mmHg)成績でした。
LDLコレステロール減少は、低脂肪食(7.08mg/dl)、中庸配分食(5.22mg/dl)で大きくなりました。低炭水化物食では減少傾向にとどまりました(1.01:-2.96〜4.96mg/dl)。
どの食事療法もHDLコレステロール、CRPの有意な改善を認めませんでした。
12ヶ月経つと、減量効果はどの食事療法でも小さくなりました。また地中海食を除いて心血管系リスク改善もほぼ消失しました。
ネットワーク分析では、6ヶ月の時点で食事療法に違いを認めましたが、その差は小さく、12ヶ月後ではほとんど無視できるくらいになっていました。
どの食事療法も最終的にほぼ同じと読めますが、安全性と実行性は別に考える必要があるかもしれません。この論文ではありませんが、初期に大きな減量を来す食事療法はバランスを崩す可能性が指摘されています。
「日本食」が検討されていないことが残念ですね。
令和2年9月24日
プロトンポンプ阻害剤(胃酸分泌抑制剤)と新型コロナウイルス感染
プロトンポンプ阻害剤(PPI:胃酸分泌抑制剤、ランソプラゾール、ラベプラゾールなど)とコロナウイルス感染の論文が発表されました。初めは短報としてオンライン掲示されたものですが、多くの人の興味を引いたため、分析を追加し、討論内容を深めて大きな論文として再発表されたものです(Amer J Gastroenterol)。
最初の短報では3人の専門家が査読(論文審査)していました。再審査にあたり、外部査読者が2人追加されています。査読者以外にも、短報の読者から批判的吟味がなされています。さらにAmer J Gastroenterolは全データセットを送ってもらい、著者とは別の統計学者2人に分析を依頼しています。審査体制は万全です。
論文の内容は単純です。新型コロナウイルスとよく似たSARS-CoV-1ウイルスは、酸性環境(pH<3)で感染力が抑えられます。著者らは新型コロナウイルスでも同じではないかと考えました。PPIは胃酸分泌を抑えて胃内pHを上げます。そこでPPIの影響を見たところ、PPI服用者で新型コロナウイルスの感染が増えていることが観察されました。
参加者は53,130人、そのうち3,386人がコロナ陽性でした。PPIを1回/日服用している人で2.15倍、2回/日服用している人で3.67倍ほどコロナウイルス陽性者が多くなっていました。なおH2ブロッカー(胃酸分泌抑制剤:ガスター、ラフチジンなど)ではリスクの増加を認めませんでした(むしろ減少傾向)。
PPIは1回/日が原則の薬です。ところが処方医が2回/日で処方したり、また薬局で購入して自己判断で2回/日服用しています(米国では薬局で買える薬です)。2回/日以上服用している人の8割は、逆流性食道炎の症状悪化なしに1回/日に減量可能だそうです。著者の勧めはPPI減量、またはH2ブロッカーに変更です。PPIとコロナ重症度の関連を検討した研究が次に望まれます。
必要があって処方されているPPIは継続して服用して下さい。
令和2年9月10日
スタチン(コレステロール低下薬)とコロナウイルス感染症
コレステロールを下げる薬として、スタチン(プラバスタチン、ピタバスタチンなど)があります。我が国で開発され、心筋梗塞など動脈硬化性疾患を減らす効果が強く、副作用が少なく、評価の高い薬です。
スタチンはコロナウイルス感染症と関係がなさそうですが、新型コロナウイルス感染症の重症化を抑制する、あるいは促進するという2つの見解がありました。今回メタ分析の結果が報告されましたので、紹介します(Amer J Cardiol)。
2020年7月27日までにコロナウイルス感染症とスタチン使用に関連する論文は274編出版されています。この中から良質の論文を探すと4編の論文が抽出されました。うち3編は大規模研究で多変量で交絡因子を調整しています。
総勢8,900人の新型コロナウイルス患者さんの分析になります。スタチン服用者の重症化〜死亡リスクは非服用者と比べて0.70(0.53-0.94)と低くなっていました。スタチンによる重症化促進作用は否定的でした。
これが本当なら魅力的な結果ですね。ただスタチンのリスク減少効果をはっきり言うには前向き介入試験が必要です。ぜひ次の研究を期待したいです。
令和2年8月30日
糖尿病と新型コロナウイルス感染症
糖尿病があると新型コロナウイルス感染症が重症化しやすいことが知られています。調査対象を糖尿病患者さんに絞った詳しい分析が報告されましたので紹介します。英国の糖尿病患者さんの98%が含まれる膨大なデータの解析です(Lancet 2020)。
調査期間は2月16日〜5月11日です。英国で一般診療を受けている1型糖尿病264,390人、2型糖尿病2,874,020人のうち、それぞれ464人、10,525人が新型コロナウイルス感染症で亡くなりました。
超過死亡も急増しています。超過死亡というのは、普段の年よりどのくらい亡くなられる人が増えているかを見たものです。大ざっぱですが、他の病気が増えていないと仮定した場合「コロナと診断がつかずに亡くなられた人も含む指標」になります。その超過死亡ですが、糖尿病患者の死亡者数は過去3年の同時期と比べて1型糖尿病で50.9%、2型糖尿病で64.3%増えています。
新型コロナウイルス感染で亡くなるリスクが高いのは、男性、高齢、腎障害、非白人、貧困、脳卒中既往、心不全既往がある人です。
男性は女性より重症化しやすく、1型、2型糖尿病とも男性の危険率は1.61でした。年齢の影響はとても大きく、60歳代の人を基準にすると、70歳代の危険率は1型糖尿病で1.89、2型糖尿病で1.94、80歳以上では1型糖尿病で4.79、2型糖尿病で4.52でした。
糖尿病コントロールが悪いのも良くありません。HbA1c7.6%以上で死亡リスクが高くなりました。HbA1c 6.5%の人に比べて、HbA1c10%超の人の危険率は1型糖尿病で2.23、2型糖尿病で1.61でした。
BMI(体格指数:体重kg/(身長mx身長m))の危険率はU字型を示し、痩せすぎと肥満で高くなりました。最もリスクが低いのがBMI25.0-29.9でした。英国では肥満が悪いとして、コロナの重症化リスクを下げる政策:肥満解消キャンペーンをしています。
なおBMIについてはちょっと注意が必要です。日本人はそれほど太ってなくても肥満の影響が出ます。そのため肥満の基準は日本では欧米より厳しくなっています(日本ではBMI25以上、欧米では30以上が肥満)。コロナウイルス感染症において日本ではどちらの数字で考えるのが良いかは分かりません。
令和2年8月28日