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糖尿病と認知症 (1)

認知症でもっとも多い病気はアルツハイマー病です。糖尿病でアルツハイマー病が増えるかどうかはホットな話題です(脳血管性認知症が糖尿病で増えることは確実ですが、アルツハイマー病はまだ結論がついていません)。認知症の疫学研究で難しいのは、認知症の分類診断です。

我が国では久山町研究という素晴らしい研究があります(Neurology 2011)。久山町研究は、受診率80%、剖検率80%、追跡率99%以上と世界に類を見ません。全員にブドウ糖負荷試験をして耐糖能を調べています。剖検(死後の解剖)をしていますので、認知症の分類もしっかりしています。1,017人、15年間の観察です。


結果ですが、糖負荷後の血糖が境界域(140mg/dl〜)からアルツハイマー病と関連していました。空腹時高血糖はアルツハイマー病と関連していませんでした。脳血管性認知症は耐糖能状態が悪化すると増加していました。


別の論文ですが、糖尿病とアルツハイマー病には関連がないと報告がありました(JAMA Neurology2013)。アルツハイマー病の診断は、剖検(集団1)あるいは11C-PiBを用いたPET検査(集団2)で行っています(剖検は死後の解剖。11C-PiBは放射線を出す標識を使った生体検査で、生きている時にアルツハイマー病の原因とされるβアミロイドの負荷を調べます)。この論文は、アルツハイマー病の診断はしっかりしていますが、集団1が197人、集団2が53人と、人数が少ないのが難点です。


その結果は「アルツハイマー病は耐糖能異常、インスリン抵抗性と関連がありません」でした。また明らかな糖尿病があっても、アルツハイマー病の病理スコアは変わりませんでした。つまり「アルツハイマー病には糖尿病の影響がない」と結論されます。


今回紹介した論文は、両方ともアルツハイマー病の診断がしっかりしています。はたしてどちらが正解でしょうか。


平成25年8月31日


アルツハイマー病の中に、「アミロイドβの負荷が少なく神経原線維変化が進行する」特殊な糖尿病関連認知症がありそうです。剖検は死後の評価(最終段階)で、生前検査であるPET検査(途中経過)と異なる時期をみている可能性があります。

平成27年2月20日追記

飽和脂肪酸と動脈硬化:乳製品がすべて悪いわけでない

飽和脂肪酸はLDLコレステロール(LDLc)を上昇させますが、一方でHDLコレステロール(HDLc)も上昇させます。LDLcが増加すると、動脈硬化リスクが増加します。HDLcが増加すると、動脈硬化リスクが減少します。飽和脂肪酸を炭水化物に交換すると、HDLcが低下します。そのため、「飽和脂肪酸が動脈硬化を促進するかどうか」を判定するにはLDLcではなく、心血管イベントや死亡など、もっと確固とした評価項目で評価する必要があります。

乳製品には飽和脂肪酸が豊富に含まれています。しかし乳製品と動脈硬化の関連を検討した最近の論文を見ますと、乳製品すべてが悪いわけではなさそうです。全乳製品摂取は心筋梗塞リスクと逆相関するという論文がいくつかあります。結論が少し相反する論文もありますが、おおよそをまとめると、チーズ、発酵させた乳製品がリスクを減らし、バターがリスクを上げるようです。

スエーデンの女性を対象にした研究(乳腺撮影コホート、J Nutr2013)では、33,636人(48-83歳)、11.6年観察しています。全乳製品摂取と心筋梗塞リスクは逆相関(HR0.77:五分位両端比較)、チーズ摂取が逆相関(同 0.74)、パンに塗るバターが正相関(同 1.34)でした。

同じくスエーデンの成績ですが、別の論文(Eur J Epidemiol2011)では、26,445人(44-74歳、女性が62%)、12年観察しています。全乳製品摂取は心血管系疾患と逆相関しました。個々の乳製品でみると、発酵乳のみが逆相関(15%減少)、チーズは女性でのみ有意に逆相関でした。

Epic-Potsdam研究は乳製品に絞った研究でありませんが、23,531人、8年観察しています。主要慢性疾患(心血管系疾患+糖尿病+癌)で評価しています。結果は、バター摂取は慢性疾患の増加と関連(Eur J Clin Nutr2013)。

動脈の硬さを指標にした研究では、乳製品はバターだけが悪影響と関連していました(Hypertension2013)。



低脂肪乳を使ったヨーグルトは通常のヨーグルトよりリスクを下げるでしょうか。興味があるのですが、よくわかっていません。乳製品ではバターを控えるのが賢明のようです。

注:
  正相関:一方の因子が増加すると他方が増加し、減少すれば他方が減少する関係
  逆相関:一方の因子が増加すると他方が減少し、減少すれば他方が増加する関係


平成25年8月22日

降圧剤(カルシウム拮抗薬)と乳癌

糖尿病の人が高血圧症になった時、よく選ばれる薬はアンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACE-I)、アンギオテンシン受容体阻害剤(ARB)です。この2つの薬剤はレニン・アンギオテンシン系に働き、腎保護作用があります。レニン・アンギオテンシン系は、腎臓から分泌されるレニンと、血中にある基質アンギオテンシノーゲン(アンギオテンシンに変換される)からなる血圧や電解質の調節機構です。アンギオテンシン変換酵素阻害剤・アンギオテンシン受容体阻害剤の次によく使われる薬がカルシウム拮抗薬(CCB)あるいは少量の降圧利尿薬です。

CCBはもともと狭心症に使われていましたが、降圧剤としても使われるようになりました。最初の頃は短時間で効果が切れ、かえって心筋梗塞を引き起こす可能性がありましたが、作用が長く続く薬が開発され、よく使われるようになりました。

CCBが癌と関連するという成績がありました。1996年に初めて報告され、ついで1997年にも報告されています。この2つの成績は少人数の研究でした。その後に大規模研究が行われ、「関連しない」報告が続いてこの問題は忘れられていきました。

今回、長期間大規模研究の結果が発表され、忘れていた問題が掘り起こされました(JAMA2013)。この研究は、症例対照研究で、1907人の乳癌症例と856人の対照を比べています(55-74歳)。CCBを10年以上服薬している人で、乳管癌が2.4倍、小葉癌が2.6倍のリスクでした(CCBの種類を問いませんでした)。一方で、利尿剤やβ遮断剤、アンギオテンシンⅡ阻害剤はリスクと関連しませんでした。

こういった報告を読むときに大切なことは、あわてないことです。症例対照研究という分析法は、方法の特性として分析間違いがおきる可能性があります。関連があったり、なかったりといろんな内容の論文が入り混じる微妙な時は、この分析法で最終結論は出せません。丁寧に考えて分析していますが、結論を出すにはこの内容を確認する次の研究が必要です。


平成25年8月22日

女性の心血管系疾患

女性は閉経後に動脈硬化が進行しやすくなり、男性に追いついていきます。心血管系疾患は男性に多い病気という印象がありますが、しっかりと女性の病気です。死亡原因をみると、心血管系疾患で亡くなる方は女性も男性と同じくらいなのです。ヨーロッパで例外はフランス、オランダ、スペインくらいです(Diabetologia2013)。動脈硬化は女性の病気でもあるのです。

日本の人口10万人当たりの死亡率を紹介します(平成20年)。心血管死亡率は男性140.1、女性148.4人です。脳血管死亡率は男性99.4、女性102.1人です。脳+心血管疾患の死亡率(合計)は男性239.5、女性250.5となり、ほぼ同数です。(参考:悪性疾患の死亡率は、男性335.8、女性211.6人)

糖尿病は動脈硬化を促進させます。糖尿病があると心筋梗塞後の方と同じくらいに(2-3倍ほど)動脈硬化が起こりやすくなります。そして、糖尿病の影響は女性のほうが男性より大きいことが知られています。

なぜ女性で影響が強くなるのか、はっきりしていません。「女性では男性より肥満が強くならないと糖尿病にならないからだ」と提案する人もいます。この意見に従えば、糖代謝に付随する代謝異常が女性の方が強いからということになります(Diabetologia2013)。


平成25年8月6日

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