院長ブログ一覧

スタチンのノセボ効果

以前に、スタチン(コレステロール低下薬)のノセボ効果を紹介しました。ノセボ効果は「薬そのものが悪い」のでなく、「薬が悪いという思い込み」で副作用症状がでることを言います。

ノセボ効果を起こした人に薬を再投与した論文(NEJM 2020)が発表されましたので紹介します。

スタチンを開始して「2週間以内に副作用症状が出て服用を中止した」60人が対象です。なおCK上昇を伴う筋肉痛(横紋筋融解を疑う所見で重篤副作用)の人は対象から除かれています。

この人たちに偽薬を含めてもう一度スタチン(リピトール:アトルバスタチン)を服用してもらいました。具体的には、「実薬」「偽薬」「無薬:実薬も偽薬もなし」の3通りを順不同で、それぞれ1ヶ月続けてもらいました。

副作用症状のスコアは、偽薬時15.4(12.1-18.7)、実薬時16.3(13.0-19.6)、無薬時8.0(4.7-11.3)でした。無薬時と比べると、偽薬時も実薬時も同等に症状が発現し、偽薬と実薬の間には有意差がありませんでした。

この研究の終了後、30人がスタチン服用を再開しました。ノセボ効果に納得して薬を再開した人が半数いることになります。また4人が再開予定です。1人は追跡できませんでした。

残り25人はスタチンを再開しませんでした。その内訳は「副作用が気になる」18人、「コレステロールが改善してスタチンが不要になった」が4人、「スタチンがそれほど効かなかった」が1人、「新たに神経変性疾患を発症してスタチンどころでない」が1人、「高齢だから治療しない」が1人でした。

ノセボ効果は49.1%の人に見られるとされ、ありふれた効果です。「副作用かな」と感じたら主治医とよく相談することをお勧めします。


令和2年11月30日

SGLT2阻害薬の心血管系保護作用

SGLT2阻害薬(カナグル、フォシーガ、ジャディアンスなど)は尿糖を増やして血糖を下げる薬です。

これまで無作為試験でSGLT2阻害薬に心血管系保護作用があることが報告されていましたが、実際の臨床の場でも保護作用が確認されました(BMJ 2020)。

カナダ7州とイギリスの2013-2018年の臨床データの解析です。SGLT2阻害剤を初めて処方された209,867人と、処方傾向をマッチさせたDPP-4阻害薬処方の209,867人の比較です。

DPP-4阻害薬(ジャヌビア、エクア、ネシーナ、トラゼンタ、テネリアなど)はインクレチンの働きを高めて血糖を下げる薬です。DPP-4阻害薬は東アジア人で効果が高いことが知られています。

主要評価項目はMACE(主要心血管イベント:心筋梗塞+脳梗塞+心血管死)です。二次項目がMACEの個々のイベント、心不全、全死亡です。観察期間は0.9年です。

結果ですが、MACEのリスク比0.76(心筋梗塞0.82、心血管死0.60)、心不全0.43、全死亡0.60と各項目のリスク比が減少していました。またSGLT2阻害薬(カナグル、フォシーガ、ジャディアンス)の薬物間の差を認めませんでした。

脳梗塞についてはリスク比0.85(0.72-1.01)と減少傾向にありましたが、有意差がありませんでした。SGLT2阻害薬は脱水を来して脳梗塞が増える怖れがありましたが、その心配はなさそうです。

この研究でSGLT2阻害薬のMACE抑制効果がさらにはっきりしたことになります。


令和2年11月25日

やっぱり運動は身体に良い

新型コロナウイルスの流行で運動量が減り勝ちになっていませんか。

通りですれ違うくらい程度ならコロナ感染リスクは高くありません。運動不足は身体に良くありません。裏通りなど人の少ない場所の散歩はいかがでしょうか。人の姿が見えない時はマスクも外せます。軽い筋トレもお勧めです。歩くだけでは転倒を防げません。運動メニューに軽い筋トレを加えましょう。

米国の成績ですが、59,819人の8.75年にわたる観察から「余暇時間の運動が全死亡、特定疾患(心血管系、癌、下気道)による死亡を大きく減らす」と報告されました(BMJ 2020)。全死亡でみると、心肺トレーニングでハザード比0.71、筋トレで0.89です。両方の運動を行った人は0.60まで低下しています。

アジア人では運動の研究が少ないかもしれません。今年のヨーロッパ糖尿病学会で台湾の成績が発表されています。対象は4859人の2型糖尿病患者です。中等度の運動(800kcal/週)で全死亡リスクが0.75、激しい運動(800kcal以上/週)で0.68に低下していました。

無理な運動は避ける必要がありますが、少しずつ身体を動かしてみましょう。きっと良いことがあります。


令和2年10月6日

14種類の食事療法の分析:食事療法の効果は長続きしない?

今回紹介するのは食事療法に関する論文121編をまとめた成績です(BMJ 2020)。これまでにいろいろな食事療法が論文として発表されています。今回の論文は14種類の食事療法のまとめです。

論文には全体で21,942人が参加しています。検討した食事療法を大栄養素(炭水化物、脂質、蛋白質)の配分で分類しますと、(1) 低炭水化物食に分類される食事療法が3種類、(2) 低脂肪食に分類されるものが2種類、(3) 中庸栄養配分食に分類されるものが8種類でした。

「旧石器時代食」は論文によって栄養配分が異なり、低炭水化物食に分類されるものと、中庸配分食に分類されるものがありました。

6ヶ月の時点で判断すると、低炭水化物食と低脂肪食は通常食に比べて同程度の体重減少(4.63kgと4.37kg)を来し、同程度の収縮期血圧低下(5.14mmHgと5.05mmHg)、拡張期血圧低下(3.21mmHgと2.85mmHg)を認めました。

低炭水化物食や低脂肪食に比べると、中庸配分食では体重の減少(3.06kg)や血圧低下がやや少ない(収縮期血圧3.48、拡張期血圧1.88mmHg)成績でした。

LDLコレステロール減少は、低脂肪食(7.08mg/dl)、中庸配分食(5.22mg/dl)で大きくなりました。低炭水化物食では減少傾向にとどまりました(1.01:-2.96〜4.96mg/dl)

どの食事療法もHDLコレステロール、CRPの有意な改善を認めませんでした。

12ヶ月経つと、減量効果はどの食事療法でも小さくなりました。また地中海食を除いて心血管系リスク改善もほぼ消失しました。

ネットワーク分析では、6ヶ月の時点で食事療法に違いを認めましたが、その差は小さく、12ヶ月後ではほとんど無視できるくらいになっていました。

どの食事療法も最終的にほぼ同じと読めますが、安全性と実行性は別に考える必要があるかもしれません。この論文ではありませんが、初期に大きな減量を来す食事療法はバランスを崩す可能性が指摘されています。

「日本食」が検討されていないことが残念ですね。


令和2年9月24日