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糖尿病の早期厳格治療の効果は24年後も続く

今回はUKPDS研究の話をします。UKPDS研究は1977年に開始された2型糖尿病の大規模研究で、血糖の厳格なコントロールが合併症の発症を抑制することを初めて証明した研究です。糖尿病治療の科学的根拠(エビデンス)を追求する研究の草分けで、1型糖尿病のDCCT研究、2型糖尿病のUKPDS研究、少し小規模になりますが日本の熊本スタディが、当時の最先端の研究でした。

UKPDS研究が行われていた時代、糖尿病薬は3種類(SU剤、メトホルミン、インスリン)しかありませんでした。今と違ってメトホルミンは人気がありませんでした。米国で未認可(米国認可1995年)、日本でもメトホルミン廃止を訴える医師がいました。UKPDS研究はメトホルミンの有用性を世界に認めさせた研究でもあります。

UKPDS研究は血糖の厳格コントロールを10年間行いました。厳格コントロールを止めると1年後には空腹時血糖、HbA1cとも比較対照群と差がなくなりました。普通ならここで研究終了なのですが、UKPDSは経過観察を継続しました。その結果、終了して10年経過した後でもその効果が続くことが明らかにされ、遺産(レガシー)効果と呼ばれました

今回紹介するのは、終了後24年たっても遺産(レガシー)効果が減弱することなく続くことです(Lancet 2024)。SU剤やインスリンによる厳格治療は、従来治療と比べて全死亡が10%少なく、心筋梗塞が17%少なく、最小血管障害が26%少なくなっていました(絶対的リスク低下はそれぞれ、2.7%、3.3%、3.5%)。メトホルミンによる厳格治療は従来治療と比べて全死亡が20%少なく、心筋梗塞が31%少なくなっていました。

糖尿病になった時、はじめにきちんと治療を行うことがとても大切ですね。


令和6年6月4日

インスリン注射を忘れないで

基礎インスリンは、減弱したインスリン分泌を下支えする目的で1日1回注射するインスリンを指します。基礎インスリン注射を開始した人がどのくらいインスリンを忘れずに注射しているかをまとめた論文が発表されました(Diabetes Ther 2024)。

対象になっているのは西欧と英国の人たちで、全部で12編の論文をまとめています。「遵守」の定義ですが、インスリン治療を開始して12ヶ月の間に指示されたインスリン注射を8割以上を打っている人を遵守していると定義しています。

遵守している人の割合は41〜64%でした。インスリンを開始して30日以内の遵守率を検討した論文では、16%の人が1回以上インスリン注射を忘れています。5回以上忘れた人は1.3%あり、平均すると1.8回忘れていました。またインスリン注射を止めた人の割合は、6ヶ月後、12ヶ月後、18ヶ月後で、20%、34%、37%でした。

遵守率はそれほどよくありません。
1週間に1回のインスリンが開発中ですが、この超持続型インスリンなら遵守率が上がるでしょうか。


令和6年5月31日

柔軟運動も死亡リスクを下げる

柔軟運動(ストレッチ)をしていますか? 柔軟運動をすると関節の可動域が広がり、身体が動かしやすくなって外傷が少なくなります。「柔軟運動と死亡リスク」を検討した研究は少ないのですが、韓国から「柔軟運動は全死亡や心血管系死亡を減少させる」報告が発表されました。同じアジア人ですので参考になるかもしれません。

対象は、韓国国民健康栄養調査登録の34,379人(20-79歳:開始時の平均年齢47.9歳)です。平均9.2年観察し、その間に1,622人が死亡しています。この論文では、3つの運動(柔軟運動、中等度以上の有酸素運動、筋肉トレーニング)と死亡の関連を検討しています。性別、居住地、教育、職業、収入、婚姻、タバコ、飲酒、自己申告の健康状態で補正(モデル1)、さらにBMIで補正(モデル2)、次に糖尿病、高血圧、脂質異常症で補正(モデル3)をしています。

(1) 柔軟運動
 週に5日以上の人を0日の人と比較しますと、柔軟運動をする人の全死亡リスクは0.80(p-trend<0.001)、心血管死亡リスクは0.75(p-trend=0.02)と減少していました。

(2) 中等度以上の有酸素運動
 週に50Mets-h以上の人を0Mets-hの人と比較しますと、有酸素運動をする人の全死亡リスクは0.82(p-trend<0.001)、心血管死亡リスクは0.55(p-trend<0.001)と減少していました。10Mets-hを超える運動から有意差がでてきます。一般的なジョギングは6-8Metsです。週に50.0Mets-hの運動は毎日1時間ジョギングする運動量に、週に10Mets-hの運動は1日おきに25分ジョギングする運動量に相当します。

(3) 筋肉トレーニング
 週に5日以上の人を0日の人と比較しますと、筋肉トレーニングをする人の全死亡リスクは0.83(p-trend=0.01)でしたが、心血管死亡リスクの減少は認めませんでした。

中等度以上の有酸素運動では膀胱癌、乳癌、大腸癌、子宮癌、食道癌、胃癌、腎癌のリスクも下がっていました。散歩を含めた有酸素運動、柔軟運動や筋肉トレーニングでは癌リスクの低下は認めませんでした。

運動で最も強い効果があるのは中等度以上の有酸素運動ですが、負担の少ない柔軟運動でも死亡リスクを減らす効果があるようです。


令和6年4月10日

痛風腎

尿酸は肉食過多、アルコールで増加します。ですから昔の痛風はぜいたくができる特権階級の病気でした。「庶民と生まれが違う」から痛風がおこるのであり、「痛風は貴族のあかし」とされた時代もありました(欧州の話です)。こういった幻想は商人たちの経済力が上昇し、商人階級に痛風が起こるようになって消えていき、18世紀後半には痛風は怠惰と不摂生によるものとされました。日本の痛風患者の増加は最近のことで、貴族なみの生活(?)がおくれるようになってからです。

痛風腎と称される病気がありますが、1980年代以前と以後では病気の概念が変わっているように思います。「痛風特有」の腎の病理変化も発表されたのですが、1980年代にその病理所見が痛風に特有でなく(後述)、当時痛風腎とされていた多くの症例が鉛中毒による腎障害であることが分かってきました。「痛風→腎障害」ではなく、「腎障害→痛風」だったのです。1988年に日本で国際プリンピリミジン代謝学会が開催されました。その中で、痛風腎は消えゆく病気だが、家族性若年性におこる痛風腎を忘れないでね、という発表があり、時代の移り変わりを感じました。この家族性若年性高尿酸血症性腎障害はウロモジュリン遺伝子変異による顕性(優性)遺伝疾患で、痛風腎とは別物です。

現在では高尿酸血症による腎障害は大きく3つに分類されています。

1つ目が非解離性尿酸(uric acid)による腎障害、これは主として腫瘍細胞が壊れたとき(白血病の抗癌治療時など)に大量にできる尿酸結晶が腎臓の遠位尿細管や集合管に詰まるもので、特殊な状況での合併症です。

2つ目が解離性尿酸(urate)による慢性腎障害です。尿酸結晶が腎髄質の間質にたまり、炎症を引き起こして間質の線維化や慢性腎障害をもたらします。痛風患者では腎硬化症が多く臨床的に他の腎疾患と区別することが困難です。過去に痛風結節をおこした人にみられますが、合併頻度が少なく腎生検をしないと分からないことが多いとされています。

痛風腎の概念を難しくしているのは、髄質に解離性尿酸結晶の沈着があっても、それが痛風を伴わない腎不全患者にもみられ、まれに痛風も腎不全もない患者にもみられることです。腎機能が低下すると、残っている腎糸球体当たりの濾過尿酸が増加し、集合管内の尿酸濃度が高くなって結晶形成が促進すると提案されています。

3つ目が尿路結石です。尿中尿酸の濃度、尿pHが結石形成の重要な因子です。尿酸は尿pH7だと200mg/dlまで溶けますが、pH5だと15mg/dlまでしか溶けません。ずいぶん違います。尿路結石を予防するには水をしっかり摂って尿が濃くなるのを避け、肉類を減らし野菜などをよく摂って尿pHが下がらないようにしましょう(尿pHを上げる薬もあります)。

最後になりますが、高尿酸血症をアンブレラレビューした論文(BMJ 2017)では、高尿酸血症の合併症ではっきりしているのは痛風と尿路結石だけでした。アンブレラレビューというのはメタ解析論文を集めてさらに解析する手法で、メタ解析の上位解析になります。


令和6年4月3日

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