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糖尿病患者の心血管死が減っている

動脈硬化は糖尿病があると進みやすくなります。虚血性心疾患(心筋梗塞など)は糖尿病があると3-4倍起こりやすく、脳卒中も1.6-1.7倍増加します(久山町研究から)。 そのため糖尿病患者さんには血糖だけでなく、高血圧や高脂血症もコントロールしてもらっています。

昨年「糖尿病の死因に関するアンケート調査」が発表されました(糖尿病2016)。それを読みますと、血管障害で亡くなる糖尿病患者さんの割合は減少傾向にあり、虚血性心疾患による死亡は日本人一般より少なくなっています(病気は起こりやすいが、亡くなる人が減っています)。

この研究では、(1) 1971〜1980、(2) 1981〜1990、(3) 1991〜2000、(4) 2001〜2010年 の10年刻みで死因を検討しています。

この研究では血管障害に「慢性腎不全、虚血性心疾患、脳血管障害」の3つをまとめています。慢性腎不全は最小血管障害が原因ですので、最初に大血管障害である虚血性心疾患と脳血管障害の成績を紹介します。

「日本人一般の死因」と「糖尿病患者の死因」の成績です。虚血性心疾患で亡くなる方の割合は、10年刻みのそれぞれの時期で、(1) 6.6と12.3、(2) 6.4と14.6、(3) 7.3と10.2、(4) 6.5と4.8%でした。脳血管障害では、(1) 24.1と16.4、(2) 16.2と13.5、(3) 13.6と9.8、(4) 10.3と6.6%でした。

虚血性心疾患で亡くなられる糖尿病の方の割合が特に2000年以降に大きく減っていることがわかります。集約的治療の効果、心筋梗塞治療の進歩のおかげと思います。脳血管障害は日本人一般と同様の減り方でした。

最後に、慢性腎不全で亡くなられる方の割合です、(1) 1.0と12.8、(2) 2.0と11.2、(3) 1.8と6.8、(4) 2.0と3.5%です。 (3) の時期から大きく減っています。糖尿病の透析の方は増えていますので、これも治療の進歩を伺わせます。


平成29年3月31日

ピオグリタゾン(アクトス)とNASH

チアゾリジン系の糖尿病の薬は評価が二転三転しています。ロシグリタゾン(日本で未発売)は心血管リスクが高いと強く非難されませしたが、濡れ衣でした。ピオグリタゾン(アクトス:武田薬品)も膀胱癌、心不全、骨折リスクが指摘されています。膀胱癌リスクは、「最近の前向き試験では増加なし」の成績ですが、まだ決着がついていません。

昨年のNEJMにピオグリタゾンが脳卒中を予防することが発表され、ピオグリタゾン評価の時間的経過は「奇妙な長旅」と評されました。

今回のお話はNASH治療薬としてのピオグリタゾンの位置づけです。2012年にチアゾリジン系薬剤のメタ分析論文が発表され、同薬剤の有用性が示されました。その後発表論文が増え、それらをメタ分析した新しい論文(JAMA Internal Med 2017)が出ましたので紹介します。

メタ分析は複数の研究結果をより高い立場からまとめて分析する方法で、質の高い分析法とされています。NASHとはアルコールを飲んでいないのに、アルコール多飲者と同様の脂肪肝〜肝硬変(肝線維化の進行)〜肝癌をきたしてくる病気です。NASHによる肝癌は増加傾向にあります。

論文では8編のランダム化試験をメタ分析し、合計516人のNASH患者を6-24ヶ月間観察、(1) 進行した肝線維化の改善(F3-F4からF0-F2)、(2) どのステージからでもいいですが、少なくとも1ポイントの改善、(3) NASHの消失を見ています。

ロシグリタゾンでは改善なし。 ピオグリタゾンで肝線維化の改善が認められ、オッズ比でみると、(1) は3.15、(2) は1.66、(3) は3.22 でした。糖尿病のない人でも同様(それぞれ、2.95、1.76、3.40)でした。

最終的な臨床像(腹水、肝性脳症、肝移植、肝に関連した死亡など)までみていませんが、「NASHの線維化」は有用な代理エンドポイントです。現時点では糖尿病がない人にピオグリタゾンをお勧めしませんが、糖尿病の人でピオグリタゾンが使える人にはNASH治療にピオグリタゾンが有用かもしれません。


平成29年3月10日

ちょこちょこ運動 対 まとめて強い運動

2型糖尿病の人には「30分毎に軽い運動をして、続けて座っている時間を短くする」ことが勧められる話をしました。新しい論文(Diabetologia 2017)が出ましたので、紹介します。

この論文では19人の2型糖尿病の人が参加しました。3つの異なる運動条件で糖代謝を比べていますが、その条件は、(1) ずっと座っている(座っている時間が14時間)、(2) 座っている時間のうち、1.1時間を中等度〜激しい運動に振り替える、(3) 同じく4.7時間を立位〜軽い運動に振り替える の3つです。

(1) はただ座っているだけです。(2) は朝食2時間後に自転車漕ぎ(エルゴメーター)をしてもらいました。(3) は、できれば30分で座っているのを中断するよう指示がされています。座りっぱなしにならないで立ち上がったり歩いたり、軽い運動をちょこちょこするよう、お願いしたわけです。

全員が3つの試験を行いましたが、試験の順序は無作為(ランダム)で、各試験の間に10日間の休みをとりました。各試験では、それぞれの運動条件を4日間続け、4日目に24時間血糖連続測定、5日目朝に血液生化学検査の採血をしています。

まず24時間血糖増分面積を計算しました。血糖増分面積は空腹時血糖を基準として、その値から増えた分の血糖と時間の面積を計算したもので、運動によって血糖増加がどれだけ抑えられたかをみるための指標です。(1) が1974、(2) が1383、(3) が1263 minxmmol/lでした。(1) の「座っているだけ」が最も悪いのは当然ですが、(3) の「ちょこちょこ運動」も (2) の「まとめて強い運動」も同じだけ血糖改善効果がありました。

次にインスリン抵抗性をHOMA2-IRで判定しました。インスリン抵抗性は2型糖尿病を特徴づける病態の一つです。HOMA2-IRは、(1) が2.16、(2) が2.06、(3) が1.89でした。 (1) の「座っているだけ」に比べると、(2) の「まとめて強い運動」は効果がなく、(3) の「ちょこちょこ運動」だけがインスリン抵抗性を改善させました。 

まとめますと、「座っている時間が30分まで」という制約つきですが、強い運動でなくても、細切れのちょこちょこ運動で十分に効果があるようです。この論文では、糖尿病で推奨される運動量より強い運動が使われました。3条件の差を短期間で出すためと思いますが、通常の運動量でも同じような成績が続くことを期待します。 


平成29年2月16日

アルコールは蒸留酒が良い?:アルコールの種類と糖尿病発症リスク

アルコールはなかなか難しい問題ですね。アルコールそのものの影響以外に、一緒に増えてしまう食事や気の緩みもあるでしょうし、肝障害、膵障害、さらに依存症も考える必要があります(注:身体に悪影響があることを知りながら飲んでしまう人は依存症です)。

飲酒後の血糖をみますと、炭水化物を含まない蒸留酒が一番影響が少ないかもしれません。 では、糖尿病発症リスクについてはどうでしょうか。

13編の前向き試験をメタ解析した論文(J Diabetes Investig 2016)が発表されました。参加者は397,296人、糖尿病は20,64人発症しています。アルコール飲料はワイン、ビール、蒸留酒の3つに分けて解析しています。

「ほとんどアルコールを飲まない人」に比べて、ワインを飲む人は糖尿病発症リスクが0.85と下がり、ビールと蒸留酒では下がる傾向に留まりました(0.96と0.95)。飲酒量との関連をみますと、3種の飲料ともU字型を示しました。最も糖尿病が少なくなるアルコール量はワインで20-30g(糖尿病リスクが20%減)、ビールで20-30g(同9%減)、蒸留酒で7-15g(同5%減)でした。

結論は逆でしたね。この研究で日本酒がないのが残念です。


平成29年2月2日