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インフルエンザワクチンを受けると 糖尿病患者の入院と死亡が減る

2年前にもインフルエンザワクチンをお勧めしましたが、新しい論文が出ましたので紹介します(CMAJ 2016)。

この研究は後ろ向きコホート研究(対象集団の過去の出来事を集計)で、英国の臨床診療研究データリンクから抽出した一次、二次ケアデータを用いています。124,503人の成人糖尿病患者を7年以上にわたり、心筋梗塞入院、脳卒中入院、心不全入院、肺炎/インフルエンザ入院、全死亡を観察しています。


7年の期間で623,591人・年の観察でした。インフルエンザワクチンを注射した人では、脳卒中入院(リスク 0.70)、心不全入院(0.78)、肺炎/インフルエンザ入院(0.85)、全死亡(0.76) とリスクが有意に減少していました。心筋梗塞入院リスクの減少(0.81)は有意ではありませんでした。


昨年のコクラン(Cochrane Databae Syst Rev 2015)でも、インフルエンザワクチンによる心血管死亡(リスク0.45)、複合心血管イベントの低下が示されています。

インフルエンザは、呼吸器だけが悪くなる病気ではありません。全身に強い影響を与える疾患です。この秋〜初冬にインフルエンザワクチンを接種されることをお勧めします。


平成28年8月30日

心拍数を用いた運動の強さ

運動の強さは VOmax(最大酸素摂取量)との比を用いるのが正確です。心拍数で代用されることが多いのですが、少し注意が必要です。

よく次の計算式が運動の本に見受けられます。


目標心拍数 =(最大心拍数 - 安静時心拍数)×運動強度(%)+ 安静時心拍数
最大心拍数 = 220 - 年齢


この計算式の問題は2行目の最大心拍数の計算です。「最大心拍数 = 220 - 年齢 」はカルボーネン法として紹介されますが、カルボーネン自身はこの計算式を発表していません(JEP online 2002) 。フォックスが言い出しっぺのようですが、彼は自分で実験研究をしておらず、まとめを書いたにすぎません。しかも彼のまとめを再検討しても 「220 - 年齢」の計算式は出てこず、「215.4 -(0.9147 x 年齢)」の式になるそうです。

「最大心拍数 = 220 - 年齢 」の計算式は誤差が大きいですので、目安程度に考えるのが良いでしょう。


平成28年8月29日

運動は速足程度の散歩で良い

糖尿病の運動は中等度の運動を勧めます。

前糖尿病の人を対象に運動効果を検討した成績が発表されました(Diabetologia 2016)。それによると、激しい運動より速足程度の運動が良いようです。

ブドウ糖負荷後の血糖面積で判断しますと、一番成績が良かったのは、 (1) 中等度の運動+食事療法 でした。その効果を100%としますと、(2) 中等度の運動のみ は78.9%の効果(3) 強度の運動のみ は14.0%の効果でした。 (4) 中等度の運動で運動量を2/3 に減らすと、効果は52.6%に減りました。

中等度の運動というのは(50%VOmax)の強さで、運動量は67kJ/kg/週(週に22.3km散歩に相当)です。(3) の強度の運動は(75%VOmax)の強さで、運動量は同じにしています。

運動の強さはこのように VOmax(最大酸素摂取量)との比で表すのが正確なのですが、あまりピンとこないですね。運動しているときの感じでは、中等度の運動 50%VOmaxは「楽」、強度の運動 75%VOmaxは「きつい」に相当します。

まとめますと、心肺トレーニングには強い運動が優れていますが、糖代謝の改善を求めるには楽な運動で良いようです。中等度の運動単独で8割の効果が期待できます。さあ身体を動かしてみませんか。


(注: 空腹時血糖でみますと、食事療法がない場合は(上記の(1)以外)改善がありませんでした。食事療法も併せてして頂くとうれしいです)

平成28年8月29日

どの程度の食塩摂取が健康に良いか (5)

最後にLancet論文(2016)を紹介します。尿中ナトリウム排泄量が健康に及ぼす影響はU字型になりますが、このU字型が高血圧の有無で変わるかどうかを検討しています。

133,118人(高血圧63,559人、非高血圧69,559人)、55歳(中央値)、49ヶ国で行われた4つの大規模前向き研究のデータをプールして分析しています。観察期間は4.2年(中央値)、エンドポイントは心血管系疾患発症・死亡です。1日ナトリウム排泄量は朝スポット尿で推定しています。

1日ナトリウム排泄量が増えると血圧が上昇し、ナトリウム1g(食塩2.54g相当)増えるごとに高血圧のある人で2.08、ない人で1.22mmHgほど高くなりました。


高血圧のある人で、1日ナトリウム排泄量が4-5g(食塩10.1-12.7g相当)の人を基準にしますと、7g(食塩18g相当)以上の人のリスクは1.23、3g(食塩7.6g相当)未満の人のリスクは1.34でした(U字型)。


高血圧のない人で、1日ナトリウム排泄量が4-5gの人を基準にしますと、 1日ナトリウム排泄量が7g以上の人のリスクは0.90(増加なし)、3g未満の人のリスクは1.26でした(増加)。


まとめますと、(1) 高血圧のある人ではナトリウム排泄(食塩摂取)が多いと心血管系疾患と死亡リスクが増えます。(2) 高血圧のない人ではナトリウム排泄が多くても同リスクは増えません。(3) 高血圧の有る無しに関わらず、ナトリウム排泄が少ない人は心血管系疾患と死亡リスクが増えます。

この論文は5月20日にオンライン発表されました。有名雑誌に発表されたこともあってメディアの反応もあり、米国心臓病学会はすぐさま反対声明を発表しました。6月1日にはNew Engl J Med オンラインにも反論記事が掲載されています。

減塩をめぐる問題は決着していません。強力な降圧剤が使えるようになった現在、食塩が血圧を少し上げるとして、どの程度から過剰摂取でしょうか。「エビデンス(確固とした証拠)に基づく医学(EBM)」の総本山であるコクランデータベース(2014)では減塩による心血管系疾患予防のエビデンスレベルは低いと結論しています。減塩しなくて良いという意味でなく、確固とした証拠を得るにはまだまだ研究が必要というスタンスです。

いろいろ読んでいますと、明らかな食塩の摂りすぎは身体に悪そうです。かと言って、米国流の厳重な制限は現実的でないように思います。まずは穏やかな減塩に取り組んではいかがでしょうか。


平成28年7月28日