健康的な食事は慢性腎臓病を減らす
平均5.5年観察し、
(1) 生存していて、CKDの発症あるいは進展がない
(2) 生存していて、CKDの発症あるいは進展がある
(3) 死亡 を見ています。いろいろな指標(スコア)で患者を3群に分け、高スコア群と低スコア群を比較しています。
(1) 健康的な食事をしている人は、CKDリスク、死亡リスクが少ない(OR0.74、0..61)。週に3皿以上の果物を摂っている人はCKDリスクが少ない。
(2) 総蛋白、動物性蛋白の摂取が少ないとCKDリスクが増える(OR1.16)。
(3) 塩分摂取量はCKDリスクと関連しない。
(4) 中等度のアルコール摂取はCKDリスクと死亡リスクを減少(OR0.75、0.69)
これまで蛋白質の摂取量が増えると腎に負担がかかり、腎症の進展に影響すると考えられていましたが、この研究ではそうでもなさそうです。塩分(NaCl)は死亡リスクにU字型の影響があり、多くても少なくても良くないようです。
観察研究であり、お互いに影響しあう因子が多い食事内容の研究ですので、「これで解決」というほどの説得力はありませんが、与えるインパクトは大きいように思います。
*「米国人のための栄養ガイドライン」をどれだけ守っているかを計算するのに米国農務省が作ったのがHealthy Eating Index (HEI)。それを修正したのがAlternative Healthy Eating Index (AHEI)、さらに修正したのがmodified Alternative Healthy Eating Index (mAHEI)です。
平成25年9月11日
糖尿病と認知症 (2)
人数は2,067人です(男性839人、女性1228人: 平均76歳)。平均6.8年観察したところ、(1) 糖尿病がなくても、平均血糖が高い人は認知症リスクが高く(115mg/dlの人は100mg/dlの人より1.18倍リスクが高い)、(2) 糖尿病の人では、平均血糖が高くなるとリスクも高くなりました(190mg/dlの人は160mg/dlの人より1.40倍リスクが高い)。
一方で、糖尿病の人の認知症リスクの計算を試みた成績も発表されています(Lancet2013)。糖尿病に関連した認知症のリスク計算について初めての論文です。
29,961人、平均年齢70.6歳の集団です。10年の観察期間中に、5,173人が認知症と診断を受けました。認知症と最も関連したのは、最小血管症、糖尿病性足病変、脳血管疾患、心血管疾患、急性代謝異常イベント(重篤な低血糖や高血糖)、うつ状態、年齢、教育レベルでした。糖尿病罹病期間やHbA1c自体よりも、最終臓器障害の方が認知症と関連していました。
認知症を予防するには「最終臓器障害を減らす」こと、すなわち糖尿病慢性合併症の予防に力を注ぐのが良いでしょう。そのためにはHbA1cだけでなく、血圧や脂質なども含めた総合的な糖尿病管理をお勧めします。
平成25年8月31日
糖尿病と認知症 (1)
我が国では久山町研究という素晴らしい研究があります(Neurology 2011)。久山町研究は、受診率80%、剖検率80%、追跡率99%以上と世界に類を見ません。全員にブドウ糖負荷試験をして耐糖能を調べています。剖検(死後の解剖)をしていますので、認知症の分類もしっかりしています。1,017人、15年間の観察です。
結果ですが、糖負荷後の血糖が境界域(140mg/dl〜)からアルツハイマー病と関連していました。空腹時高血糖はアルツハイマー病と関連していませんでした。脳血管性認知症は耐糖能状態が悪化すると増加していました。
別の論文ですが、糖尿病とアルツハイマー病には関連がないと報告がありました(JAMA Neurology2013)。アルツハイマー病の診断は、剖検(集団1)あるいは11C-PiBを用いたPET検査(集団2)で行っています(剖検は死後の解剖。11C-PiBは放射線を出す標識を使った生体検査で、生きている時にアルツハイマー病の原因とされるβアミロイドの負荷を調べます)。この論文は、アルツハイマー病の診断はしっかりしていますが、集団1が197人、集団2が53人と、人数が少ないのが難点です。
その結果は「アルツハイマー病は耐糖能異常、インスリン抵抗性と関連がありません」でした。また明らかな糖尿病があっても、アルツハイマー病の病理スコアは変わりませんでした。つまり「アルツハイマー病には糖尿病の影響がない」と結論されます。
今回紹介した論文は、両方ともアルツハイマー病の診断がしっかりしています。はたしてどちらが正解でしょうか。
平成25年8月31日
アルツハイマー病の中に、「アミロイドβの負荷が少なく神経原線維変化が進行する」特殊な糖尿病関連認知症がありそうです。剖検は死後の評価(最終段階)で、生前検査であるPET検査(途中経過)と異なる時期をみている可能性があります。
平成27年2月20日追記
飽和脂肪酸と動脈硬化:乳製品がすべて悪いわけでない
乳製品には飽和脂肪酸が豊富に含まれています。しかし乳製品と動脈硬化の関連を検討した最近の論文を見ますと、乳製品すべてが悪いわけではなさそうです。全乳製品摂取は心筋梗塞リスクと逆相関するという論文がいくつかあります。結論が少し相反する論文もありますが、おおよそをまとめると、チーズ、発酵させた乳製品がリスクを減らし、バターがリスクを上げるようです。
スエーデンの女性を対象にした研究(乳腺撮影コホート、J Nutr2013)では、33,636人(48-83歳)、11.6年観察しています。全乳製品摂取と心筋梗塞リスクは逆相関(HR0.77:五分位両端比較)、チーズ摂取が逆相関(同 0.74)、パンに塗るバターが正相関(同 1.34)でした。
同じくスエーデンの成績ですが、別の論文(Eur J Epidemiol2011)では、26,445人(44-74歳、女性が62%)、12年観察しています。全乳製品摂取は心血管系疾患と逆相関しました。個々の乳製品でみると、発酵乳のみが逆相関(15%減少)、チーズは女性でのみ有意に逆相関でした。
Epic-Potsdam研究は乳製品に絞った研究でありませんが、23,531人、8年観察しています。主要慢性疾患(心血管系疾患+糖尿病+癌)で評価しています。結果は、バター摂取は慢性疾患の増加と関連(Eur J Clin Nutr2013)。
動脈の硬さを指標にした研究では、乳製品はバターだけが悪影響と関連していました(Hypertension2013)。
低脂肪乳を使ったヨーグルトは通常のヨーグルトよりリスクを下げるでしょうか。興味があるのですが、よくわかっていません。乳製品ではバターを控えるのが賢明のようです。
注:
正相関:一方の因子が増加すると他方が増加し、減少すれば他方が減少する関係
逆相関:一方の因子が増加すると他方が減少し、減少すれば他方が増加する関係
平成25年8月22日