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ACE阻害薬あるいはARB(RAS阻害薬)と新型コロナウイルス感染症

ACE阻害薬あるいはARB(RAS阻害薬)は、カルシウム拮抗薬と共によく使われている降圧剤です。新型コロナウイルス感染症では、このRAS阻害薬が危険と発表され(Lancet Respiratory Medicine2020)、物議を醸しました。RAS阻害薬は肺にACE2を増やしますが、ACE2はコロナウイルスがひっつく場所だからです。

この論文は実際に危険だったという研究ではなく、理論的なリスクを示しただけの報告です。

一方でACE2がなくなると肺損傷が強くなることも知られています。ですから、ACE2を増やすRAS阻害薬はコロナウイルス感染症に有益かもしれない可能性もあります。

今回3つの観察研究の論文(NEJM2020)が発表され、RAS阻害薬は新型コロナウイルス感染症の重篤化リスクとは無関係であることが示されました。

最初の論文は8910人(11ヵ国169病院)の入院患者の研究です。5.8%の方が亡くなられています。多変量で補正後の結果ですが、死亡リスクと関連したのは65歳以上、冠動脈疾患、心不全、不整脈、COPD(閉塞性肺疾患)、喫煙でした。RAS阻害薬はリスクと関連せず、ACE阻害剤ではむしろ死亡リスクが低くなっていました(オッズ比0.33)。

次の論文は、6272人の感染患者と30,759人の性・年齢・居住地でマッチさせた対照を比較したイタリアの成績です。感染者は非感染者と比べてRAS阻害薬の服用者が多かったのですが、これは感染者に心血管系疾患が多かったためです。多変量で補正しますと、RAS阻害薬と軽症〜中等度、或いは重篤なコロナウイルス感染との間に関連を認めませんでした。

3つ目の論文はニューヨーク市で新型コロナウイルスの検査を受けた12,594人が対象です。46.8%が陽性で、そのうち17.0%が重篤でした。傾向スコアでマッチングして解析しますと、どの種類の降圧剤もコロナウイルス感染と関連していませんでした。感染症の重篤度とも関連していませんでした。

別の方向から解析を試みた論文も発表されています。

実はインフルエンザAウイルスもACE2を利用して肺障害を起こします。4つ目の論文(NEJM 2020)はインフルエンザとRAS阻害薬の関連をみています。イギリスの診療データ((CPRD:1998年〜2016年、560万人)の解析です。70万余りがACE阻害薬、23万人余りがARBを服用し、RAS阻害薬を服用していない人は474万人でした。多変量で補正しますと、ACE阻害薬を服用している人のインフルエンザ発症リスクは0.66、ARBでは0.52でした。服用期間が長いほど発症リスクが低く、10年以上の人ではそれぞれ0.29、0.11でした。

これらを合わせて考えますと、ACE阻害薬、ARBを服用している人は中止せずに飲み続けることをお勧めします。

ACE阻害薬:レニベース(エナラプリル)、ゼストリル(リシノプリル)など
ARB:ニューロタン(ロサルタン)、ブロプレス(カンデサルタン)、ディオバン(バルサルタン)、ミカルディス(テルミサルタン)、オルメテック(オルメサルタン)など


令和2年5月11日

追記:ここに紹介したNEJMの最初の論文について、信憑性が問われています。分析に用いたデータベース the Surgical Outcomes Collaborative (Surgisphere) が実態と合わないようです。現在公開質問状が出されており、NEJMは残りの2つの論文を参考にするように勧めています。
令和2年6月2日


追記:6月4日にここに紹介したNEJMの最初の論文は撤回されました。
令和2年6月5日

ココナッツオイルは心血管系に悪い

ココナッツオイルはココヤシの胚乳から取れる油です。ヤシからとれる油ということで間違えやすいのですが、パームオイル(アブラヤシの果肉から取れる油)、パーム核油(アブラヤシの胚乳から取れる油)は、ココナッツオイルと別物です。

ココナッツオイルは、植物性でコレステロールを含まず、中鎖脂肪酸を多く含んでいます(中鎖脂肪酸は炭素数が中程度の脂肪酸です)。中鎖脂肪酸は長鎖脂肪酸と違った性質を持っています。そのため、飽和脂肪酸であっても中鎖脂肪酸の多いココナッツオイルは健康に良いと考える人がいます。

しかしこれは間違っていて、ココナッツオイルは心血管系疾患のリスクを上げると報告されています。ココナッツオイルのシステマティックレビューとメタ分析が報告されました(Circulation 2020)ので紹介します。

このメタ分析では16編の臨床試験をまとめています。ココナッツオイルは非熱帯性の植物油(一般の植物油)と比べて、LDLコレステロールを10.47mg/dlほど増加させました。LDLコレステロールはいわゆる悪玉コレステロールですので、LDLコレステロールを上げるココナッツオイルは身体に悪いと考えられます。なお血糖、炎症マーカー、身体脂肪にはココナッツオイルの影響がありませんでした。

飽和脂肪酸を摂ると、LDLコレステロールと共にHDLコレステロールも増加します。今回の分析でもココナッツオイルはHDLコレステロールを4.00mg/dlほど増加させています。HDLコレステロールは一般に善玉コレステロールと言われますが、論文では増加したHDLコレステロールに抗動脈硬化作用はないと考察しています。

ココナッツオイルは86.5%が飽和脂肪酸で、その半分がラウリル酸(炭素数12)です。このラウリル酸はちょっと変わった中鎖脂肪酸です。普通の中鎖脂肪酸は小腸で吸収されると門脈に入って肝臓に運ばれます。そのため代謝が速いのですが、ラウリル酸はこの経路で代謝されません。カイロミクロンになって胸管(リンパ管)を通って血中に運ばれます。これは長鎖脂肪酸と同じ経路です。

ラウリル酸は炭素数の多い長鎖脂肪酸の性格をもっており、コレステロールを上げる作用もパルミチン酸(長鎖飽和脂肪酸の代表、炭素数16)の2/3程度あると報告されています。

以上を考えますと、ココナッツオイルはあまり摂らない方が良い油のようです。
今回は取り上げませんでしたが、パームオイルも動脈硬化を促進させますので控えるのが良いでしょう。


令和2年3月22日 

蛋白質の摂り過ぎと腎臓

筋肉をつけるには蛋白質が大切です。ジムで運動したすぐ後に「プロテイン」サプリを飲んでいる人をよく見かけますが、スポーツ雑誌のTarzanでは、筋力増強には蛋白質1.6g/kgが基本で、1.2-2g/kgを勧めています(2019)。

蛋白質の維持必要量は0.66g/kgです。糖尿病の食事指導ではふつう1.0-1.2g/kgが指示されます。ですから、筋肉トレーニングの時の推奨量はちょっと多めです。

どこまで蛋白質を摂って大丈夫か、実ははっきりした報告がありません。「日本人の食事摂取基準2015年版」にも「耐容上限量は設定しないこととした」と書かれています(2020年度版も同様の表現になるようです)。

ところが最近「蛋白質の摂り過ぎ」は腎障害と関連するという報告が2編(ともにNephrol Dial Transplant 2019)に発表されました。

蛋白質を摂り過ぎると糸球体過剰濾過が起こってきます。糸球体は腎臓の濾過装置のことで、過剰濾過は濾過装置の働き過ぎのことです。この働き過ぎが腎臓を傷めると想定されています。人でいう過労死みたいなものです。

最初の論文は、過去に心筋梗塞を起こしたことのある2255人(the Alpha Omega Cohort)が対象です。高齢(60-80歳、平均69歳)で、eGFR(推定糸球体濾過量:腎臓の働きを示す検査値)が平均82ml/min/1.73m2と、腎臓の働きが衰えていない人が対象です。蛋白質摂取量は203項目の食事アンケートで推定し、41ヶ月間観察しました。

平均蛋白摂取量は71g/日です。この集団を蛋白摂取量(g/kg)で4群に分けて検討しています。多変数で補正したあとの結果ですが、蛋白質の摂取が0.1g/kg増えるごとに、糸球体濾過量の減少が0.12ml/min/1.73m2ほど速くなりました。動物性蛋白と植物性蛋白の差はありませんでした。蛋白摂取量が1.20g/kg以上の人は0.80g/kg未満の人に比べて、eGFRの低下が倍のスピードでした(-1.64と-0.84ml/min/1.73m2)。

二つ目の論文は韓国の成績です。対象は9226人で、糸球体過剰濾過を検討しました。糸球体過剰濾過の基準ですが、その人の年齢、性別、高血圧/糖尿病既往、体重、身長で補正した糸球体濾過量が95パーセンタイルを超える場合と定義しました。また急速腎機能低下は、1年当たりeGFRが3ml/min/1.73m2以上低下する場合と定義しました。

蛋白質摂取量を4分位に分けますと、最も蛋白質摂取が多い群は最も少ない群に比べて糸球体過剰濾過のリスクが3.48倍多くなっていました。急速腎機能低下も1.32倍多くなっていました。糸球体過剰濾過に着目しますと、「蛋白摂取量と関連する急速腎機能低下」は糸球体過剰濾過のある人だけに認められました。

2編とも疫学調査であり、研究方法からは、蛋白過剰摂取が腎障害の原因とまで言えないのですが、健康のためにはほどほどの蛋白摂取がよさそうです。今後の研究に期待します。


令和2年1月21日

超加工食品で糖尿病が増える

以前に、超加工食品は食べ過ぎてしまうきらいがあり、心血管系疾患のリスクになることを紹介しました。今回、超加工食品は2型糖尿病のリスクにもなることを紹介します(JAMA Internal Med 2019)。

超加工食品の定義はあいまいですが、スーパーに並んでいる大量生産された加工食品はほとんどが超加工食品であり、ありふれた食品です。

今回紹介する論文はフランスのNutriNet-Sante研究で、参加人数は104,707人(18歳以上)、中央値で6.0年観察しています。摂取食品は複数回(平均5.7回)の食品アンケート(3500項目)で調査しています。多変数で補正した後の成績です。2型糖尿病のリスクは超加工食品が食事に占める割合が10%増える毎に1.15と増加していました。これは前回紹介した心血管系疾患リスクと同じ程度の増加です。

超加工食品の絶対量(g/日)でも検討していますが、これも糖尿病リスクと関連していて、この関連はたとえ未〜低加工食品摂取量で補正しても認められます。

いろいろな超加工食品をひとまとめにして論じていますので、具体的にその何がどう悪いのかは分かりません。きっと手軽でおいしすぎるんだろうと思います。また同じ食品でもインスタント食品はGI値(炭水化物量当たりの血糖の上昇しやすさ)が高くなります。

この論文を読んでいて、簡単に食べ物が手に入る環境(食品店の多さ)と成人糖尿病の関連を調べた論文(BMC Public Health 2017)を思い出しました。周囲に食品店が多くなると糖尿病リスクが増えるのです。もっとも、この関連は、余分な食品を買えるか買えないかの経済的な問題もあり、貧しい集団ではリスク増加がありません。


令和元年12月20日