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飽和脂肪酸と甘いものとどちらが悪い?

悪いものどうしの比較です。

飽和脂肪酸(動物性脂肪に多い)と遊離糖を比較した論文(Diabetes Care 2020)です。遊離糖は聞きなれないかもしれません。食物に添加する単糖あるいは二糖類、または蜂蜜、シロップ、ジュースに含まれる糖を指します。ブドウ糖、果糖、果糖ブドウ糖液糖、蔗糖(砂糖)などで、分かりやすく言えば「甘いもの」です。

対象は16名の過体重の男性です。まず1週間の基準食を摂り、次に飽和脂肪酸の多い食事(SFA食)あるいは遊離糖の多い食事(FS食)を4週間続けます。ここで7週間のお休み期間をとります。また1週間の基準食を摂り、前回にSFA食を摂った人はFS食を、FS食を摂った人はSFA食を4週間続けます。

基準食→SFAあるいはFS食→お休み期間→基準食→FS食あるいはSFA食の順です。

SFA(飽和脂肪酸)食の組成は45%脂肪、40%炭水化物、15%蛋白質です。牛肉や肉製品、全乳製品、それにピザやハンバーガーなどのファストフードを勧め、チーズや全バタークッキー、ミルクチョコレートを渡しています。

FS(遊離糖)食の組成は20%脂肪、65%炭水化物、15%蛋白質です。遊離糖(FS)が20%を占めるようにします。キャンデーや砂糖入りの飲み物を渡しています。

調べているのは、肝内中性脂肪(IHTAG)と肝での新たな中性脂肪合成(DNL)、それに全身の代謝マーカーです。

肝内中性脂肪はSFA(飽和脂肪酸)食群で39%増加し、FS(遊離糖)食群ではほとんど変動しませんでした。中性脂肪合成(DNL)は2つの食事群間で差がありませんでした。総コレステロール、HDLコレステロール、非HDLコレステロール、 3-ヒドロキシ酪酸(ケトン体)はFS食群で低下していました。試験食を用いた負荷試験では、負荷後の血糖・インスリン反応は、SFA食群のほうがFS食群よりも増加していました。

飽和脂肪酸の多い食事の方が身体に悪そうです。


令和2年7月24日

密接ってなぁに? 復習しましょう

新型コロナウイルスの基本的な感染力はそれほど高くありません。しかし、条件が揃うと感染力が高くなると考えられています。その条件をまとめたものがいわゆる3密と言われるものです。密閉・密集・密接です。最初の2つは言葉だけで何となく理解できますが、最後の「密接」は分かりにくい言葉です。

おさらいしておきましょう。最後の密接は「会話や発声を伴うもの」です。日本の専門家たちは疫学的に「会話・発声がある」とクラスター発生率が高まることを発見しました。これは大ヒットだと思います。

感染者からコロナウイルスが排出される条件を考えてみましょう。

季節コロナウイルス感染患者を30分間部屋に閉じ込め、高精度の機器で飛沫、エアロゾルを回収してウイルスRNAを検査した実験があります(Nature Med)。マスクなしの状態でウイルスRNAを排出していたのはわずか35%、咳をしなかった人では飛沫やエアロゾルにウイルスRNAは見つかりませんでした。

この実験では被験者を1人ずつ部屋に閉じ込めています。おそらく会話はなかったでしょう。会話がない場合、咳(+くしゃみ)がないとウイルスは外に出ないようです。

会話で飛沫が周囲に飛ぶ動画をご覧になられた方は多いと思います。感染者から飛沫を多く浴びると感染が成立し、クラスターが発生しやすくなります。この会話を避けるのが、密接を避ける行動です。

濃厚接触の定義は1m以内、15分以上です。社会的距離がとれない場合、マスクをしましょう。会話は短時間に留めましょう。

マスクは飛沫を出にくくします。中国家庭内クラスターの解析では常時マスクをしていると感染リスクが2割に減ります。米国海軍の報告でもリスクが3割になります。新型コロナウイルスの感染力は発症2日前から高くなります。社会的距離がとれない場合、お互いに症状がなくてもマスクをすることがリスクを下げます。


最後に二次感染率とウイルス株のデータを紹介しておきます。

二次感染率は家庭内で高くなりますが、一般社会ではそれほど高くありません。WHO-中国の報告で1-5%(家庭内3-10%)、米国で0.45%(同10.5%)、韓国で0.55%(同7.6%)、台湾で0.7%(同4.6%)です。

我が国でも75.4%の人は誰にも感染させていないと報告されています(厚生労働省の対策班の研究者グループ)。

最初に武漢から日本に伝播したウイルス株は強い自粛生活をしない時期に消滅しています(その後の流行は欧州由来株です)。適切な対応をとるとウイルスが消える可能性があります。

ACE阻害薬あるいはARB(RAS阻害薬)と新型コロナウイルス感染症:追記

ACE阻害薬あるいはARB(RAS阻害薬)と新型コロナウイルス感染症」で紹介したNEJMの最初の論文について、信憑性が問われています。分析に用いたデータベース the Surgical Outcomes Collaborative (Surgisphere)が実態と合わないようです。公開質問状が出されており、NEJMは残りの2つの論文を参考にするように勧めています。

令和2年6月2日

6月4日時点で、この論文は撤回されました。
第三者にデータベースが公表することが拒絶されました。

令和2年6月5日

新型コロナウイルス暴露からの時間とPCR検査の偽陰性率

新型コロナウイルスのPCR検査について、ずいぶん情報が集まってきました。PCR検査の感度は70%前後と言われ、それほど高くありません。特異度について報告はないようですが、低く見積もっても95%、実際はもっと高いと言われています。

感度は「感染者を陽性と正しく検出できる確率」を示します。感度と同じような概念に偽陰性率があります。偽陰性率は「感染者を誤って陰性と判定する確率」で、感度を裏からみた数字になります(100%―感度%)。特異度は「非感染者を正しく陰性と判定できる確率」を示します。

ジョンズ・ホプキンス大学から、PCR検査の偽陰性率を検討した報告が出ました。この報告はPCR偽陰性率がウイルス暴露からの時間経過でどのように変わるかをみています。

潜伏期を5日と仮定し、暴露日からの日数で集計しています。暴露翌日は偽陰性率100%です。暴露後4日経過しても偽陰性率は67%(27-94%)と高いままです。暴露後5日(発症日)で38%(18-65%)、暴露後8日に20%(12-30%)と最も低くなり、その後徐々に増加して暴露後21日は66%(54-77%)でした。

この結果を実際の場面で考えてみます。

Aさんが感染しているかもしれないとして、PCR検査を受けたとします。この時、PCR検査が陰性でも感染している可能性があります。陰性の判定が出た場合のAさんの感染確率は、Aさんの感染がどのくらい疑わしいか(検査前感染確率)によって変わります。

Aさんの検査前感染確率を44%とします(半分くらい疑っている感じです)。暴露後8日のAさんのPCR検査が陰性の場合、Aさんが感染している確率は14%です。発症日に検査を受けて陰性なら、Aさんの感染確率は23%です。


令和2年5月27日

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