院長ブログ一覧

SGLT2阻害薬とGLP1作動薬の併用(2)

2年前に「SGLT2阻害薬とGLP1作動薬の併用」を紹介しました。学会発表でしたが、2つの薬を併用すると全死亡・脳心血管イベントが大幅に減少したという成績でした。これとは別の研究で、2つの薬を併用して同様の結果が得られた論文が報告されましたので、紹介します(BMJ 2024)。

解析に使ったのは、UK Clinical Practice Research Datalinkの実臨床データです(前回の紹介は米国退役軍人のデータでした)。2013年1月〜2020年12月の間に新規に薬物療法を開始した2つの集団が対象で、2021年3月まで経過をみました。

最初の集団はGLP1作動薬を最初に使い、あとからSGLT2阻害薬を追加した6696人です。2つ目の集団はSGLT2阻害薬を最初に使い、あとからGLP1作動薬を追加した8942人です。それぞれ、薬を追加処方していない、投薬背景をあわせた人を1:1でマッチングして比較しています。

最初の集団ではGLP1作動薬単独治療者に比べ、SGLT2阻害薬を併用すると主要心血管障害(心筋梗塞、脳梗塞、心血管死)が30%減少しました。重症腎疾患も57%減少しました

2番目の集団でSGLT2阻害薬単独治療者と比べ、GLP1作動薬を併用すると主要心血管障害が29%減少しました。重症腎疾患の累積数は2年までは併用治療者の方が少なかったのですが、それ以降交叉し、ハザードリスク0.67(0.32-1.61)でした。

SGLT2阻害薬とGLP1作動薬を併用すると心血管イベントが減少するのは確からしいです。


令和6年6月21日

糖尿病の早期厳格治療の効果は24年後も続く

今回はUKPDS研究の話をします。UKPDS研究は1977年に開始された2型糖尿病の大規模研究で、血糖の厳格なコントロールが合併症の発症を抑制することを初めて証明した研究です。糖尿病治療の科学的根拠(エビデンス)を追求する研究の草分けで、1型糖尿病のDCCT研究、2型糖尿病のUKPDS研究、少し小規模になりますが日本の熊本スタディが、当時の最先端の研究でした。

UKPDS研究が行われていた時代、糖尿病薬は3種類(SU剤、メトホルミン、インスリン)しかありませんでした。今と違ってメトホルミンは人気がありませんでした。米国で未認可(米国認可1995年)、日本でもメトホルミン廃止を訴える医師がいました。UKPDS研究はメトホルミンの有用性を世界に認めさせた研究でもあります。

UKPDS研究は血糖の厳格コントロールを10年間行いました。厳格コントロールを止めると1年後には空腹時血糖、HbA1cとも比較対照群と差がなくなりました。普通ならここで研究終了なのですが、UKPDSは経過観察を継続しました。その結果、終了して10年経過した後でもその効果が続くことが明らかにされ、遺産(レガシー)効果と呼ばれました

今回紹介するのは、終了後24年たっても遺産(レガシー)効果が減弱することなく続くことです(Lancet 2024)。SU剤やインスリンによる厳格治療は、従来治療と比べて全死亡が10%少なく、心筋梗塞が17%少なく、最小血管障害が26%少なくなっていました(絶対的リスク低下はそれぞれ、2.7%、3.3%、3.5%)。メトホルミンによる厳格治療は従来治療と比べて全死亡が20%少なく、心筋梗塞が31%少なくなっていました。

糖尿病になった時、はじめにきちんと治療を行うことがとても大切ですね。


令和6年6月4日

インスリン注射を忘れないで

基礎インスリンは、減弱したインスリン分泌を下支えする目的で1日1回注射するインスリンを指します。基礎インスリン注射を開始した人がどのくらいインスリンを忘れずに注射しているかをまとめた論文が発表されました(Diabetes Ther 2024)。

対象になっているのは西欧と英国の人たちで、全部で12編の論文をまとめています。「遵守」の定義ですが、インスリン治療を開始して12ヶ月の間に指示されたインスリン注射を8割以上を打っている人を遵守していると定義しています。

遵守している人の割合は41〜64%でした。インスリンを開始して30日以内の遵守率を検討した論文では、16%の人が1回以上インスリン注射を忘れています。5回以上忘れた人は1.3%あり、平均すると1.8回忘れていました。またインスリン注射を止めた人の割合は、6ヶ月後、12ヶ月後、18ヶ月後で、20%、34%、37%でした。

遵守率はそれほどよくありません。
1週間に1回のインスリンが開発中ですが、この超持続型インスリンなら遵守率が上がるでしょうか。


令和6年5月31日

柔軟運動も死亡リスクを下げる

柔軟運動(ストレッチ)をしていますか? 柔軟運動をすると関節の可動域が広がり、身体が動かしやすくなって外傷が少なくなります。「柔軟運動と死亡リスク」を検討した研究は少ないのですが、韓国から「柔軟運動は全死亡や心血管系死亡を減少させる」報告が発表されました。同じアジア人ですので参考になるかもしれません。

対象は、韓国国民健康栄養調査登録の34,379人(20-79歳:開始時の平均年齢47.9歳)です。平均9.2年観察し、その間に1,622人が死亡しています。この論文では、3つの運動(柔軟運動、中等度以上の有酸素運動、筋肉トレーニング)と死亡の関連を検討しています。性別、居住地、教育、職業、収入、婚姻、タバコ、飲酒、自己申告の健康状態で補正(モデル1)、さらにBMIで補正(モデル2)、次に糖尿病、高血圧、脂質異常症で補正(モデル3)をしています。

(1) 柔軟運動
 週に5日以上の人を0日の人と比較しますと、柔軟運動をする人の全死亡リスクは0.80(p-trend<0.001)、心血管死亡リスクは0.75(p-trend=0.02)と減少していました。

(2) 中等度以上の有酸素運動
 週に50Mets-h以上の人を0Mets-hの人と比較しますと、有酸素運動をする人の全死亡リスクは0.82(p-trend<0.001)、心血管死亡リスクは0.55(p-trend<0.001)と減少していました。10Mets-hを超える運動から有意差がでてきます。一般的なジョギングは6-8Metsです。週に50.0Mets-hの運動は毎日1時間ジョギングする運動量に、週に10Mets-hの運動は1日おきに25分ジョギングする運動量に相当します。

(3) 筋肉トレーニング
 週に5日以上の人を0日の人と比較しますと、筋肉トレーニングをする人の全死亡リスクは0.83(p-trend=0.01)でしたが、心血管死亡リスクの減少は認めませんでした。

中等度以上の有酸素運動では膀胱癌、乳癌、大腸癌、子宮癌、食道癌、胃癌、腎癌のリスクも下がっていました。散歩を含めた有酸素運動、柔軟運動や筋肉トレーニングでは癌リスクの低下は認めませんでした。

運動で最も強い効果があるのは中等度以上の有酸素運動ですが、負担の少ない柔軟運動でも死亡リスクを減らす効果があるようです。


令和6年4月10日

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