院長ブログ一覧

ホップエキスと体重減少

ホップエキスは腸の苦味受容体を介して消化管ホルモンの分泌に影響を与えます。食前のグレリン、食後のCCK、GLP-1、peptide YY反応が増加し、食後のインスリン、GIP、pancreatic polypeptide反応が減少します(Am J Clin Nutrition 2022)。こういったホルモン反応は全体として食欲を低下させる方向に働きます。今回ホップエキスが筋肉量を維持しながら体脂肪量を減少させるという研究が報告されました(Obesity Pillars 2026)。

対象は、体格指数(BMI)が 25〜35kg/m² と 過体重〜肥満を呈する 成人150人、年齢は 18〜45歳です。65名がBHE(bitter hop extract: ホップ苦味エキス) 500mgを、63名が偽薬を1日1回、徐放性カプセルで服用しました。カプセル服用なので、舌で苦味を感じることはありません。4週間ごとに、体重測定+生体電気インピーダンス分析(BIA)による身体組成推定を行い、食欲と食べ物への欲求について尋ねました。

24週目において、BHE群は平均4.3%(3.8kg)体重が減少しましたが、偽薬群では0.5%(0.4kg)にとどまりました。体脂肪量はBHE群で4.5kg減少しましたが、偽薬群では0.7kgにとどまりました。内臓脂肪面積は、BHE群で33cm2減少しましたが、偽薬群では9cm2の減少にとどまりました(すべて p<0.05)。筋肉量はBHE群で約1kg、偽薬群で0.3kg増加しましたが、有意な差ではありませんでした。

空腹感は、BHE群でベースラインと比較して有意に低下し、4週目、8週目、12週目、20週目には偽薬群よりも低くなりました。一般的な食べ物、脂肪分の多い食べ物、塩辛い食べ物、風味豊かな食べ物への欲求は、BHE群でベースラインと比較して、すべての時点において有意に減少しました。また、複数の時点において偽薬群との間に有意差が認められました。エネルギー摂取量は、BHE群で偽薬群と比較して、12週目と24週目でそれぞれ748kJと545kJ(それぞれ179、130kcal)多く減少しました。

BHE投与群の約10%に投与量の調整が必要なほどの消化器系副作用(主に下痢と吐き気)がありました。各治療群で1名ずつ副作用のため試験を中止しましたが、全体として消化器症状の増加は軽微でした。

ビールにもホップは含まれていますが、アサヒビールのホームページ(お客様相談室)に「ビールには胃液の分泌促進作用があり、このため食欲が増進して、ついつい食べ過ぎになります。その結果として太ることはあります」 とあります。ホップが含まれていても注意しましょう。


令和8年8月27日

DHAサプリは認知症機能低下を予防しない

ドコサヘキサエン酸(DHA)は魚油に多く含まれる多価不飽和脂肪酸です。観察研究で認知機能の低下を予防すると報告され、サプリメントも出ていて人気のようです。ただ観察研究はバイアス(偏り、ずれ)が入りやすい統計方法です。バイアスが少ない方法は無作為化試験ですが、無作為化試験で認知症予防効果を認めた報告は5件/24件(21%)しかありません。

これを5件もあると考えるか、5件しかないと考えるか難しいですが、これまで行われた無作為化試験は「参加人数が不足、対象集団が不均一、試験期間が短い、投与量が最適でない」など、方法上の問題があるそうです。そこでより厳密な方法で認知症予防効果の再検討が行われ、その結果が報告されましたので紹介します(eBioMedicine 2026)。大人数(365人)で、長期間(24か月)観察した 無作為化・二重盲検・偽薬対照試験です。

対象は、認知症がなく、食事からの DHA 摂取量が少なく (<200 mg/日)、かつ 1 つ以上の認知症リスク因子を有する55-80歳(平均66.4歳)の人たちです。 739人スクリーニングし、うち365人を無作為に割り付けました。認知症リスクであるAPOE ε4も測定し、これに基づいて層別化しました。 DHA 2 g/日または偽薬を投与しました。このDHA投与量は高用量です。

6 か月後に脳脊髄液中のDHA/アラキドン酸比の変動を検討しました。APOE ε4の状態と無関係に、DHA投与群でこの比が増加しました(DHA群0.17、偽薬群-0.02)。これは脳にDHAが届いていることの確認になります。24ヶ月にわたり観察したのですが、残念なことに海馬容積や認知機能には改善が認められませんでした(海馬は記憶に関係する脳領域です。アルツハイマー型認知症では海馬の委縮が認められます)。

DHAのサプリメント摂取だけでは認知機能低下の予防には不十分なようです。


令和8年7月9日

高脂肪食で腸内細菌が脳へ移行

高脂肪食を食べたマウスでは腸バリアが破綻し、細菌が腸から脳へ移行することが発見されました。移行する細菌量は少ないのですが、何等かの病気の原因になるかもしれません。研究したのは米国エモリー大学の人たち、研究がまとまるのに7年かかりました(PLOS Biology 2026)。

マウスに動脈硬化を引き起こす高脂肪食(ペイゲン食:高脂肪高コレステロール飼料)を投与しますと、腸内細菌叢が変化し、腸のバリア機能が破綻して腸管透過性が亢進します。

研究者たちはまず、腸内細菌叢の変化を確認しました(ブドウ球菌、バクテロイデス、アッケルマンシアなどが増加し、腸内常在乳酸菌が減少)。次に腸バリアが破綻して腸管外に細菌が漏出していないか、回腸、肺、心臓、腎臓、脾臓、脳、血液などで細菌を調べました。ほとんどの臓器に細菌はいませんでしたが、びっくりしたことに脳に少数の細菌が検出されました。髄膜や脳脊髄液で検出されないことから、脳脊髄膜炎を起こしたのではありません。検出された細菌はブドウ球菌属、腸球菌で糞便や回腸に存在する細菌でした。

細菌はどこを通って腸から脳に移行したのでしょうか。普通考えられる途中の臓器には細菌がいませんでした。研究者たちが注目したのは、脳と腸をつないでいる迷走神経でした。迷走神経の頚枝を分析しますと、少数の細菌(ブドウ球菌を含む)が検出されました。また右頚部で迷走神経を切断すると脳内細菌が1/20(Mdr-/-マウス)、1/3-4(B6マウス)に減少しました。このことから、腸内細菌が迷走神経を通って脳に移行したと考えられました。

抗生剤カクテル(バンコマイシン、アンピシリン、ネオ邁進、メトロニダゾール)を飲料水に混ぜ、マウスの腸内細菌叢を攪乱させました:ブドウ球菌属が減少し、ペニバチルスが増加しました。すると、脳内でもブドウ球菌属が少なくなり、ペニバチルスが増加しました。腸内細菌叢の変化と脳に見つかる細菌の種類が一致しました。

高脂肪食を与えてから脳に細菌が見つかるまでの時間経過を検討しました。2日以降に迷走神経に細菌が現れはじめ、6日以降に脳に細菌が検出されました。この時間順序は、迷走神経を経由して脳に移行するという仮説と矛盾しません。

無菌マウス(細菌がいないマウス)に単一の細菌:エンテロバクター菌(Enterobacter cloacae)を定着させて実験しました。この場合でも、高脂肪食を投与したマウスにのみ脳と迷走神経にエンテロバクター菌が検出されました。

マウスにDNAバーコードのついたエンテロバクター菌を定着させ、脳内の細菌DNAをPCAで検討しました。通常食では陰性でしたが、高脂肪食マウスの脳内でこのDNAバーコードが検出されました。外から与えた細菌のDNAが脳で検出されたことから、細菌は自然発生的な由来でなく、人為的に定着させた細菌に由来することが示されました。

腸バリア破綻の可逆性について検討しました。高脂肪食を投与していたマウスを14日間通常の餌に戻したところ、腸の透過性が改善され、脳内の細菌数が減少しました

アルツハイマー病、パーキンソン病、自閉症スペクトラムのモデルマウスで脳内細菌を検討しました。これらの疾病モデルマウスでは、食事介入なしで脳および迷走神経に少量の細菌が検出されました。これらの細菌はそれぞれのマウスの糞便あるいは回腸から常に検出されました。全身組織または血液からは細菌が検出されず、血液脳関門透過性指数も上昇していませんでした。

以上をまとめますと、高脂肪食で腸管透過性が亢進し、迷走神経を通って少数の細菌が腸から脳へ移動するようです。脳に移行した細菌がアルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの病気の発症と結びついているか、今後の検討が必要です。



令和8年6月18日

ペイゲン食:高脂肪高コレステロール飼料(1.25% コレステロール添加、コール酸添加、35kcal% 脂肪含有量 ココアバター・ココナツオイル使用)

GLP1受容体作動薬は消化性潰瘍を減らす

GLP1受容体作動薬(GLP1RA)は 「血糖に応じたインスリン分泌」を促進する薬です。消化管の動きを抑えるため、消化管の副作用が多い薬です。では、この薬で消化性潰瘍(胃潰瘍や十二指腸潰瘍)は増えるのでしょうか。消化性潰瘍との関連を検討した論文(Clin Gastroenterol Hepatol 2025)が報告されましたので紹介します。

米国NIHの 「ALL Of Us」 データベースから全国的後ろ向き研究を探しています。2型糖尿病がある 66,102人が分析対象です。GLP1受容体作動薬を使っている人の消化性潰瘍発症リスクは、種々の影響因子を補正した後で 0.56(0.45-0.71)でした。サブグループ解析(新たにGLP1受容体作動薬あるいはインスリンを開始した人たち:3,313人の解析)も行っています。新たにGLP1受容体作動薬を開始した人の消化性潰瘍は、新たにインスリンを開始した人に比べて発症リスクが0.44(0.30-0.63)でした。なお、NSAIDs(痛み止め)、ステロイド製剤を使っている人の消化性潰瘍リスクはそれぞれ 2.39、1.84でした(この2つの薬が消化性潰瘍を増やすことはよく知られています)。

GLP1受容体作動薬は消化管の副作用が多い薬ですが、消化性潰瘍に関してはそのリスクを下げるようです。


令和8年4月9日

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