糖尿病の治療法について
食事療法
基本は“腹八分でバランスよく食べる”ことです。
基本カロリーは理想体重(kg)に25〜30(kcal/kg)を掛け算して計算します。
必要カロリーには個人差がありますので、この値をもとに患者さんごとに調整します。
あとは食品交換表(糖尿病用食品カロリー表:文光堂)などを使って実際の食品に割り当てて
いくのですが、カロリー計算が難しい人は、とりあえず腹八分を心がけ、間食に注意してみま
しょう。食事の時間や食べる場所を決めることも大切です。
“油もの”はカロリーが高くなりますので、油ものに注意するだけで糖尿病が良くなるという報
告もあります。野菜類も日本人は少な目ですので、意識して食べるようにしましょう。
先に野菜を食べると食後の血糖が上がりにくくなります。
食事内容の記憶はいつまでも残っていません。昨日の晩ご飯を覚えている人は多いのですが、
2、3日前のご飯になるとおかずをすらすら言える人は少ないのではないでしょうか。
食事療法では自分が食べているものを意識することが必要です。
数日間だけでも食事内容を記録してみませんか。自分の気づかない食べかたをしているかも
しれません。
運動療法
運動療法の目的は“インスリンの効きにくい体質を改善する”ことです。カロリー消費を
目的にすると、かなり激しい運動が必要になって大変です。運動には筋肉を太くし、
骨がもろくなるのを防ぐ効果もあります。食餌療法だけでやせようとすると、筋肉が減り、
基礎代謝量(じっとしていて消費するカロリー)も減ってしまいます。もったいないと思い
ませんか。また運動で引き締まった身体は美しいものです。
健康目的ですので、速歩きの“散歩”を第一にお勧めします。
若い人は負担の多いジョギングや激しいスポーツもいいでしょう。
これまで運動してこなかった人はゆっくりした散歩で結構です。
血糖を下げる効果は翌日も続きます。
絶対に毎日運動しないといけないと考えず、体調をみながら行いましょう。
血糖を下げる薬やインスリンを使われている方は低血糖に注意します。
低血糖は運動後におこることもあります。
大切なことですが、積極的な運動療法は糖尿病の合併症が強くない人にしか
お勧めしません。合併症が強くなると運動の強さを減らす必要があります。
運動に最も良い時間帯は、ご飯を食べたあと少し一服してからです。
しかしあなたが運動を続けられる時間帯が最も良い時間帯なのです。
20分速足で歩くと〜80kcal消費します。
これを1日2回、週5日(最低、週3日)行うのが基本ですが、最初は少なくて
かまいません。どんな運動でも何もしないのに比べると効果があります。
小さなことから始めてみませんか。
薬物療法
飲み薬の種類
(1) SU剤(スルホニル尿素剤:オイグルコン、ダオニール、グリミクロン、アマリールなど)
(2) 速効型インスリン分泌刺激薬(スターシス、ファスティック、グルファストなど)
(3) ビグアナイド剤(メトホルミン、グリコラン、メトグルコなど)
(4) AGI剤(αグルコシダーゼ阻害剤:グルコバイ、ベイスン、セイブルなど)
(5) チアゾリジン誘導体(アクトス)
(6) DPP4阻害薬(ジャヌビア、エクア、ネシーナ、テネリアなど)
(7) SGLT2阻害剤(スーグラ、カナグル、ルセフィ、アプルウェイなど)
(8) GLP-1製剤(リベルサス)
それぞれの薬には特徴があり、患者さんに合わせて処方されます。代表的な薬名だけを
挙げましたので、不明な方は薬剤師や主治医に尋ねてみてください。
SU剤は古く(1950年代)から使われている薬で、膵島(すいとう)に直接働いて
インスリンを分泌させます。膵島(すいとう)の障害(変性)が強くなると効かなくなります。
速効型インスリン分泌刺激薬も膵島に働きますが、効果が早く出て早く切れるので
低血糖を起こしにくく、糖尿病初期に使われます。
ビグアナイド剤は主に肝臓が“ブドウ糖”を作るのを抑える薬です。
SU剤と並ぶ古い薬ですが、癌予防効果など新しい作用が分かってきました。
AGI剤は食べた炭水化物の消化吸収を遅らせる薬で、動脈硬化を予防する作用も
あるようです。この薬はガスが出やすくなります。
チアゾリジン誘導体はインスリンの効きにくさを改善する薬です。身体に水分を
貯めて心臓に負担をかけることがあり、心臓の弱い方には使いづらい薬です。
最近の話題は脳卒中、心筋梗塞の再発予防効果です。
DPP4阻害薬は特に東アジア人で良く効きます。
この薬はインスリン分泌を促進しますが、消化管から分泌されるインクレチンという
ホルモンの働きを利用します。インクレチンはGLP-1とGIPの2種類のホルモンからなります。
SGLT2阻害剤は比較的新しい薬です。尿糖を増やすことにより血糖を下げます。
尿路系・婦人科系の感染症や脱水に注意が必要です。
GLP-1製剤の飲み薬も開発されています。
インスリン注射薬
インスリンは1921年に発見され、翌年に昏睡の患者さんに使われて命を救っています。
昔は牛や豚のインスリンが多かったのですが、最近のインスリンはヒト型が基本です。
ヒト型そのものや、治療に向くように作り変えたものが使われます。作用時間によって、
(1)超速効型、(2)速効型、(3)中間型、(4)持続型があり、使い分けます。さらに (5) ミックス型
(混合型)もあり、種類が豊富です。注射器もシリンジではなく、ペン型注射器を使うこと
が多く(操作が簡単)、針も細くなって注射の痛みが少なくなりました。
「インスリン注射を始めたら一生注射」と考える人が多いのですが、誤りです。
「一生」かどうかは、主に膵島のインスリンを作る力で決まります。一時的にだけ
インスリンを注射する方は多いです(手術前後、妊娠期など)。膵島を壊すタイプである
「1型糖尿病」の方や「2型糖尿病でも膵島の障害が強い」方の場合は、インスリン注射を
打ち続ける必要があります。
GLP-1注射薬
GLP-1製剤の飲み薬が開発されましたが、もともとは注射薬です。
インスリンと同様にペン型注射器が使われます。使い始めに消化器症状(吐き気や
便秘など)が現れやすく、少量から始めて徐々に量を増やすこともあります。
食欲を抑える作用があり、食事療法の助けになる方もおられます。
GLP-1・GIPの合剤も開発されています。
低血糖の注意
SU剤、速効型インスリン分泌刺激薬、インスリン注射を使われている方では、薬が効き
すぎて血糖が下がりすぎることがあります。ビグアナイド剤やAGI、チアゾリジン誘導体、
DPP4阻害薬、SGLT2阻害剤、GLP-1製剤は、単独で服用している場合は特別な場合を除いて
あまり起こりません。
低血糖は強く起こると昏睡(意識がなくなる)まできたしますので注意が必要です。
意識がなくなるまでにいろいろな症状が出ることが多いですので、この症状を覚えましょう。
低血糖の代表的症状
1.冷や汗がでる
2.動悸(心臓がどきどきする)
3.手足の震え
低血糖の症状は非常に緊張したときの症状と同じです。たとえばこれから戦いが始まる
ときは緊張して手に汗をかき、心臓がどきどきして、武者震いします。武者震いは大きな
震えです。こういう症状が、特に「ご飯の時間が遅れた」ときや「いつも以上に運動した」
ときにあり、何かを食べると改善するときは低血糖がとても疑われます。AGIを服用されて
いる方は、ブドウ糖を口に入れてください。砂糖では回復が遅いことがあります。
低血糖を起こすと次に低血糖になっても症状(冷汗、動悸、震え)が出にくくなります。
数ヶ月間はいつも以上に食事の摂りかたや運動に注意して低血糖を予防することを
お勧めします。