糖尿病の合併症
かつて糖尿病は死の病でした。糖尿病と診断されて5年生きる人が約半分、こういう時代
では慢性合併症は問題でありませんでした。その後医学が進歩して糖尿病はすぐに死ぬ
病気でなくなり、合併症の予防が重要課題になりました。合併症は進行すると治療が
困難です。「症状が出てから糖尿病の養生を」では失敗します。症状はかなり進行しない
と出てきませんし、「予防に勝る治療はない」からです。
糖尿病に特徴的な合併症は“眼”、“腎”、“神経”に起こるもので、この3つを三大合併症と
呼びます。このほかに糖尿病があると起こりやすくなる合併症として動脈硬化(心筋梗塞、
脳梗塞、閉塞性動脈硬化症)、歯周囲炎などがあります。
1.糖尿病性網膜症
最も困る合併症と言われます。 失明を来たす病気はいろいろありますが、糖尿病は
その第2位を占めています(1位は緑内障)。
突然失明することも多く、「見えづらくなってから糖尿病の療養を」は間違いです。
糖尿病では網膜(光を感じる組織)に変化が起こります。この変化が単純な場合は
内科治療だけで結構です。しかし変化が進んできますと眼科の治療が必要になります。
血液の流れないところ(白斑:眼底検査では白く見えます)が増え、血液内容が外に染み
出したり、シミ状に出血したりします。血液の流れないところが増えてくると、網膜は
新しい血管(新生血管)を作り出します。この血管はとてももろく、あちこちにはびこって
出血します(増殖性変化)。これが失明の直接原因になります。
いくら眼底に大きな変化があっても、“黄斑部”と呼ばれる部分に変化がない場合は
自分では気づきません。“年に1回(糖尿病の期間の長い人は年に2回)、眼科の先生に
目の奥を覗いてもらいましょう”。定期受診していれば、失明せずに済みます。
2.糖尿病性腎症
透析が必要になる病気の第1位は糖尿病です。最初は蛋白質(主にアルブミン)が
尿に漏れ出るようになります。最初は感度の高い方法で測らないとわからないくらい
微量です(尿アルブミン検査)。漏れ出る蛋白の量が多くなってくると試験紙で簡単に
測れるようになります。さらに尿蛋白が増え、身体の蛋白質が減ってしまうまで悪くなると、
身体がむくんできます(ネフローゼ症候群)。ここに至るまで自分で分かる症状は
ありません。
水の溜まりが強くなると心臓や肺を圧迫し(溢水状態)、息が苦しくなって横になれなくなり
ます。また老廃物をこしとる力が障害されると身体の中がゴミだらけとなり、身体の調子が
狂ってきます。これを“腎不全”といいます。水のコントロールが難しくなったり、腎不全の
状態が強くなってきたときに、透析が始まります。
3.糖尿病性神経障害
神経には、(1)運動神経、(2)感覚神経、(3)自律神経があります。
運動神経が障害されると、筋肉が動かなくなります。眼の運動が障害される神経麻痺が
代表的です。運動神経には筋肉を太らせる作用もあり、障害されると筋肉が異常に
やせることもあります。感覚神経の障害は両足の先から始まります。じんじんしたり、足底に
薄皮が貼った感じ、さらに痛みが出たり、押しピンを踏んでもわからないほどの感覚麻痺が
起こります。左右対称で足先ほど障害が強いのが特徴です。手の痺れは足に遅れて
起こってきます。自律神経障害は立ち眩み、消化管障害(胃腸が動かなかったり、動き
すぎたりする)、排尿障害(おしっこが出ない)、インポテンスなど多彩な症状をきたします。
心臓の神経が障害されると、突然死も来たしやすくなります。足の壊疽(腐ってくる)は
神経障害があると起こりやすくなります。