痛風患者の目標尿酸値
痛風を治療している時の尿酸目標値については、ガイドラインが一定していません。
米国リウマチ学会のガイドライン、日本痛風・核酸代謝学会のガイドラインは6mg/dl未満の目標を設定しています。
ところが、米国内科学会のガイドラインは「尿酸を測定して経過を追う」ことを推奨していません。測定した方が良いというエビデンス(確固とした証拠)が不十分なのだそうです。
そのため、米国の家庭医を受診する痛風患者の多くは尿酸の経過が分からないそうです。
最近、痛風治療中の尿酸値と痛風発作の関連を検討した成績が発表されました(JAMA 2024)。今更という気がしますが、先にのべた事情があるようです。
UK Biobankに登録している痛風患者3,613人(平均60歳、86%が男性)が対象で、平均8.3年追跡中に1,773回の痛風発作が起こりました。1,679回の痛風発作(95%)は尿酸が6mg/dl以上の人に起こっています。
1000人・年でみますと、
6.0-6.9mg/dl --- 40.1 人・年
7.0-7.9mg/dl --- 82.0 人・年
8.0-8.9mg/dl --- 101.3 人・年
9.0-9.9mg/dl --- 125.3 人・年
10.0mg/dl- --- 132.8 人・年
発作リスクでみますと、
-6.0mg/dl --- 1.0
6.0-6.9mg/dl --- 3.37
7.0-7.9mg/dl --- 6.93
8.0-8.9mg/dl --- 8.67
9.0-9.9mg/dl --- 10.81
10.0mg/dl- --- 11.42
尿酸が1mg/dl増加する毎に痛風発作のリスクが1.61倍になっていました。
痛風治療中の方は尿酸6mg/dl未満(98%予防のためには5mg/dl)を維持するのがよいでしょう。
なお上にあげた米国のガイドラインは、痛風を発症していない高尿酸血症の人に尿酸低下薬を処方しないことを勧めています。英国やオーストラリア・ニュージーランドのガイドラインも同様です。
日本のガイドラインは、エビデンスが少ないとしながら、「状況に応じて薬物治療を開始する」としています。専門家の意見が分かれていますね。
令和6年2月15日
成人期のどの時期の運動でも運動した人は認知症が少ない
運動が将来の認知症予防に役立つことが知られています。しかし、人生のどの時期の運動が良いかについては、あまりよく分かっていませんでした。
今回、人生のどの時期の運動でも、どの程度の運動でも認知症予防に効果があるとする研究が発表されましたので、紹介します(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2023)。
対象は1417人(53%が女性)、イギリスに1946年に生まれた人のコホート(1946 British birth cohort)です。余暇時間の運動(スポーツあるいは激しい身体活動)について、36-69歳の間に5回聞いています。認知機能は69歳時に検査しています。
運動回数によって、非運動(0回/月)、中等度運動(1-4回/月)、多く運動(5回以上/月)の3群に分けました。
運動している人は運動していない人に比べて、69歳時の認知機能は高い結果でした。認知状態、言語メモリーはどの時期の運動(36, 43, 53, 60, 69歳)でも、中等度運動群と多く運動群で同じように高くなりました。さらに運動の総量と用量依存的に関連していました。
最も良い結果は、全ての時期も通じて運動を行っていた人でした。全時期に運動している人は全く運動していない人と比べると、ACE-IIIスコア(Adenbrooke's Cognitive Examination)で4点の差が出ています。この検査は100点満点で認知症カットオフ値が88点とされていて、4点の差は大きな差かもしれません。
思い立ったが吉日です。運動はいつの時期でも良い効果があります。ぜひ運動しましょう。
令和5年4月1日
よく運動する人はぼけにくい
よく運動する人ほど重症認知症が少ないようです。日本人のデータが出ましたので、紹介します(JAMA Network Open 2022)。
日本8地域の43,896人(JPHC-Study)を対象に分析しています。中央値9.5年経過観察し、5,010人が重症認知症を発症しています。
身体活動の多さで4群に分けています。最も運動する群(第4分位)の重症認知症リスクは、最も運動しない群(第1分位)に比べて、男性で0.75(0.66-0.85)、女性で0.75(0.67-0.84)でした。
「中等度以上の運動」でみても、同様の結果でした:男性0.74(0.65-0.84)、女性0.74(0.66-0.83)。
「余暇時間の中等度以上の運動」でみると、それぞれ0.59(0.53-0.67)、0.70(0.63-0.78)でした。
観察開始から男性で7年間、女性で8年間に認知症になった人を除くと、身体活動と認知症の関連が認められなくなり、因果の逆転バイアス(認知症が強くなると運動しない)の可能性も考えられました。
しかし「余暇時間の中等度以上の運動」では、9年間に認知症になった人を除いても運動量と重症認知症の逆相関が認められました。
まとめますと、身体活動が多いほど重症認知症が少なく、「余暇時間の中等度以上の運動」が最も認知症リスクの低減に関連していました。
「余暇時間の中等度の運動」では、第3分位の運動量でも認知症リスクは男性0.65(0.57-0.74)、女性0.76(0.68-0.85)と低下していました。第3分位の運動量は男性で0.9、女性で0.8MET-h/日です(MET-h/日は聞き慣れない単位ですが、速足が3METsの運動、毎日20分速足すれば1MET-h/日になります)。
糖尿病の運動療法の目安は「速足20分(80kcal消費)を1日2回、週5日」です。この論文にあてはめますと、目安運動量で重症認知症を予防しています。ぜひ運動を続けましょう。
令和4年4月26日
インフルエンザ予防接種の勧め
昨年度、インフルエンザはほとんど流行しませんでした。新型コロナウイルスの予防策「3密を避ける」行動がインフルエンザの流行を抑えたと考えられています。
今年になっても、春夏が流行期である南半球で流行が抑えられています。オーストラリアのインフルエンザ患者数は500例足らずで、例年の30万人に比べてごく少数に留まりました。
一方インドでインフルエンザが出ているようです。西アフリカでもインフルエンザ流行が報告されています。インフルエンザはなくなったわけでなく、一部でくすぶっているようです。
米国でのインフルエンザ流行予測が報告されました。まだ査読前の論文ですが、例年より大きなインフルエンザ流行が数理モデルで予測されています。そのシナリオによると、インフルエンザで入院される方が10万2000人(5万7000〜15万2000人)です。また小さなお子さんで大きくはやる可能性も指摘されています。
昨年度インフルエンザの流行がなく、免疫を持つ人が少なくなっている、というのが流行が大きくなる原因です。
コロナ流行が下火になり(減ってくるのはうれしいですが)、3密を避ける行動が緩んでくると、インフルエンザがはやりそうです。インフルエンザワクチンの接種をお勧めします。
令和3年10月8日