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密接ってなぁに? 復習しましょう

新型コロナウイルスの基本的な感染力はそれほど高くありません。しかし、条件が揃うと感染力が高くなると考えられています。その条件をまとめたものがいわゆる3密と言われるものです。密閉・密集・密接です。最初の2つは言葉だけで何となく理解できますが、最後の「密接」は分かりにくい言葉です。

おさらいしておきましょう。最後の密接は「会話や発声を伴うもの」です。日本の専門家たちは疫学的に「会話・発声がある」とクラスター発生率が高まることを発見しました。これは大ヒットだと思います。

感染者からコロナウイルスが排出される条件を考えてみましょう。

季節コロナウイルス感染患者を30分間部屋に閉じ込め、高精度の機器で飛沫、エアロゾルを回収してウイルスRNAを検査した実験があります(Nature Med)。マスクなしの状態でウイルスRNAを排出していたのはわずか35%、咳をしなかった人では飛沫やエアロゾルにウイルスRNAは見つかりませんでした。

この実験では被験者を1人ずつ部屋に閉じ込めています。おそらく会話はなかったでしょう。会話がない場合、咳(+くしゃみ)がないとウイルスは外に出ないようです。

会話で飛沫が周囲に飛ぶ動画をご覧になられた方は多いと思います。感染者から飛沫を多く浴びると感染が成立し、クラスターが発生しやすくなります。この会話を避けるのが、密接を避ける行動です。

濃厚接触の定義は1m以内、15分以上です。社会的距離がとれない場合、マスクをしましょう。会話は短時間に留めましょう。

マスクは飛沫を出にくくします。中国家庭内クラスターの解析では常時マスクをしていると感染リスクが2割に減ります。米国海軍の報告でもリスクが3割になります。新型コロナウイルスの感染力は発症2日前から高くなります。社会的距離がとれない場合、お互いに症状がなくてもマスクをすることがリスクを下げます。


最後に二次感染率とウイルス株のデータを紹介しておきます。

二次感染率は家庭内で高くなりますが、一般社会ではそれほど高くありません。WHO-中国の報告で1-5%(家庭内3-10%)、米国で0.45%(同10.5%)、韓国で0.55%(同7.6%)、台湾で0.7%(同4.6%)です。

我が国でも75.4%の人は誰にも感染させていないと報告されています(厚生労働省の対策班の研究者グループ)。

最初に武漢から日本に伝播したウイルス株は強い自粛生活をしない時期に消滅しています(その後の流行は欧州由来株です)。適切な対応をとるとウイルスが消える可能性があります。

糖尿病、高血圧と新型コロナウイルス感染症死亡リスク

新型コロナウイルス感染症では、高齢、高血圧、糖尿病、心血管系疾患などがあると死亡リスクが上がると報告されてきました。しかし残念なことに、初期の論文はリスク因子が補正されていません。

たとえば高齢者で死亡リスクが高くなるとします。そうすると高齢者では高血圧の人が多いわけですから、高血圧の人の死亡リスクも高く集計されます。高血圧が本当にリスク因子かどうかを見るには年齢補正をしなければなりません。

まだ正式な発表前ですが、多変量補正した死亡リスクの論文が公表されました。イギリスの人口の40%をカバーする膨大な医療データを元に計算しています。調査期間は2020年2月1日〜4月25日です。調査対象は17,425,445人の成人で、うち5,683人が新型コロナウイルス感染症で亡くなられています。

院内死亡リスクをCox回帰分析しています。多変量補正しますと、死亡リスクが高いのは、男性(HR1.99)、高齢者(50歳代を基準1.00としますと、40歳代が0.31、80歳以上が12.64)貧困、糖尿病(HbA1c7.5%未満で1.50、7.5%以上で2.36)、肥満、喘息(軽症1.11、重症1.25)、慢性心疾患(1.27)などです。

この研究ではこれまでの報告と異なり、高血圧は死亡リスクを上げていませんでした(補正前リスク1.22→補正後0.95)。まだ論文が正式受理されていませんので、大きなことは言えませんが、血圧の高い人はちょっとほっとしますね。

糖尿病はコントロールを良くするようにしましょう。


令和2年5月17日 

米国ではヨガ・太極拳・気功がポピュラー

高齢者の転倒防止の論文を読んでいますと、米国論文で「太極拳が一番」と書かれていたりします。米国で東洋の健康運動が人気なのかな、と思っていましたが、ヨガ・太極拳・気功の普及について論文が出ましたので紹介します(Am J Publ Health 2019)。

この論文は米国疾病対策センター内にある国立健康統計センターが集計したデータを元にしています。4年ごとに調査がなされ、ヨガ・太極拳・気功をまとめてYTQとして集計されています。もともとYTQ調査は付録調査でしたが、2017年調査では本調査に昇格しています。

調査対象は18歳以上の米国成人で、2002年は 31,044人、2007年は 23,393人、2012年は 34 ,525人、2017年は 26,742人です。質問は「過去12ヶ月の間にヨガ・太極拳・気功(YTQ)をしたことがありますか?」から始まります。

YTQをする人は2002年では5.8%に過ぎませんでしたが、年と共に増加し、2007年で6.7%、2012年で9.8%、2017年には14.5%になりました。すごい普及率です。過去1年間にYTQをしたことのある人が、成人7人中1人です。

男女別でみると女性に多く、2017年の集計では女性19.6%、男性9.1%でした。医師に勧められて始めた人は6.6%に過ぎず、またYTQを医師にお話している人の割合は1/3でした。

「急性/慢性の痛み」、「関節炎」、「気持ちの落ち込み」を何とかしたいと始めた人が多く、「身体に良い」、「全人的である」、「自然である」というのが人気のようです。

YTQをする人が増えてきた理由として、(1) 長年月に渡ってインド・中国で評価されている補完的治療であり、(2) 複雑でありふれた疾患(腰痛、不安、気分の落ち込み、関節炎、線維筋痛など)が近年増加していること、(3) メディアによく取り上げられていること、(4) 効果を判定した科学的論文が増えてきたこと が挙げられています。

安全だと思われているYTQでも事故があります。YTQを安全に行うには、きちんとした指導を受けるのが良いでしょう。


令和元年6月6日

パラシュートなしで飛行機から飛び降りる

医学雑誌には楽しいジョーク論文が掲載されることがあります。今回は英国医学雑誌(Br Med J)に発表された論文を紹介します。

EBM(Evidence based Medicine)をご存知でしょうか。日本語にすると「確固とした証拠(エビデンス)に基づく医学」で、経験や思い込みに基づく治療を否定します。考え方は正しいのですが、残念なことに確固とした証拠(エビデンス)がないと始まりません。そしてそのエビデンスを得るのがなかなか難しいのです。

たとえば「飛行機から飛び降りるのにパラシュートが必要か」という命題はどうでしょうか。

「文献検索をしたが、パラシュート着用がケガ予防になるという無作為化試験はこれまでなされていない。万人が利益を受けるには、パラシュート着用が必要であるというエビデンスを作るのが望ましい」という結論になります(Br Med J 2003)。

エビデンスを作るにはパラシュートなしで飛行機から飛び降りるコントロール(対照)が必要です。そんなことは倫理的にできませんので、この命題に対するエビデンスは永遠に作れないのです。

ところが15年経って、ついにパラシュートなしで飛び降りた実験結果が掲載されました(Br Med J 2018)。

対象は2017年9月から2018年8月までに飛行機あるいはヘリコプターに乗船した18歳以上の乗客です。92人に声をかけ、23人が研究に承諾しました。承諾した23人を「パラシュートあり」と「パラシュートなし」に無作為的に2群に分け、実際に飛行機から飛び降りてもらいました。主要観察項目は大きな外傷です。

その結果、「パラシュートなしで飛び降りても外傷は起こらなかった。飛行機から飛び降りるに当たってパラシュートを着用する必要はない」というエビデンスが得られました。

すごいエビデンスですね。論文の考察には「このエビデンスを一般的なスカイダイビングに当てはめるには、飛び降りる時の状況に十分留意する必要がある」と書かれています。

あわてて読むと細かな条件を読み飛ばしてしまいます。この実験は、「地面に止まっている小型飛行機から飛び降りる実験」でした。「試験を承諾した人たち」と「承諾しなかった人たち」では飛び降り条件に差があり、「承諾した人たち」は飛び降り高度0.6m、速度0km/hだったのに対して、「承諾しなかった人たち」は 9146mと800km/hでした。

結論だけ読んで早合点してはいけませんね。条件をしっかり読む必要があります。この論文は、エビデンスの取り方、分析・解釈、実地に当てはめる時の注意点など、本物の論文を読むときのポイントを教えてくれます。皆さんも早合点しないようにしましょう。


平成31年2月7日

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