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世界的にみて日本の食事は良い

195ヶ国を対象に食事と病気の関連を検討した研究が発表されました(Lancet 2019)。マイクロソフトのビル&メリンダ・ゲイツ夫妻から研究資金が出ています。

この研究では、身体に良くない食事項目として
(1) 果物不足:推奨量 250g(200-300)/日
(2) 野菜不足:推奨量 360g(290-430)/日
(3) 豆類不足:推奨量 60g(50-70)/日
(4) 全粒穀物不足:推奨量 125g(100-150)/日
(5) ナッツ・種不足:推奨量 21g(16-25)/日
(6) 牛乳不足:推奨量 435g(350-520)/日
(7) 赤肉過剰:推奨量 23g(18-27)/日
(8) 加工肉過剰:推奨量 2g(0-4)/日
(9) 甘味料飲料過剰:推奨量 3g(0-5)/日
(10) 食物繊維不足:推奨量 24g(19-28)/日
(11) カルシウム不足:推奨量 1.25g(1.00-1.50)/日
(12) 海産物オメガ3脂肪酸不足:
  推奨量 250mg(200-300)/日
(13) 多価不飽和脂肪酸不足:推奨量 11%(9-13)/日
(14) トランス脂肪酸過剰:推奨量 0.5%(0.0-1.0)/日
(15) ナトリウム過剰:推奨量 3g(1-5)/日
の15項目を上げています。

赤身の肉は2単位の量(160kcal、80g)だと週2回です。加工肉はウィンナソーセージだと1週間に1本。牛乳は毎日2本と少し飲んで下さい。コーク類は1週間に180mlコップに1/10くらいです。まあ、加工肉や甘味飲料は食べるな!飲むな!というメッセージですね。

この論文では、上記の各項目を摂りすぎる(あるいは不足する)と病気が増加すると仮定します。どれだけ増えるかはメタ分析論文の相対リスクを参考にしています。

塩分については、(1) 塩分摂取が増えると血圧が上がる。(2) 血圧が上がれば心血管系疾患が増える。この (1) と (2) の仮定を掛け合わせています。注意すべき点はこれらの仮定と各項目の摂取量がずれると間違った結論になることです。

指標は、不適切な栄養による死亡数とDALY(障害調整生命年)です。DALYというのは、簡単にいうと「病気、障害、早死によって失われた年数」を示す指標です。

全世界でみると、「不適切な栄養」による死亡数は2017年で1100万人、そして2億5500万DALYsでした。目立つ「不適切な栄養」は、塩分過剰(300万人死亡、7000万DALYs)、全粒穀類摂取不足(300万人死亡、8200万DALYs)、果物不足(200万人死亡、6500万DALYs)でした。

日本のデータを探しますと、
「不適切な栄養」による影響は日本が最も低く、「全死亡数/10万人」97と「DALYs/10万人」2300でした。心血管系疾患についても日本の食事が最も良く、「死亡数/10万人」が69、「DALYs/10万人」が1507でした。

「全死亡数/10万人」の最悪は中国で299、「DALYs/10万人」の最悪はエジプトで10811でした。

食育がいろいろ言われるこの頃ですが、世界的にみて日本の食事は優等生です。ただ塩分の摂り過ぎには注意しましょう。


平成31年4月25日

赤か白か、それが問題?:豚肉の話

日本ではあまり言いませんが、赤肉(red meat)白肉(white meat)という言葉があります。文字通り、赤みを帯びた肉が赤肉で、白みを帯びた肉が白肉です。

赤色の元はミオグロビンです。米国農業省はミオグロビン量が65%以上の肉を赤肉としています。代表的な赤肉は牛肉や豚肉、白肉は家禽類や魚の肉です。

「赤肉は身体に悪く、白肉は身体に良い」と一般的に言われています。消費者が「豚肉は赤肉 → 豚肉は身体に悪い」と受け止めると豚肉が売れなくなります。そこで米国豚肉協会(National Pork Board)は1987年に「豚肉は白肉」キャンペーンをしました。この目論見が当たって、キャンペーン後の豚肉の売り上げは20%伸びたそうです。

「豚肉は白肉」は料理からみた判定です。栄養学的に豚肉は赤肉ですから、キャンペーンの正当性は微妙です。

豚肉といっても、部位によって栄養組成が大きく異なります。たとえば、ヒレ肉は100g中、脂肪が1.9g(飽和脂肪酸が0.56g)と脂肪があまりありません。一方、ばら肉は同34.6g(12.95g)です。高血圧予防食(DASH食)では赤肉を制限しますが、「脂肪の少ない豚肉」なら魚や鶏肉と交換して問題ないという成績があります(Amer J Nutr 2015)。

カロリーの4割を大豆油から摂るようにして育てた豚肉は飽和脂肪酸が少なくなります。その豚肉を食べるとLDLコレステロールが下がるという報告もあります(Amer J Nutr 2001)。これは特殊飼育の豚肉なので、特別かもしれません。

豚肉と一口に言っても栄養評価はいろいろです。脂の多い部分は避けるのが良いでしょう


平成31年3月2日

マティーニを、ステアせずにシェィクで

ジェームズ・ボンド007は問題飲酒家でした。

小説に出てくる飲酒量はもの凄く(最大1日50単位=ウォッカ・マティーニ17杯相当、ワインならボトル4.5本相当)、有名な「ステアせずにシェイクで」というセリフは、アルコール性神経障害による手の震えがもとになっているとささやかれています(Brit J Med 2013)。今回、ボンド映画でも飲酒量が推定されましたので、紹介します(Med J Austral 2018)。

検索対象は1962年-2015年に公開された全24フィルムです。60年超に渡り109回の飲酒イベントがあり、血中アルコール濃度のピーク値は0.36g/dlと推定されます。このアルコール濃度は、人によっては死をもたらす値です。映画ではこれだけ飲んだ後に危険な行動を行っています。危ないですね。

時代が下るに従って、アルコールそのものを武器として使うことが減り、アルコール関連商品が周囲に増えています(統計学的に有意だそうです)。ボンドのマティーニ嗜好は時代を通じて変わりません。

論文では、ボンドは重度のアルコール性障害にかかっており、アルコール障害専門医にかかるべきであり、上司からの対応も必要と結んでいます。


平成31年1月11日

糖尿病患者の基礎エネルギー消費は多い

現在の栄養指導では「糖尿病患者のエネルギー消費は健康人より少ないという設定」で栄養指導が行われています。

例えば「日本人の食事摂取基準2015年」を読みますと、50-69歳男性の参照体位は166.6cm、65.3kgです。この体格で活動レベル1(生活の大部分が座位)の人の栄養所要量は2100kcalです。

ところが同じ体格の糖尿病の人は1530-1830kcal(軽い労作:25-30kcal/kg)と低いエネルギー量の指示がなされ、重い労作に従事している時に2100kcalが指示されます(糖尿病食事療法のための食品交換表)。随分違いますね。

最近の論文(Frontiers in Nutrition 2016)を読みますと、糖尿病患者の基礎エネルギー消費(BEE)は高いとされています。栄養指導の設定と逆ですね。HbA1cが8%を超えている人は健常人よりBEEが7.7%高くなります。糖尿病がコントロールされて安定すると、BEEの増加はなくなります。

糖尿病患者の基礎エネルギー消費(BEE)が高い理由として、(1) 尿糖で喪失する糖が計算上BEEを上げる、(2) 糖新生がBEEを上げる ことが考えられています。糖新生は「肝臓で新たにブドウ糖が作られる」ことで、糖尿病では糖新生が亢進しています。

実は糖尿病食事指導にある低めのエネルギー設定には根拠がありません。3年前の糖尿病学会の講演(勝川Dr)では、「低めのエネルギー設定は食品交換表作成委員会で提案され、根拠となったデータ公表がない」そうです。「糖尿病患者は摂取エネルギーを過小評価するので、少な目の設定で問題なく使われてきた」のが実情です。もし過小評価をしないのであれば、もう少し多めのエネルギー量を指示すべきです。

なお、糖尿病患者では健常人に比べて「運動によるエネルギー消費(AEE)」が少ないです。これは主に「糖尿病患者はあまり運動しない」ことと関連しています。その他の原因も考えられていますが(神経障害が進行すると歩き方が変わるなど)、運動することをぜひお勧めします。


平成30年12月13日