トランス脂肪酸が規制され、何が増えたか
米国、リトアニア、チェコ、ポーランド、ハンガリーで、脂肪酸の割合が規制前後でどのように変わったかを検討した成績がありますので、紹介します(NEJM2009)。
19食品を大きなスーパーやファーストフードの店で2005-2008年に買っています。フレンチフライを例にとります。全脂肪に占める各脂肪酸の割合ですが、各国の値を平均するとトランス脂肪酸は18%ほど減っています。一価不飽和脂肪酸は0%で、変わりません。飽和脂肪酸も0%で、変わりません。多価飽和脂肪酸は19%ほど増えています。
トランス脂肪酸の規制によって、身体に悪い飽和脂肪酸が増えるかもしれないと危惧されていましたが、実際は増えなかったようです。
ケーキ、クッキーでは米国は飽和脂肪酸が100%近くまで増えています(良くない!)。他国ではそれほど極端でなく、望ましい変化になっています。
米国のスーパーマーケットの食品、レストランを対象に、トランス脂肪酸規制前後で脂肪酸の割合がどのように変わったかを検討した論文もあります(NEJM2010)。2008-2009年の成績を1993-2006年の成績と比較しています。
スーパーの商品(58食品)では、トランス脂肪酸は2.1gから0.3gに、飽和脂肪酸は1.9gから2.6gに、「トランス脂肪酸+飽和脂肪酸」は4.0gから2.8g になっています。レストラン(25軒)の食事では、トランス脂肪酸は3.5gから0.2g、飽和脂肪酸は6.4gから5.8g、「トランス脂肪酸+飽和脂肪酸」は9.9gから6.1g になっています。
2つの論文から見えることは(例外はありますが)、トランス脂肪酸の規制は飽和脂肪酸をあまり増やさず、望ましい方向に働いたことです。我が国でもそうあって欲しいものです。
平成25年4月25日
ファーストフードのトランス脂肪酸(規制前)
2004-2005年に実際にお店で買った食品を測定して、国別に評価しています(NEJM2006)。
この時点ではトランス脂肪酸を規制している国はごく少数で、規制前の値です(注:我が国では現時点でトランス脂肪酸を規制していません)。
同じチェーン店でも、トランス脂肪酸の含量は国によってまったく異なります。たとえばフレンチフライ171gとチキン160gを食べたとします。そうすると、デンマークやドイツでは1g未満、ニューヨークでは10g(以上、マクドナルド)、ハンガリーでは24g(KFC)のトランス脂肪酸を摂ったことになります。
マクドナルドでフレンチフライに使われる調理油のトランス脂肪酸含量は、米国店、ペルー店で23%、24%と多く、多くのヨーロッパ諸国では10%程度。スペインでは5%、デンマークでは1%と少な目です。
KFCでは30%を超える油をフレンチフライに使用している店もあります。ハンガリー、ポーランド、ペルーでは35%、42%、31%もトランス脂肪酸を含んでいます。デンマーク、ドイツのウィスバーデンで少なく、2%、1%です(同じ国内でも異なり、ドイツのハンブルグでは7%と多めです)。
この論文では、我が国の値が測定されていないのが残念です。
平成25年4月24日
トランス脂肪酸と飽和脂肪酸
トランス脂肪酸(TF)は動脈硬化を促進します。この知識が広まると、トランス脂肪酸が少ない食品に人気が集まります。そうすると食品会社もトランス脂肪酸が少ない商品を宣伝するようになります。
ある製パン会社の広告をみると、「トランス脂肪酸を減らす努力をしています。かわりに、飽和脂肪酸を多く含むパーム油使用比率を高めています」とあります。ところがパーム油はパルミチン酸(炭素数16の飽和脂肪酸)を多く含んでいて動脈硬化を促進する可能性があります(100g中41.8g含まれています)。
調理油の種類と心筋梗塞のリスクを検討した成績があります。
この論文(J Nutr2005)では、(1) トランス脂肪酸が多い大豆油(トランス脂肪酸が22%)、(2) トランス脂肪酸が少ない大豆油(トランス脂肪酸が5%)、(3) パーム油 の3つを比較しています。
対象は心筋梗塞を起こした人(2111人)で、同数の対照者をマッチさせています。結果は、パーム油を使用している人は、トランス脂肪酸の少ない大豆油を使用している人に比べて、心筋梗塞の起こり方が 1.33倍に増えました(結論:パーム油は動脈硬化を促進する)。パーム油を使用している人と、トランス脂肪酸の多い大豆油を使用している人では心筋梗塞のリスクは同じでした。
大豆油(TF5%) < 大豆油(TF22%) = パーム油
トランス脂肪酸を減らしても、飽和脂肪酸が増えると良くありません。米国の主要スーパーの商品、レストランでは、規制後に「トランス脂肪酸」だけでなく、「トランス脂肪酸と飽和脂肪酸の総量」が減少したと報告されています(N Engl J Med 2010)(注:本当は飽和脂肪酸の種類も大切です)。ノルウェーの食品産業では、トランス脂肪酸と飽和脂肪酸がコレステロールに与える計算式を用いて食品の健康度を推し量っています(Lipids 2001、この計算式は飽和脂肪酸の種類も考えています)。
我が国の食品会社もこういった検討をして欲しいと思います。
平成25年4月15日
地中海食と心血管疾患:PREDIMED研究
最後にPREDIMED研究(NEJM2013)をご紹介します。前回にご紹介したPREDIMED-Reusは1施設だけでしたが、これはスペイン内多施設です。主要エンドポイントは心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心血管死)です。リヨン研究と違って一次予防です。まだ起こしていない疾患の予防が一次予防、再発予防が二次予防です。
対象は55-80歳、7447人(女性57%)と多人数です。前回同様、低脂肪食、地中海食オリーブ油群、地中海食ナッツ群の3群の比較です。4.8年観察した時点で、心血管イベントは低脂肪食群に比べて地中海食オリーブ油群で0.70(0.54-0.92)、地中海食ナッツ群で0.72(0.54-0.96)に減少していました。
実際に摂っていたオリーブ油の量は50g(=55ml)/日、1週間に1Lのオリーブ油は彼らにとっても無理だったようです。
この研究の残念なことは、低脂肪食が本当の低脂肪食でないことです。脂肪の摂取量が全エネルギーの39%(開始時)〜37%(終了時)と高いのです。また、低脂肪食では脂肪の多い魚を摂らないよう勧めています。魚油には動脈硬化を予防する効果がありますので、これも問題かもしれません。低脂肪食との比較は、実際は典型的西洋食との比較でしょうか?日本人にとっては日本食と地中海食の比較が欲しいところです。
平成25年3月27日