糖尿病大血管障害、腎障害の動向
大血管障害は動脈硬化に基づく障害で脳・心臓・末梢動脈疾患を指します。最小血管障害(眼・腎・神経の障害)と対比して、この言葉が使われます。
細かく見て行きますと、この20年で急性心筋梗塞が起こる相対リスクが 3.8→1.8、脳卒中が起こる相対リスクが 3.1→1.5、下肢切断が起こる相対リスクが 18.8→10.5、末期腎障害が起こる相対リスクが 13.7→6.1 に減少しています。(この数字は糖尿病の人が糖尿病のない人に比べてどれだけ疾患が多いかを示す数字です)
糖尿病のある人の急性心筋梗塞、脳卒中の発症率は、20年間でそれぞれ67.8%、52.7%も減っています。糖尿病のない人の発症率低下がそれぞれ31.2%、5.5%減少ですから、糖尿病のある人の発症率が大きく減少していることがわかります(米国では糖尿病のある人の急性心筋梗塞、脳卒中の発症率はほぼ同じで、年齢調整後人口1万人あたり、それぞれ45.5、52.9人です(2010年))。
大血管障害、腎障害のリスク低下は糖尿病の管理が良くなったこと、合併症の危険因子の管理が進んだことが挙げられます。日本においても、どうぞ、しっかり管理していきましょう。
平成26年5月30日
蛋白摂取量について
(1) 腎障害がない人の理想的な蛋白摂取量はよくわかってない。
(2) 糖尿病性腎症がある人(微量蛋白尿、顕性蛋白尿)の蛋白摂取量は 通常の蛋白摂取量から、さらに下げることは推奨しない。
(3) 蛋白は血糖を上げずにインスリン分泌を増加させるので、低血糖の治療・予防に蛋白を多く含む炭水化物は使うべきでない。
米国内科学会のCKDガイドラインでも、「軽中等症のCKDでは摂取蛋白量を減らしても末期腎障害への進展には差がなかった、全死亡にも差がなかった」としています(Ann Intern Med 2013)(CKD:慢性腎臓病)。米国では蛋白摂取量の考えが変わってきています。
平成26年1月10日
尿蛋白のスクリーニング
勧告1:CKDリスクのない無症状の成人には、CKDのスクリーニングを行わない(スクリーニングは、症状が現れる前に病気を発見するための検査のことです)。
勧告2:糖尿病があってもなくても、ACE-IやARBを服用している成人には尿蛋白の検査を行わない(ACE-I、ARBは高血圧の薬で、腎保護作用があります)
勧告3:高血圧がある軽中等症CKDの人にはACE-IあるいはARBを推奨(軽中等症のCKDは推定GFRが30ml/min/1.73m2以上の方です)。
勧告4:LDLコレステロールが高い軽中等症CKDの人にはスタチンを推奨(スタチンはコレステロールを合成する経路を抑制する薬です)。
糖尿病があると腎障害を起こす危険性(リスク)が高いのですが、「ACE-IやARBを服用している人には尿蛋白を検査することに反対する」と言い切っています。「検尿してもメリットがない」という主張で、腎障害の早期発見や経過観察をする必要がないと考えています。
皆様はどうお考えでしょうか。
平成26年1月8日
健康的な食事は慢性腎臓病を減らす
平均5.5年観察し、
(1) 生存していて、CKDの発症あるいは進展がない
(2) 生存していて、CKDの発症あるいは進展がある
(3) 死亡 を見ています。いろいろな指標(スコア)で患者を3群に分け、高スコア群と低スコア群を比較しています。
(1) 健康的な食事をしている人は、CKDリスク、死亡リスクが少ない(OR0.74、0..61)。週に3皿以上の果物を摂っている人はCKDリスクが少ない。
(2) 総蛋白、動物性蛋白の摂取が少ないとCKDリスクが増える(OR1.16)。
(3) 塩分摂取量はCKDリスクと関連しない。
(4) 中等度のアルコール摂取はCKDリスクと死亡リスクを減少(OR0.75、0.69)
これまで蛋白質の摂取量が増えると腎に負担がかかり、腎症の進展に影響すると考えられていましたが、この研究ではそうでもなさそうです。塩分(NaCl)は死亡リスクにU字型の影響があり、多くても少なくても良くないようです。
観察研究であり、お互いに影響しあう因子が多い食事内容の研究ですので、「これで解決」というほどの説得力はありませんが、与えるインパクトは大きいように思います。
*「米国人のための栄養ガイドライン」をどれだけ守っているかを計算するのに米国農務省が作ったのがHealthy Eating Index (HEI)。それを修正したのがAlternative Healthy Eating Index (AHEI)、さらに修正したのがmodified Alternative Healthy Eating Index (mAHEI)です。
平成25年9月11日