高齢の慢性腎障害患者では蛋白制限しない
慢性腎障害(CKD:chronic kidney disease)の人に蛋白制限をしてもらうと、腎機能の低下がゆっくりになります。しかし、蛋白制限して寿命が長くなるかについてはよく分かっていません。今回60歳以上のCKD患者を対象に、蛋白制限の効果を検討した成績が発表されましたので紹介します(JAMA Open 2024)。
研究はスペインの2つのコホート(高齢者の心血管健康、栄養、身体虚弱に関する研究1と2)、スエーデンの1つのコホート(クングスホルメンの老化とケアに関する国民調査)で行われました。2001年3月〜2017年6月に募集し、2021年12〜2024年1月に死亡の確認をしました。CKDのstage4-5、腎透析、腎移植の方は除外しました。慢性腎障害は、尿アルブミン、eGFR、カルテ記録で確認しました。
調査対象は8,543人、全観察記録14,399回です。CKDのstage1-3は4,789人(女性56.9%)、平均年齢78.0±7.2歳でした。観察期間に1,468人が亡くなっています。
蛋白摂取量別に検討すると、蛋白摂取の多い方ほど死亡率が低くなりました。0.80g/kg/dayの蛋白摂取の方を基準にしますと、全死亡のリスクは 1.00g/kg/dayの方で 0.88、1.20g/kg/dayの方で 0.79、1.40g/kg/dayの方で 0.80 でした。動物性蛋白でも植物性蛋白でも同じ効果でした(蛋白摂取が0.20g/kg/day増加する毎に、植物性で0.80、動物性で0.88とリスクが低下しました)。75歳未満と75歳以上でも同様でした。
軽〜中等度の腎障害がある高齢者では蛋白制限をしない方が良いようです。
令和6年9月24日
HDLコレステロールを上げる治療法
HDLコレステロールが高いと動脈硬化が少なくなります。疫学研究ではいつもこの結果が得られ、HDLコレステロールは善玉コレステロールと呼ばれてきました(注:悪玉コレステロールはLDLコレステロールです)。運動するとHDLコレステロールが上がり、喫煙するとHDLコレステロールが下がります。運動で動脈硬化が抑制され、喫煙で促進されますが、この説明にHDLコレステロールの変動が使われてきました。
しかし薬を飲んでHDLコレステロールを上げても、動脈硬化は予防できません。いろいろ研究されましたが、みな失敗しました。疫学研究から予想される結果と異なることから、HDLコレステロールパラドックスと呼ばれています。
最近、新たな試みとしてHDLの働きを高める研究が行われました(NEJM 2024)。HDLはコレステロールを末梢から肝へと転送します。肝から末梢に流れるのと逆の動きで、逆転送と呼ばれます。このHDLの働きは、HDLの主要蛋白であるアポリポ蛋白A1が担っています。実際にヒト血漿由来アポリポ蛋白A1(CSL112)をヒトに6g静注しますと、アポリポ蛋白A1濃度が倍に上昇し、コレステロールの逆転送が4倍にあがります。
研究では急性心筋梗塞を起こした人を対象に、発症5日以内から毎週1回4週にわたってCSL112を静注しました。人数はCSL112群 9,112人、偽薬(プラセーボ)群 9,107人です。90日まで経過観察し、主要心血管疾患(心筋梗塞の再発、脳卒中、心血管死)の発症を検討しました。気になる結果ですが、主要心血管疾患はCSL112群で439人、偽薬群で472人に起こりました。残念なことに両群間で発症に差がありませんでした。
今回の研究からもHDLコレステロールを増やす薬物治療はあまり意味がなさそうです。
令和6年9月6日