HDLコレステロールを上げる治療法
HDLコレステロールが高いと動脈硬化が少なくなります。疫学研究ではいつもこの結果が得られ、HDLコレステロールは善玉コレステロールと呼ばれてきました(注:悪玉コレステロールはLDLコレステロールです)。運動するとHDLコレステロールが上がり、喫煙するとHDLコレステロールが下がります。運動で動脈硬化が抑制され、喫煙で促進されますが、この説明にHDLコレステロールの変動が使われてきました。
しかし薬を飲んでHDLコレステロールを上げても、動脈硬化は予防できません。いろいろ研究されましたが、みな失敗しました。疫学研究から予想される結果と異なることから、HDLコレステロールパラドックスと呼ばれています。
最近、新たな試みとしてHDLの働きを高める研究が行われました(NEJM 2024)。HDLはコレステロールを末梢から肝へと転送します。肝から末梢に流れるのと逆の動きで、逆転送と呼ばれます。このHDLの働きは、HDLの主要蛋白であるアポリポ蛋白A1が担っています。実際にヒト血漿由来アポリポ蛋白A1(CSL112)をヒトに6g静注しますと、アポリポ蛋白A1濃度が倍に上昇し、コレステロールの逆転送が4倍にあがります。
研究では急性心筋梗塞を起こした人を対象に、発症5日以内から毎週1回4週にわたってCSL112を静注しました。人数はCSL112群 9,112人、偽薬(プラセーボ)群 9,107人です。90日まで経過観察し、主要心血管疾患(心筋梗塞の再発、脳卒中、心血管死)の発症を検討しました。気になる結果ですが、主要心血管疾患はCSL112群で439人、偽薬群で472人に起こりました。残念なことに両群間で発症に差がありませんでした。
今回の研究からもHDLコレステロールを増やす薬物治療はあまり意味がなさそうです。
令和6年9月6日
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