院長ブログ一覧

新しい血圧の薬の開発(追記)

今年2月に新しい降圧剤(アルドステロン合成酵素阻害剤:バクスドロスタット)の紹介をしました。このときのBrigHTN研究は良い結果が得られていたのですが、次に発表されたHALO研究は思わしくない結果でした。ここに追記します(American College of Cardiology (ACC) Scientific Session/World Congress of Cardiology (WCC) 2023の発表)。

HALO研究の対象は、ACE阻害剤/ARB、ACE阻害剤/ARB+降圧利尿剤、あるいはACE阻害剤/ARB+カルシウムブロッカーを服用していて収縮期血圧が140mmHg以上の方、249人です。バクスドロスタット(0.5mg、1mg、2mg)あるいはプラセーボ(偽薬)群に無作為に分け、それぞれの薬を服用してもらいました。

収縮期血圧の低下は、バクスドロスタット群(0.5mg群で 17 mmHg、1mg群で 16 mmHg、2mg群で 19.8 mmHg)とプラセーボ群(16.6 mmHg)で差がありませんでした 。

薬をきちんと飲まなかったのではないか、と考察されていますが、どうでしょうか。第2相の治験研究はあと2つが進行中であり、その結果が待たれます。


令和5年3月31日

グリタゾンは認知症を予防する?

グリタゾンはインスリン抵抗性を改善する糖尿病の薬です。我が国ではピオグリタゾン(アクトス)が使われています。外国ではピオグリタゾンに加えてロシグリタゾンが使われたことがあります。

最近、グリタゾンが認知症予防に働くという論文がでましたので、紹介します。

最初の論文(BMJ 2022)は米国退役軍人の成績です。2001年から2017年の治療記録から解析しました。対象は60歳以上、認知症のない2型糖尿病の方です。実臨床のビッグデータ解析です。

平均年齢65.7歳、559,106人の経過観察中に、8.2人/1000人・年の認知症が発症しました。メトホルミン服用者を基準に比べました。そうしますと、少なくとも1年間グリタゾンを服用した方は22%認知症が少なくなりました。逆にSU剤服用者は12%認知症が多くなりました。アルツハイマー型認知症、血管性認知症と認知症の原因別にみても同様でした。

2つ目の論文は韓国からの報告(Neurology 2023)です。

韓国国民健康保険データのビッグデータ解析です。平均10年観察して、ピオグリタゾン服用者は16%ほど認知症が少なくなる結果でした。

50歳以上で新しく2型糖尿病を発症した、認知症がない91,218人が対象です(2002-2017年の記録)。糖尿病を発症してから4年以内にピオグリタゾンを服用した人は8.3%認知症を発症し、ピオグリタゾンを服用しなかった人は10.0%認知症を発症しました。ハザード比は0.84(0.75-0.95)です。ピオグリタゾン服用量の多い人ほど認知症が少ないという、用量依存性が確認できました。

ピオグリタゾン服用者の認知症減少は、虚血性疾患や脳卒中の既往がある人でさらに強く認められました:それぞれのハザード比は0.46(0.24-0.90)、0.57(0.38-0.86)でした。脳卒中発症もピオグリタゾン服用者で減少しました(ハザード比0.81)。


令和5年3月9日


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