ライフスタイルと認知機能
健康的なライフスタイルが認知障害を予防することを示した論文です(BMJ 2022)。
中国で行われた研究です。対象は60歳以上の認知障害のない人で、認知症と関連するapolipoprotein E (APOE) を測定してます。研究参加者は29,072人、平均年齢が72.23歳、女性が48.54%、APOE ε4を持つ人(認知症が増える)が20.43%でした。観察期間は10年超です。
6つの健康的ライフスタイルを規定しています。
(1) 健康的な食事(推奨食品項目12種のうち7つ以上食べる)
(2) 定期的な運動(1週間に中等度運動150分あるいは強い運動75分以上)
(3) 社会活動(1週間に2回以上)
(4) 喫煙歴なし
(5) 頭を使う活動(1週間に2回以上)
(6) アルコール歴なし
この健康的ライフスタイルをいくつ行っているかで、点数付けをしています。4-6項目行っている人をライフスタイル良好群、2-3項目の人をライフスタイル平均群、0-1項目の人をライフスタイル不良群に分類しました。
記憶力はWHO//University of California-Los Angeles Auditory Verbal Learning Test(AVLT)で行いました。
ライフスタイル良好群の記憶力低下は、ライフスタイル平均群、不良群よりゆっくりでした。ライフスタイル不良群と比べて、良好群、平均群の記憶力低下の傾きは0.028、0.023点/年ほど遅くなりました。
APOE ε4はアルツハイマー型認知症発症のリスク因子です。しかし、APOE ε4を持つ人でも同じ結果で、ライフスタイル良好群、平均群では不良群と比べて、0.029、0.019点/年ほど記憶力の低下が遅い結果でした。
点数で表現されると分かりにくいですが、ライフスタイル良好群ではボケるのが10年で2年くらい遅れる感じです。たった2年かもしれませんが、平均年齢72歳の高齢者で2年の違いは大きいように思います。
令和5年2月25日
今どきの1型糖尿病の人は痩せてない
1型糖尿病は痩せている人が多いと言われてきました。しかし、新しい米国統計では1型糖尿病の人の2/3は過体重ないしは肥満であることが分かりました(Ann Intern Med 2023)。
米国国民健康聞き取り調査(NHIS:2016、2017、2019、2020、2021年施行)の分析です。糖尿病分類が可能であった成人128,571人(1型糖尿病が733人、2型糖尿病が12,397人、糖尿病の無い人が115,441人)が対象です。
日本ではBMI(体格指数、肥満指数)25以上を肥満とします。欧米では25-30を過体重、30以上を肥満とします。それは日本人ではBMI 25以上で、欧米人では30以上で体重増加の弊害が多くなるからです。
分析結果です。1型糖尿病の人でBMIが25以上(過体重〜肥満)の人は62%、糖尿病のない人で64%で、この2群で太っている人の割合は同じでした。一方、2型糖尿病の人は太っている人が多く、過体重〜肥満の比率は86%でした。
過体重〜肥満で運動を勧められた人は、2型糖尿病、1型糖尿病、糖尿病のない人で、それぞれ60%、54%、44%でした。食事療法(脂肪やカロリー制限)を勧められた人はそれぞれ60%、51%、41%でした。2型糖尿病では生活習慣管理を勧められることが多く、1型糖尿病や糖尿病のない人ではちょっと少なかった結果です。
1型糖尿病の治療ではインスリン調整〜血糖管理に重点をおくことが多いのですが、太っている人は生活習慣を管理して減量していきましょう。
令和5年2月17日
コレステロールのサプリ
米国のコレステロールサプリの話です。
米国でよく使われているサプリの効果を、偽薬またはクレストール(ロスバスタチン:スタチン系薬剤)の効果と比較しています(JACC 2022)。
研究に参加したのは心血管系イベントがない40-75歳の人で、LDLコレステロール値は70-189mg/dlでした。
参加者を無作為に(ランダム化)1:1:1:1:1:1:1:1に分け、クレストール5mg、偽薬、サプリ(魚油、シナモン、ガーリック、ターメリック、植物ステロール、紅麹米)* のいずれかを28日間、摂ってもらいました。
190人が薬あるいはサプリの摂取を完了しました。クレストールを服用した人は偽薬、サプリを摂取した人と比べてLDLコレステロールの低下が大きく、偽薬と比べて35.2%低下しました。サプリについては、どのサプリを摂取した人も偽薬と比べてLDLコレステロールの有意な変化はありませんでした。
米国はサプリ大国で、サプリに毎年500億ドル費やされているそうです。しかし米国で売られているサプリにはコレステロールを下げる効果を期待できないようです。日本のサプリも同じかもしれません。
令和5年2月10日
* 研究で使われたサプリ商品
魚油:Nature Made fish oil 2400mg
シナモン:Nutriflair brand cinnamon 2400mg
ガーリック:Garlique brand garlic (5000mcg allicin)
ターメリック:BioSchwartz brand turmeric curcumin (bioperine 4500mg)
植物ステロール:Nature Made CholestOffPlus (1600mg plant sterols)
紅麹米:Arazo Nutrition brand red yeast rice 2400mg
2型糖尿病の子供は必ずしも太ってない
2型糖尿病は太っているイメージがありますが、子供の場合は必ずしも太っていません。メタ分析の論文(JAMA Nework Open 2022)が出ましたので、紹介します。
53論文、8942人のメタ分析です。肥満の定義ですが、多くの論文は年齢・性別BMI(体格指数、肥満指数)の95パーセンタイル値を採用しています。ただ、BMI30以上にしている論文や定義が記載されていない論文もあり、雑多です。
メタ分析の結果です。2型糖尿病の子供の肥満有病率は75.27%でした。糖尿病発症時の肥満有病率は77.24%でした。つまり4人に1人は太っていなかったのです。
肥満有病率はアジア人で64.50%とさらに低くなります。白人は89.86%と高くなります。人種差(あるいは環境差)は大きいようです。
BMI(体格指数、肥満指数)が基準範囲にあるのは、オセアニアで16.43%、アジアで13.95%であり、ヨーロッパで9.52%、南北アメリカで4.21%、中東で1.26%でした。
我が国では小児生活習慣病予防健診が行われていますが、肥満以外の糖尿病原因が分かって予防対策が精密になると良いですね。
令和5年2月3日