果糖について
果糖と聞くと果物を連想してフレッシュでヘルシーなイメージがありますが、本当は身体にあまり良くない物質です。
化学式はブドウ糖と同じC6-H12-O6で、カロリーもブドウ糖と同じです。構造にケトン体を持つケトースですが、異性化によりアルドースに変化し、還元性をもちます。環状構造をとらない割合がブドウ糖よりも多く、ブドウ糖より反応性に富みます。約10倍も糖化反応が進むと言われています。食品加工では有用な反応(メイラード反応:食品のおいしさに関係します)ですが、生体にとっては望ましくありません。
果糖は消化管から吸収されると、肝臓で直ちに代謝されます。
*ATP:プリン体の一種で、生体内ではエネルギー貯蔵物質として働いています。分解すれば、最終的に尿酸になります。
*果物には栄養学的に良いところがありますので、「果物を控えましょう」と短絡しないよう、お願いします。
平成25年2月22日
化学式はブドウ糖と同じC6-H12-O6で、カロリーもブドウ糖と同じです。構造にケトン体を持つケトースですが、異性化によりアルドースに変化し、還元性をもちます。環状構造をとらない割合がブドウ糖よりも多く、ブドウ糖より反応性に富みます。約10倍も糖化反応が進むと言われています。食品加工では有用な反応(メイラード反応:食品のおいしさに関係します)ですが、生体にとっては望ましくありません。
果糖は消化管から吸収されると、肝臓で直ちに代謝されます。
ATP + 果糖 → ADP + (果糖-1-リン酸)
この代謝はとても速く、細胞内のATPをかなり消費してまで反応を進めます。反応性に富む果糖を早くなくすための合目的な努力です。このときATPの消費が大きくなると、ATPの再合成が追いつかなくなり、ATPの分解が亢進して尿酸が増加します。実際、果糖の摂取が多くなると痛風が増えることが報告されています(BMJ2008)。この論文では果糖を多く含む果物(リンゴやオレンジ)でも痛風リスクが増加することを報告しています。*ATP:プリン体の一種で、生体内ではエネルギー貯蔵物質として働いています。分解すれば、最終的に尿酸になります。
*果物には栄養学的に良いところがありますので、「果物を控えましょう」と短絡しないよう、お願いします。
平成25年2月22日
脳科学からみた果糖の満足感
昨年に人工甘味料の話題を紹介しました。人工甘味料飲料はカロリーがないのに、摂りすぎると肥満やメタボになるリスクが高くなります。脳内報酬系の反応をみますと、(1) 人工甘味料は舌で甘く感じます。(2) 身体はカロリーが入ってくると期待しますが、実際は入ってきません。(3) そのため、身体は騙された状態になっています。「甘み」に伴う報酬が得られず、「渇望」も実は満たされていません。(4) そのため報酬を求めて食欲が亢進するというのです。
最近、果糖においても同様のことが起こっていると報告されました(JAMA2013)。
果糖は果物以外では砂糖や果糖ブドウ糖液糖から多く摂取されています。砂糖はブドウ糖1分子と果糖1分子が結合した糖です(50%が果糖)。果糖ぶどう糖液糖は聞きなれない糖かもしれませんが、加工食品によく使われています。
甘味料は年とともに摂取量が増加しています。果糖摂取の増加が、肥満増加の一因になっている可能性があります。
平成25年2月22日
最近、果糖においても同様のことが起こっていると報告されました(JAMA2013)。
この報告では20人の正常体重の健常人を対象にfMRIを用いて脳血流を見ています。結果は、ブドウ糖と比べて、果糖は食欲を満足させる脳領域への影響がほとんどありません。そのため、新たな食物を探しに行く行動を引き起こすと結論付けています。
果糖は果物以外では砂糖や果糖ブドウ糖液糖から多く摂取されています。砂糖はブドウ糖1分子と果糖1分子が結合した糖です(50%が果糖)。果糖ぶどう糖液糖は聞きなれない糖かもしれませんが、加工食品によく使われています。
果糖ぶどう糖液糖は、デンプンを分解してブドウ糖をつくり、そのブドウ糖の一部を酵素で果糖に変えて甘みを強めた甘味料です。果糖ブドウ糖液糖は、果糖含有率が 50% 以上 90% 未満のものを指します。砂糖に代わって大量に使われるようになったのは1970年代からです。
甘味料は年とともに摂取量が増加しています。果糖摂取の増加が、肥満増加の一因になっている可能性があります。
平成25年2月22日
鶏卵と心筋梗塞
卵黄にはコレステロールが多く含まれています(200mg/個)。血液中のコレステロールが高い人は心筋梗塞が多くなります。では、卵をたくさん食べる人は心筋梗塞が多いでしょうか。
この成績が最初に発表されたのは1999年(JAMA)です。マスコミに取り上げられ、ずいぶん話題になりました。米国心臓病学会は翌年のガイドラインでこの論文を採用せず、「メディアは論文を間違って解釈している」と批判しました(卵の制限継続を推奨)。一方で、ジョスリンクリニック(ボストンにある糖尿病の治療と研究の施設)は
というコメントを書き、注意を促しました。「糖尿病がないならともかく、糖尿病があるなら卵は週3個まで」という内容です。
最近、卵の消費個数と心筋梗塞の関連について、メタ分析が発表されました(BMJ 2013)。メタ分析は、これまで発表されている質の高い複数の論文をまとめて分析する手法です。その結果ですが、
この論文によって先の結論が確認され、強化されました。糖尿病の人には卵の軽い制限をお勧めします。
注:
一般的な食事ガイドラインでの卵の取り扱いは国によって異なります。米国は卵の制限を勧めています。カナダ、英国、オーストラリアは、卵の制限を取り払いました(個数に言及しない)。WHOも厳しい制限不要としています(乳脂肪や肉類の制限の方が大切)。
日本では、「飽和脂肪酸およびコレステロール摂取を減らすためには脂身の少ない肉類を選び、肉類、乳製品、卵類の過剰摂取を避ける(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年)。コレステロール摂取量を1日300mg以下に制限する:エビデンスA (心筋梗塞二次予防に関するガイドライン2011年改訂版)」となっています。
平成25年2月22日
糖尿病でない方はノー
糖尿病の方はおそらくイエスです。
この成績が最初に発表されたのは1999年(JAMA)です。マスコミに取り上げられ、ずいぶん話題になりました。米国心臓病学会は翌年のガイドラインでこの論文を採用せず、「メディアは論文を間違って解釈している」と批判しました(卵の制限継続を推奨)。一方で、ジョスリンクリニック(ボストンにある糖尿病の治療と研究の施設)は
If you have diabets, eggs still aren't what they're cracked up to be. (糖尿病があるなら、卵は評判になっている通りじゃないよ)
というコメントを書き、注意を促しました。「糖尿病がないならともかく、糖尿病があるなら卵は週3個まで」という内容です。
最近、卵の消費個数と心筋梗塞の関連について、メタ分析が発表されました(BMJ 2013)。メタ分析は、これまで発表されている質の高い複数の論文をまとめて分析する手法です。その結果ですが、
毎日卵1個を摂るときの冠動脈疾患リスクは0.99(0.85-1.15、P=0.88)で、全く影響がありません。糖尿病がある場合のリスクは1.54(1.15-2.09、p=0.01)と増加します。
この論文によって先の結論が確認され、強化されました。糖尿病の人には卵の軽い制限をお勧めします。
注:
一般的な食事ガイドラインでの卵の取り扱いは国によって異なります。米国は卵の制限を勧めています。カナダ、英国、オーストラリアは、卵の制限を取り払いました(個数に言及しない)。WHOも厳しい制限不要としています(乳脂肪や肉類の制限の方が大切)。
日本では、「飽和脂肪酸およびコレステロール摂取を減らすためには脂身の少ない肉類を選び、肉類、乳製品、卵類の過剰摂取を避ける(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年)。コレステロール摂取量を1日300mg以下に制限する:エビデンスA (心筋梗塞二次予防に関するガイドライン2011年改訂版)」となっています。
平成25年2月22日
グルカゴンの不思議
グルカゴンというホルモンをご存知でしょうか。
インスリンと同じく、膵臓にあるランゲルハンス島(膵島)から分泌されるホルモンです。インスリンが血糖を下げるホルモンなら、グルカゴンは血糖を上げるホルモンです。低血糖昏睡を起こしたときの注射薬としても使われます。
糖尿病は血糖が高くなる病気です。一般的にインスリンの作用不足(インスリンが足りない、効き難い)がその原因とされますが、グルカゴンの作用が強過ぎる場合も高血糖の原因になります。
グルカゴンの影響は思っていたより大きいかもしれません。遺伝子を操作したマウスの成績ですが、グルカゴン作用を完璧に抑えてしまうとインスリン産生細胞(β細胞)を薬でつぶしてしまっても糖尿病になりません(Diabetes 2011)。グルカゴンの影響がこれほど大きいなら、糖尿病の基本的考えを修正する必要もあります。
糖尿病ではグルカゴンが多くなっています。膵島内でグルカゴン分泌を抑えているインスリンが不足するため、グルカゴンが過剰に分泌されると考えられています(グルカゴンを分泌しているのはα細胞)。ところが、もともとインスリン産生細胞であった細胞(β細胞)がグルカゴン分泌細胞に姿を変えている可能性が報告されました(Cell 2012)。β細胞が脱分化(先祖がえり)するのです。
糖尿病で血糖が非常に高いとβ細胞に負担がかかってFoxO1が抑制されます。FoxO1は、β細胞の増殖に関わっている転写因子の一つです。転写因子は、遺伝子(DNA)の情報を鋳型mRNAへ転写する時にいろいろな調節を行う一群の蛋白質のことです(mRNA:遺伝子の情報を伝える中間物質で、次にmRNAの情報に基づいて蛋白質が作られます) 。
そこでこの転写因子が全く働かないマウスを作ってみました。臨床的には一見健康です。このマウスに代謝負荷をかける(老化、多産)と、β細胞は本来の性質を失ってインスリンを作らなくなり、グルカゴンを含む他の膵島ホルモンを分泌するようになります。高血糖にさらされたβ細胞は力尽きて死ぬのでなく、β細胞であることを止めて生き延び、グルカゴンまで分泌して糖尿病を悪くする側に寝返っているのです。
この論文にはシェークスピアの言葉をもじったコメントがついています: Diabetic β Cells: To Be or Not To Be? 糖尿病のβ細胞:生きるべきか、死ぬべきか
注:
インクレチン関連製剤*はグルカゴン分泌を抑える効果があり、これは他の薬にはない効果です。
* GLP-1アナログ、DPP-IV阻害剤
平成25年2月13日
インスリンと同じく、膵臓にあるランゲルハンス島(膵島)から分泌されるホルモンです。インスリンが血糖を下げるホルモンなら、グルカゴンは血糖を上げるホルモンです。低血糖昏睡を起こしたときの注射薬としても使われます。
糖尿病は血糖が高くなる病気です。一般的にインスリンの作用不足(インスリンが足りない、効き難い)がその原因とされますが、グルカゴンの作用が強過ぎる場合も高血糖の原因になります。
グルカゴンの影響は思っていたより大きいかもしれません。遺伝子を操作したマウスの成績ですが、グルカゴン作用を完璧に抑えてしまうとインスリン産生細胞(β細胞)を薬でつぶしてしまっても糖尿病になりません(Diabetes 2011)。グルカゴンの影響がこれほど大きいなら、糖尿病の基本的考えを修正する必要もあります。
糖尿病ではグルカゴンが多くなっています。膵島内でグルカゴン分泌を抑えているインスリンが不足するため、グルカゴンが過剰に分泌されると考えられています(グルカゴンを分泌しているのはα細胞)。ところが、もともとインスリン産生細胞であった細胞(β細胞)がグルカゴン分泌細胞に姿を変えている可能性が報告されました(Cell 2012)。β細胞が脱分化(先祖がえり)するのです。
糖尿病で血糖が非常に高いとβ細胞に負担がかかってFoxO1が抑制されます。FoxO1は、β細胞の増殖に関わっている転写因子の一つです。転写因子は、遺伝子(DNA)の情報を鋳型mRNAへ転写する時にいろいろな調節を行う一群の蛋白質のことです(mRNA:遺伝子の情報を伝える中間物質で、次にmRNAの情報に基づいて蛋白質が作られます) 。
そこでこの転写因子が全く働かないマウスを作ってみました。臨床的には一見健康です。このマウスに代謝負荷をかける(老化、多産)と、β細胞は本来の性質を失ってインスリンを作らなくなり、グルカゴンを含む他の膵島ホルモンを分泌するようになります。高血糖にさらされたβ細胞は力尽きて死ぬのでなく、β細胞であることを止めて生き延び、グルカゴンまで分泌して糖尿病を悪くする側に寝返っているのです。
この論文にはシェークスピアの言葉をもじったコメントがついています: Diabetic β Cells: To Be or Not To Be? 糖尿病のβ細胞:生きるべきか、死ぬべきか
注:
インクレチン関連製剤*はグルカゴン分泌を抑える効果があり、これは他の薬にはない効果です。
* GLP-1アナログ、DPP-IV阻害剤
平成25年2月13日