院長ブログ一覧

GLP1受容体作動薬は消化性潰瘍を減らす

GLP1受容体作動薬(GLP1RA)は 「血糖に応じたインスリン分泌」を促進する薬です。消化管の動きを抑えるため、消化管の副作用が多い薬です。では、この薬で消化性潰瘍(胃潰瘍や十二指腸潰瘍)は増えるのでしょうか。消化性潰瘍との関連を検討した論文(Clin Gastroenterol Hepatol 2025)が報告されましたので紹介します。

米国NIHの 「ALL Of Us」 データベースから全国的後ろ向き研究を探しています。2型糖尿病がある 66,102人が分析対象です。GLP1受容体作動薬を使っている人の消化性潰瘍発症リスクは、種々の影響因子を補正した後で 0.56(0.45-0.71)でした。サブグループ解析(新たにGLP1受容体作動薬あるいはインスリンを開始した人たち:3,313人の解析)も行っています。新たにGLP1受容体作動薬を開始した人の消化性潰瘍は、新たにインスリンを開始した人に比べて発症リスクが0.44(0.30-0.63)でした。なお、NSAIDs(痛み止め)、ステロイド製剤を使っている人の消化性潰瘍リスクはそれぞれ 2.39、1.84でした(この2つの薬が消化性潰瘍を増やすことはよく知られています)。

GLP1受容体作動薬は消化管の副作用が多い薬ですが、消化性潰瘍に関してはそのリスクを下げるようです。


令和8年4月9日

経口PCSK9阻害剤の開発

PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)蛋白が肝臓のLDL受容体(LDLR)に結合するとLDLRの分解が促進します。PCSK9蛋白の働きを阻害すると、肝細胞のLDL受容体が増加し、⾎中LDLコレステロール(LDLc)が大きく低下します。PCSK9阻害薬は難治性高LDLc血症の治療薬として開発されました。

現在2種類のPCSK9阻害薬:ヒト抗モノクローナル抗体薬(レパーサ皮下注140mg:24,302円)とPCSK9低分子干渉リボ核酸(siRNA)治療薬(レクビオ皮下注300mg:394,758円)が使われています。どちらも注射薬です。とても高価で、使うには「PCSK9阻害薬適正使⽤に関する指針」を守る必要があり、簡単には使えません。米国でも同様で、PCSK9阻害薬を処方したことがある医師は、高脂血症薬を処方した医師の9.2%に過ぎず、また処方医師の36.8%は1回しか処方したことがなく、処方回数の中央値はわずか2人でした(J Am Heart Assoc 2025)。

こういう背景のもと、PSCK阻害剤の飲み薬(エンリシチド)の第3相治験結果が発表されました(NEJM2026)。対象は動脈硬化性疾患のあるLDLc55mg/dl以上の人、あるいは中程度以上に動脈硬化性疾患リスクの高いLDLc70mg/dl以上の人です。エンリシチド投与前の平均LDLcは 96.1mg/dlですから、無茶苦茶LDLcが高い人ではありません。1,935人に実薬、969人に偽薬を投与しました。24週後のLDLcの変動は 実薬群 -57.1%(-61.8〜-52.5)、偽薬群 3%(0.9〜5.1)でした。52週でも同様で、他の動脈硬化リスク指標(non-HDLc、アポ蛋白B)も大きく低下していました。安全性は特に問題ないようです。

注射薬と同等の効果がある飲み薬が開発されるのは良いことです。気軽に使える価格だとさらに良いのですが、どうでしょうね。


令和8年3月19日

GLP1受容体作動薬開始後の食品購入

GLP1受容体作動薬(トルリシティ、オゼンピック、マンジャロなど)は食欲を低下させます。GLP1受容体作動薬を開始すると食品購入がどのように影響を受けるかを検討した論文が発表されましたので紹介します(JAMA Network Open 2026)。

舞台はデンマークです。SMILコホート(13,565人)の中から、1,177人(中央値53歳、618人女性)が研究に参加しました。2019-2022年にGLP1受容体作動薬を開始した人が293人。年齢、性、収入をマッチさせた対照群が884人です。100クローネ以上食品に費やしたレシートを分析しました。

1年間の食費は、GLP1受容体作動薬開始前が52,523クローネ(128万円)、開始後が35,051クローネ(85.5万円)でした。GLP1受容体作動薬の開始後の食品はエネルギー密度が209.4→207.3kcal//100gに減少し、砂糖は15.7→15.1g/100gに、炭水化物は19.8→19.3g/100gに、飽和脂肪酸は7.3→7.2g/100gに減少しました。蛋白質は6.6→6.9g/100gに増えました。超加工食品の購買は減っていました。
対照群ではGLP1受容体作動薬開始群と逆の変動をしていました。

食費が2/3に減って驚きますが、GLP1受容体作動薬は食品の嗜好も変えるようです。


令和8年3月10日

GLP1(+GIP)受容体作動薬と筋肉

GLP1受容体作動薬、GLP1+GIP受容体作動薬は体重を大きく減らします。このときに筋肉も大きく減ってしまわないか心配になりますが、それほど心配しなくてよさそうです。セマグルチド(ウゴービ:GLP1受容体作動薬)とチルゼパチド(マンジャロ:GLP1+GIP受容体作動薬)の成績を紹介します。

はじめにセマグルチドの成績を紹介します(Diabetes Obes Metab 2025)。糖尿病患者で使われる場合はオゼンピックという商品名で1mgまでしか使えませんが、肥満に使われる場合はウゴービという名前で2.4mgまで使えます。この研究ではセマグルチド2.4mgを使っています。

106名(平均BMI 46.3kg/m2)の分析です。体重は12ヶ月で13%減少しました。総脂肪量は7ヶ月で10%、12ヶ月で18%減少しました。除脂肪体重は7ヶ月で3kg減少しましたが、それ以降は一定でした。除脂肪体重は筋肉・骨・内臓・水分などの総量を指します。〜50%が筋肉ですので、おもに筋肉量の指標になります。握力は12か月後で4.5kg増加していました。また、サルコペニア肥満(筋肉が減少している肥満)は12か月後で49%から33%に減少しました。除脂肪体重で補正した安静時エネルギー支出は7ヶ月後から12か月後にかけて増加しました。

セマグルチドで減量した場合、減り続けるのは脂肪のようです。筋肉の減少は少なく、握力はむしろ増加していました。

次にチルゼパチド(マンジャロ)の成績を紹介します(Lancet Diabetes Endocrinol 2025)。この研究では肥満(+過体重)のある2型糖尿病患者が対象で5、10、15mgを使いました。3割の人がSGLT2阻害薬を併用しています。

246名(平均BMI 33.4kg/m2、平均HbA1c8.3%)の分析です。MRI検査を行い、筋肉内脂肪浸潤、筋肉容積、筋肉容積のZスコア(性、BMIをそろえた人の平均筋肉容積と比べた場合の偏り具合)をみています。デグルデクインスリン使用群を対照にしています。

チルゼパチド群を合算しますと、試験開始後52週で筋肉内脂肪浸潤、筋肉容積、筋肉容積のZスコアはそれぞれ、-0.36%point、-0.64L、-0.22 と減少しました。デグルデクインスリン使用群では体重と筋肉容積が増加し、他の変数は変わりませんでした。集団に基づく推定変化と比べると、チルゼパチド群の筋肉容積は同様(つまり体重変化に伴う自然変化程度の減少しか認めなかった、-0.04)でしたが、筋肉内脂肪浸潤(-0.42%point)が大きく減少していました。筋肉容積のZスコアはチルゼパチド15mg使用群でのみ減少しました(-0.18)。

チルゼパチドは筋肉容積を減少させますが、その減少は体重減少に見合う適応範囲内であり、体重減少に見合う以上に筋肉内脂肪浸潤が減少するという好ましい結果をもたらしたと結論しています。

GLP1受容体作動薬、GLP1+GIP受容体作動薬で体重が減少しても筋肉には悪影響がなさそうです。


令和7年12月24日