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LookAHEAD研究について

LookAHEAD研究は、肥満あるいは過体重の2型糖尿病患者を対象にした生活習慣介入試験です。昨年に中止されたばかりの研究で、今年6月の米国糖尿病学会で発表されました。論文も発表(NEJM2013)されましたので、紹介します。



LookAHEAD研究の概要
米国16施設で施行された研究で、5145人の肥満あるいは過体重の2型糖尿病患者が対象です。少なくとも7%の減量を目指して、カロリー制限と運動で生活習慣に強く介入しました。一次評価項目は「心血管系による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、狭心症入院」です。最長13.5年観察する計画でしたが、これ以上延長しても結果が変わらないと判断され、昨年に中止されました(平均9.6年観察)。

体重減少は1年の段階で 8.6% 対 0.7% (介入群、コントロール群)、終了時点で 6.0% 対 3.5% (同)であり、介入群のほうが減量しています。介入群は、HbA1cが低く、フィットネスが高くなっていました。介入群は、LDLコレステロール以外の心血管系リスクが全て減少していました。ここまでは良いことづくめですが、肝腎の脳心血管系イベントに差がありませんでした(HR:危険率、 0.95)。



簡単に説明しますと、食事カロリーを減らし、積極的に運動して体重を減らしても、脳心血管系イベントが減らなかったという成績です。介入群の体重減少が途中で緩んでいること、スタチンなど血管保護作用のある薬がコントロール群にも使われて介入効果が薄れていることなどが考察されています。

糖尿病における心血管系合併症の予防は、血糖コントロールを厳しくしてもうまくいかないことが常識になってきています。血圧やコレステロールなど、総合的な対応が求められ、なかなか手ごわい相手と思います。見方を変えると、高血圧や高脂血症の薬に良い薬ができていることを感じます。久山町研究で高血圧が心筋梗塞のリスクでなくなったのも治療の進歩です。

いっぽうで、生活習慣への積極的介入は、糖尿病の部分的寛解をもたらし、尿失禁、睡眠時無呼吸症候群、うつ病の減少、生活の質、身体機能、運動能の改善をもたらしています(すべてLookAHEAD研究)。「生活習慣の改善が無意味」ということでありませんので、間違いのないようにお願いします。


平成25年7月11日

カロリー制限と長寿

一般的に10-40%のカロリー制限をすると、生存寿命および健康寿命が長くなります。カロリー制限は「老化」および「老化に伴う病気」を研究する方法にも使われ、たとえばサーチュインという長寿遺伝子はカロリー制限で活性化します。

霊長類においてもカロリー制限の効果が報告され、ウィスコンシン国立霊長類研究センター(WNPRC)の研究は新聞にも載って話題を呼びました。アカゲザルで30%のカロリー制限をすると、長生きして毛並みの色艶も良いのです(Science2009)。

今回は米国国立老化研究所(NIA)の成績を紹介します(Nature2012)。同じアカゲザルの研究ですが、「カロリー制限しても寿命が変わらなかった」という結果です。どうして正反対になったのでしょうか。論文を読みますと、 (1) 餌が異なること、 (2) 比較対照(自由摂食群)の「自由摂食のさせ方」が異なること、が重要のようです。

WNPRC研究の餌は精製素材です。蛋白はラクトアルブミン、油はコーン油を用いています。炭水化物はコーンスターチと砂糖で、28.5%が砂糖です。NIA研究の餌天然素材です。天然素材は微量元素、植物性化学物質を含みます(注:植物性の抗酸化物質は活性化酸素の毒性を消去します)。蛋白は小麦、とうもろこし、大豆、魚、アルファルファ由来です。魚は8-12%の油を含み、オメガ3脂肪酸を含みます(注:オメガ3脂肪酸は抗動脈硬化作用を持ちます)。砂糖は3.9%しか含みません。

次に自由摂食の方法ですが、WNPRCと異なり、NIAは「ほぼ自由摂食」にしています。「ほぼ自由摂食」とは、年齢と体重に基づいて計算したカロリーの自由摂食です。つまり、軽い制限がかかっています(注:ラットでは、軽いカロリー制限でも長寿効果がある、との報告があります)。

以上を踏まえて、NIAの研究を深読みすると、「軽いカロリー制限、かつ精製食品を避ける食事をすれば、30%という強いカロリー制限をしなくても十分その効果が期待できる」のかもしれません。もしそうならうれしいですね。決して「カロリー制限が無意味」ではないと思いますので、ご注意下さい。


平成25年7月8日

糖尿病患者の食塩摂取量基準について

過剰の食塩は高血圧を悪化させ、心血管系疾患や脳卒中を増やします。そこで、日本の糖尿病ガイドラインでは食塩摂取量を6g未満としています。基準に下限はありませんが、どうでしょうか。

糖尿病では、少なすぎる塩分摂取が死亡を増やすという成績があります。


1型糖尿病、2807人(平均39歳)の観察研究(10年観察)。食塩摂取量は腎障害末期と逆相関する。食塩摂取量は多すぎても少なすぎても、生存が減少する(6gくらいから下で死亡率が増加します)。(Diabetes Care2011)

2型糖尿病、638人(平均64歳)の観察研究(9.9年観察)。ベースラインで腎障害、心血管疾患をもつ患者群です。塩分低摂取は全死亡、心血管系死亡の増加と関連します(Diabetes Care2011)。


これらの成績はその後のガイドラインに反映されていません。「評価されていないのかな」と思っていましたが、Kotchenらの書いたレビュー(NEJM2013/3)、米国医学研究所報告(2013/5)に内容が反映されていました。両者とも糖尿病では厳重な食塩制限を支持しません

米国医学研究所報告は米国疾病対策センターの依頼によってなされたもので、米国のガイドラインは今後改訂される可能性があります。米国医学研究所が重視したのは、健康転帰(死亡など)による評価です。これまでの報告は血圧を評価項目にしているのが多かったのですが、血圧は代用評価項目に過ぎません、健康転帰で評価する方が良いのです。米国の現時点における食塩摂取基準とその評価を紹介します。


一般集団の基準はナトリウム2.3g未満(食塩として5.8g未満)です。黒人、51歳以上、高血圧、糖尿病、慢性腎障害の人は1.5g未満(同3.8g未満)です。評価は、「一般集団のナトリウム2.3g未満(食塩として5.8g未満)の目標は適切です。1.5-2.3gの制限は根拠が不十分です。糖尿病、慢性腎障害、心不全で利尿薬を多く使っている人に1.5g未満という厳しい食塩制限を行うことは勧められません。」


日本人の平均食塩摂取量は11-12gですから、半分くらいまで減らしてよいでしょう。それ以上減らすべきかは、もう少し様子を見てからが良いかも知れません。


平成25年6月25日

日本人はどれだけのトランス脂肪酸を摂っているか

農林水産省が実施した調査研究(2008年)では、日本人のトランス脂肪酸摂取量は平均0.92〜0.96g/日と推定されています。これは平均総エネルギー摂取量の0.44〜0.47%に相当します。

WHOは総エネルギー摂取量の1%を超えないように勧告しています。これを基に判断をしますと、日本人のトランス脂肪酸摂取量は少ないようです。しかし食生活には個人差が大きく、平均が小さいことと、みんなが大丈夫なことは異なります。

別の調査では、特に女性においてトランス脂肪酸摂取量が問題にすべき量であることが報告されています(J Epidemiol 2010)。この論文では30-69歳の225人(成人)の16日間の食事記録をもとにトランス脂肪酸摂取量を推定しています。国内4箇所の成績です。


脂肪摂取量とトランス脂肪酸摂取量(総エネルギー摂取量との比)の平均値は、(1) 女性で、56.9 g/日 (27.7%) と 1.7 g/日 (0.8%)、(2) 男性で、66.8 g/日 (25.5%) と 1.7 g/日 (0.7%) です。トランス脂肪酸の平均摂取量は少ないのですが、女性の24.4%、男性の5.7%が総エネルギー摂取量の1%を超えています。特に都市部、30-49歳の年齢層においてトランス脂肪酸の摂取量が多くなっています。女性では菓子類、男性では油脂類からの摂取が多いようです。

日本食品分析センターによるトランス脂肪酸含量を紹介しておきます(平成19年3月)。マーガリン: 8.1(0.4-13.5)、ショートニング: 13.6(1.2-31.2)、ビスケット類: 1.8(0.04-7.3)、その他菓子類: 0.49(0-12.7)、ケーキ・ペストリー類: 0.7(0.25-0.7)、マヨネーズ: 1.2(0.49-1.65)(g/100g)です。


農林水産省はトランス脂肪酸だけを問題にしてはいけないと述べています。これは確かにそのとおりで、脂質全体や塩分摂取などにも目を配る必要があります。また低トランス脂肪酸にしたいがために、飽和脂肪酸を増やしている商品もあります。前に紹介しましたが、飽和脂肪酸の多いパーム油はトランス脂肪酸を22%含む大豆油と同程度に心筋梗塞を増やします(J Nutr2005)。

食事全体のバランスに関心を持ちましょう。片寄った食事になっている人は、これを機会に考えて見ましょう。


平成25年4月26日