蛋白質をしっかり摂っていると脳卒中が減りそうです
北九州にある久山町で行われた研究です。久山町研究は「日本人のデータ」で重要ですし、世界的にみても研究の質が高いことで知られています。
対象は40-79歳の2400人で、これまで脳卒中や冠動脈疾患のない人たちです。食事内容は70項目にわたる質問票で確認しました。19年間に渡って経過観察したところ、254人が脳卒中を起こしました:172人が虚血性脳卒中(脳梗塞)、58人が脳内出血、24人がクモ膜下出血です。
蛋白摂取量を4群に分けて分析しています。最も少ない群をQ1、最も多い群をQ4とします。
まず全体の蛋白摂取量で分析しています。蛋白摂取量が多くなるにつれ、虚血性脳卒中と脳内出血が減少しました。
植物性蛋白摂取で分析しますと、Q4(39g以上摂取)はQ1(30g未満)に比べて、総脳卒中、虚血性脳卒中がそれぞれ40%、40%減少しました。脳内出血は減少しませんでした。
動物性蛋白摂取で分析しますと、Q4(25g以上摂取)はQ1(16.1g未満)に比べて脳内出血が53%減少しました。Q2(16.1-20.2g摂取)、Q3(20.3-24.9g摂取)でもそれぞれ55%、47%減ですので、動物性蛋白が最も少ないQ1だけがリスクのようです。残念ながら総脳卒中、虚血性脳卒中は動物性蛋白の摂取量と関連していませんでした。
クモ膜下出血はどの分析でも有意でありませんでした。
以上の成績を考えますと、脳卒中を減らしたければ植物性蛋白質が重要かもしれません。動物性蛋白質はそこそこに摂っておれば良さそうです。
平成29年11月29日
朝ご飯を食べていますか?
朝の食事は王様のように。昼の食事は王子のように。そして夜の食事は乞食のように。
朝ご飯をスキップすると動脈硬化が促進するという報告がでました(J Amer Coll Cardiol 2017)。朝ご飯は抜かないのが良く、朝ご飯を食べても 軽く済ませるのでなく、しっかりと食べるのが良いようです。
対象は40-54歳、開始時に心血管系イベントがない4,052人です。食事問診表で15日間の食事内容を検討しています。
1日摂取カロリーの何%を朝食に摂っているかで3群に分けました。朝食抜きは<5%、軽い朝食は5-20%、しっかりした朝食は20%以上のカロリーを朝食に摂っている人たちとしました。朝食抜きの人は2.9%と少なく、軽い朝食の人は69.4%、しっかりした朝食の人は27.7%でした。
この研究では、病気になる前の段階の動脈硬化をチェックしました。エコー検査で両側の頚動脈、腎動脈分岐以降の大動脈、両側の腸骨〜大腿動脈の動脈硬化(全部で5ヶ所)を、CT検査で冠動脈の動脈硬化(石灰化)を検討しました。得られた結果は、一般的な動脈硬化因子(年齢、性別、腹囲、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙)、食事性因子(赤肉、アルコール、塩分)で補正しています。
エコー検査でプラークを検討しますと、朝食抜きの人の動脈硬化リスクは、朝食をしっかり摂っている人に比べて、腹部大動脈で1.79(1.16-2.77)、頚動脈で1.76(1.17-2.65)、腸骨〜大腿動脈で1.71(1.11-2.64)でした。
朝食抜きの人の「心臓以外の動脈硬化リスク(心臓以外の5ヶ所のうち1か所にプラークがある)」は1.55(0.97-2.46)、「全般的動脈硬化(全6ヶ所のうち4ヶ所以上で動脈硬化がある)」リスクは2.57(1.54-4.31)でした。
軽い朝食の人のリスクも少し上がっていました。頚動脈で1.21(1.03-1.43)、腸骨〜大腿動脈で1.17(1.00-1.37)でした。
朝食を抜く、あるいは軽く済ませる人としっかり朝食を摂る人では、食事配分以外にも生活習慣に違いがあります。因果関係は複雑かもしれませんが、朝食はしっかり摂るのが良いようです。
平成29年10月17日
カロリーゼロ炭酸飲料と認知症
人工甘味料によるカロリーゼロ炭酸飲料は食欲亢進をもたらし、肥満・メタボリックシンドロームを引き起こす可能性があります。平成21年に大阪糖尿病患者教育担当者研修会(ODES)でこのことを講演しましたが、当時はペプシ、コカ・コーラに続いて三ツ矢サイダーがカロリーゼロ飲料に参入したばかりでした。いまやカロリーゼロは大変な人気商品になっています。
カロリーゼロ炭酸飲料と脳卒中、認知症の論文が出ましたので紹介します(Stroke2017)。認知症については初めての論文になります。対象は脳卒中研究は45歳超の2888人、認知症研究は60歳超の1484人です。飲料摂取量は質問票で判断しています(食事記録との比較でカロリーゼロソフトドリンクとペプシ/コカ・コーラの相関係数は0.81と高く、大きな問題はなさそうです)。10年ほど観察し、97人の脳卒中(82人が虚血性)、81人の認知症(アルツハイマー型が63人)ありました。
年齢、性別、教育(認知症研究)、カロリー摂取量、食事の質、身体活動量、喫煙で補正しますと、”カロリーゼロ飲料”の最近の摂取量が多い、あるいは総摂取量が多い人で虚血性脳卒中、総認知症、アルツハイマー型認知症が増えていました。まったく飲まない人を基準にすると、最もよく飲む人(1日1本以上)では、虚血性脳卒中リスクが2.96、アルツハイマー型認知症リスクが2.89に増えていました(総摂取量による分析)。砂糖含有飲料では関連がありませんでした。
”カロリーゼロ飲料”をたくさん飲む人でなぜ認知症が増えていたのか、その仕組みはよく分かりません。観察研究なので因果関係まで言えませんが、カロリーゼロ炭酸飲料は控えめにするのが良いでしょう。
平成29年5月13日
アルコールは蒸留酒が良い?:アルコールの種類と糖尿病発症リスク
アルコールはなかなか難しい問題ですね。アルコールそのものの影響以外に、一緒に増えてしまう食事や気の緩みもあるでしょうし、肝障害、膵障害、さらに依存症も考える必要があります(注:身体に悪影響があることを知りながら飲んでしまう人は依存症です)。
飲酒後の血糖をみますと、炭水化物を含まない蒸留酒が一番影響が少ないかもしれません。 では、糖尿病発症リスクについてはどうでしょうか。
13編の前向き試験をメタ解析した論文(J Diabetes Investig 2016)が発表されました。参加者は397,296人、糖尿病は20,64人発症しています。アルコール飲料はワイン、ビール、蒸留酒の3つに分けて解析しています。
「ほとんどアルコールを飲まない人」に比べて、ワインを飲む人は糖尿病発症リスクが0.85と下がり、ビールと蒸留酒では下がる傾向に留まりました(0.96と0.95)。飲酒量との関連をみますと、3種の飲料ともU字型を示しました。最も糖尿病が少なくなるアルコール量はワインで20-30g(糖尿病リスクが20%減)、ビールで20-30g(同9%減)、蒸留酒で7-15g(同5%減)でした。
結論は逆でしたね。この研究で日本酒がないのが残念です。
平成29年2月2日