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フィブラート系薬剤は心血管イベントを減らさない !?

中性脂肪が高くなると心血管イベント(心筋梗塞など)が増えます。しかし中性脂肪を下げる薬が心血管イベントを減らすかどうかはよく分かっていません。

これまでナイアシン製剤、フェノフィブラートが中性脂肪を減らしながらも、心血管イベントを減らさなかったことが報告されています。ただ、サブ解析から糖尿病をもつ人では何がしかの効果があるのではないか、と推定されていました。

今回、糖尿病の人を対象にペマフィブラート(パルモディア)が心血管イベントを減らすかどうかを検討した成績が報告されましたので、紹介します(NEJM 2022)。

ペマフィブラートは日本で開発された薬です。フィブラート系薬剤はPPARαに作用しますが、ペマフィブラートはPPARαに対する選択性が高く、注目された薬です。

今回の研究の対象は、2型糖尿病があり、中性脂肪200-499mg/dl、HDLコレステロール40mg/dl以下の方です。ペマフィブラート投与前の空腹時中性脂肪は平均271mg/dl、HDLコレステロールは平均33mg/dlでした。66.9%に心血管疾患があります。全員で10,497人、観察期間は〜3.4年でした。

プラセーボ(偽薬)と比較して、ペマフィブラート投与群では投与開始して4ヶ月で中性脂肪が26.2%減少、VLDLコレステロールが25.8%減少、レムナントコレステロールが25.6%減少。アポリポ蛋白C-IIIが27.6%減少しました。動脈硬化に関与するアポリポ蛋白Bは+4.8%と減少を認めませんでした。

主要評価項目は非致死性の「心筋梗塞+脳梗塞+冠動脈治療」、心血管死です。主要評価項目はペマフィブラート群で572人、偽薬群で560人起こり、ハザード比は1.03(0.91-1.15)、両群間で差を認めませんでした。

今回の対象集団では、コレステロールを下げるスタチンが95%の人に処方されています(強力スタチンは69%の人に処方)。スタチンが処方され、強力な脂質低下療法を受けている人では、ペマフィブラートで中性脂肪が下がっても、心血管イベントを抑える効果はないようです


令和4年11月22日

身体活動パラドックス:余暇時間の運動が大切

一般に「運動は身体に良い」と言われています。しかし「仕事中の身体活動量」が多い場合は命を縮めます。これは身体活動パラドックスと呼ばれています。

まずメタ解析論文(Br J Sports Med 2018)を紹介します。この論文は17研究、総193,696人を解析しています。仕事中の身体活動量が多い男性は、仕事中の活動量の低い男性に比べて18%早期死亡が増えていました

仕事中の身体活動が身体に悪いのはなぜでしょうか。余暇時間と仕事中では「身体活動の質」が異なるからと考えられます。

「仕事中の身体活動」は、健康維持に必要な活動強度がなくてだらだら続いたり、単調で一定の姿勢を続けたり、十分な回復時間がないかもしれません。ストレスで一日を通して血圧・脈拍が上がるかもしれません。

比べて「余暇時間の身体活動」は短時間で十分な強度の動的活動が行われ、回復時間もきっちりとれることが多いと考えられます。

今回、新しい論文(Eur Heart J 2021)が出ましたので紹介します。対象は2003-2014年にコペンハーゲン一般住民研究データベースに登録した104,046人(20-100歳)で、交絡因子を検討して研究の精度を高めています。

10年(中央値)の経過観察期間中に、7913人のMACE(主要心血管疾患:致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、致死性脳卒中、非致死性脳卒中、他の冠動脈血管死)があり、全部で9846人が死亡しています。

「余暇時間の身体活動」で検討すると、中等度、高強度、超高強度の活動をしている人はあまり活動していない人に比べて、補正後MACEリスクが14%,、23%、15%ほど減少しました。

一方、「仕事中の身体活動」で検討すると、高強度、超高強度の活動をしている人は15%、35%ほどリスクが増大していました。

全死亡のリスクも同様でした。「余暇時間の活動」ではそれぞれ、26%、41%、40%減少し、「仕事時間の活動」では13%、27%増加していました。

「仕事中の身体活動」は「身体にとって良い運動」とは別物ですね。


令和3年6月4日

SGLT2阻害薬の心血管系保護作用

SGLT2阻害薬(カナグル、フォシーガ、ジャディアンスなど)は尿糖を増やして血糖を下げる薬です。

これまで無作為試験でSGLT2阻害薬に心血管系保護作用があることが報告されていましたが、実際の臨床の場でも保護作用が確認されました(BMJ 2020)。

カナダ7州とイギリスの2013-2018年の臨床データの解析です。SGLT2阻害剤を初めて処方された209,867人と、処方傾向をマッチさせたDPP-4阻害薬処方の209,867人の比較です。

DPP-4阻害薬(ジャヌビア、エクア、ネシーナ、トラゼンタ、テネリアなど)はインクレチンの働きを高めて血糖を下げる薬です。DPP-4阻害薬は東アジア人で効果が高いことが知られています。

主要評価項目はMACE(主要心血管イベント:心筋梗塞+脳梗塞+心血管死)です。二次項目がMACEの個々のイベント、心不全、全死亡です。観察期間は0.9年です。

結果ですが、MACEのリスク比0.76(心筋梗塞0.82、心血管死0.60)、心不全0.43、全死亡0.60と各項目のリスク比が減少していました。またSGLT2阻害薬(カナグル、フォシーガ、ジャディアンス)の薬物間の差を認めませんでした。

脳梗塞についてはリスク比0.85(0.72-1.01)と減少傾向にありましたが、有意差がありませんでした。SGLT2阻害薬は脱水を来して脳梗塞が増える怖れがありましたが、その心配はなさそうです。

この研究でSGLT2阻害薬のMACE抑制効果がさらにはっきりしたことになります。


令和2年11月25日

ココナッツオイルは心血管系に悪い

ココナッツオイルはココヤシの胚乳から取れる油です。ヤシからとれる油ということで間違えやすいのですが、パームオイル(アブラヤシの果肉から取れる油)、パーム核油(アブラヤシの胚乳から取れる油)は、ココナッツオイルと別物です。

ココナッツオイルは、植物性でコレステロールを含まず、中鎖脂肪酸を多く含んでいます(中鎖脂肪酸は炭素数が中程度の脂肪酸です)。中鎖脂肪酸は長鎖脂肪酸と違った性質を持っています。そのため、飽和脂肪酸であっても中鎖脂肪酸の多いココナッツオイルは健康に良いと考える人がいます。

しかしこれは間違っていて、ココナッツオイルは心血管系疾患のリスクを上げると報告されています。ココナッツオイルのシステマティックレビューとメタ分析が報告されました(Circulation 2020)ので紹介します。

このメタ分析では16編の臨床試験をまとめています。ココナッツオイルは非熱帯性の植物油(一般の植物油)と比べて、LDLコレステロールを10.47mg/dlほど増加させました。LDLコレステロールはいわゆる悪玉コレステロールですので、LDLコレステロールを上げるココナッツオイルは身体に悪いと考えられます。なお血糖、炎症マーカー、身体脂肪にはココナッツオイルの影響がありませんでした。

飽和脂肪酸を摂ると、LDLコレステロールと共にHDLコレステロールも増加します。今回の分析でもココナッツオイルはHDLコレステロールを4.00mg/dlほど増加させています。HDLコレステロールは一般に善玉コレステロールと言われますが、論文では増加したHDLコレステロールに抗動脈硬化作用はないと考察しています。

ココナッツオイルは86.5%が飽和脂肪酸で、その半分がラウリル酸(炭素数12)です。このラウリル酸はちょっと変わった中鎖脂肪酸です。普通の中鎖脂肪酸は小腸で吸収されると門脈に入って肝臓に運ばれます。そのため代謝が速いのですが、ラウリル酸はこの経路で代謝されません。カイロミクロンになって胸管(リンパ管)を通って血中に運ばれます。これは長鎖脂肪酸と同じ経路です。

ラウリル酸は炭素数の多い長鎖脂肪酸の性格をもっており、コレステロールを上げる作用もパルミチン酸(長鎖飽和脂肪酸の代表、炭素数16)の2/3程度あると報告されています。

以上を考えますと、ココナッツオイルはあまり摂らない方が良い油のようです。
今回は取り上げませんでしたが、パームオイルも動脈硬化を促進させますので控えるのが良いでしょう。


令和2年3月22日 

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