今どきの1型糖尿病の人は痩せてない
1型糖尿病は痩せている人が多いと言われてきました。しかし、新しい米国統計では1型糖尿病の人の2/3は過体重ないしは肥満であることが分かりました(Ann Intern Med 2023)。
米国国民健康聞き取り調査(NHIS:2016、2017、2019、2020、2021年施行)の分析です。糖尿病分類が可能であった成人128,571人(1型糖尿病が733人、2型糖尿病が12,397人、糖尿病の無い人が115,441人)が対象です。
日本ではBMI(体格指数、肥満指数)25以上を肥満とします。欧米では25-30を過体重、30以上を肥満とします。それは日本人ではBMI 25以上で、欧米人では30以上で体重増加の弊害が多くなるからです。
分析結果です。1型糖尿病の人でBMIが25以上(過体重〜肥満)の人は62%、糖尿病のない人で64%で、この2群で太っている人の割合は同じでした。一方、2型糖尿病の人は太っている人が多く、過体重〜肥満の比率は86%でした。
過体重〜肥満で運動を勧められた人は、2型糖尿病、1型糖尿病、糖尿病のない人で、それぞれ60%、54%、44%でした。食事療法(脂肪やカロリー制限)を勧められた人はそれぞれ60%、51%、41%でした。2型糖尿病では生活習慣管理を勧められることが多く、1型糖尿病や糖尿病のない人ではちょっと少なかった結果です。
1型糖尿病の治療ではインスリン調整〜血糖管理に重点をおくことが多いのですが、太っている人は生活習慣を管理して減量していきましょう。
令和5年2月17日
2型糖尿病の子供は必ずしも太ってない
2型糖尿病は太っているイメージがありますが、子供の場合は必ずしも太っていません。メタ分析の論文(JAMA Nework Open 2022)が出ましたので、紹介します。
53論文、8942人のメタ分析です。肥満の定義ですが、多くの論文は年齢・性別BMI(体格指数、肥満指数)の95パーセンタイル値を採用しています。ただ、BMI30以上にしている論文や定義が記載されていない論文もあり、雑多です。
メタ分析の結果です。2型糖尿病の子供の肥満有病率は75.27%でした。糖尿病発症時の肥満有病率は77.24%でした。つまり4人に1人は太っていなかったのです。
肥満有病率はアジア人で64.50%とさらに低くなります。白人は89.86%と高くなります。人種差(あるいは環境差)は大きいようです。
BMI(体格指数、肥満指数)が基準範囲にあるのは、オセアニアで16.43%、アジアで13.95%であり、ヨーロッパで9.52%、南北アメリカで4.21%、中東で1.26%でした。
我が国では小児生活習慣病予防健診が行われていますが、肥満以外の糖尿病原因が分かって予防対策が精密になると良いですね。
令和5年2月3日
大腿筋内脂肪と心不全
本来脂肪が溜まる場所でないところに溜まる脂肪を異所性脂肪と呼びます。筋肉にも脂肪が溜まります。最近、大腿筋肉内の脂肪が心不全リスクと関連していることが報告されましたので紹介します(J Am Coll Cardiol HF 2022)。
今回の研究の新しいところは、脂肪の沈着部位を大腿筋肉内と大腿筋周膜に分けて分析したことです。
対象集団は、2,399人の米国人で、年齢は70-79才、男性が48%、黒人が40.2%(残りは白人)です。研究開始時には心不全がありません。12.2年(中央値)経過観察している間に、心不全が485例発症しました。
年齢、性別、人種別、教育別、血圧値、空腹時血糖、喫煙、冠動脈疾患、クレアチニン(腎機能の指標)で補正後の成績です。
筋肉内脂肪は心不全の発症と関連していました:第3分位のハザード比は第1分位に比較して、1.34(1.06-1.69)でした。この関連は、さらにBMI(体格指数)、体脂肪率、内臓脂肪、大腿筋力で補正しても認められました。いっぽうで、筋周膜脂肪は心不全に関連していませんでした。
まとめますと、筋肉内の脂肪が心不全に関連し、筋肉周囲の脂肪は心不全に関連していませんでした。
筋肉は運動臓器ですが、内分泌臓器とも考えられます。筋肉内で起こる変化は炎症、酸化ストレス、神経ホルモン様作用を通じて遠く離れた心臓の働きに影響を与えます。
筋肉内の脂肪ですが、インスリン抵抗性(メタボリックシンドロームが代表)、炎症、筋萎縮などで、溜まりやすくなります。食事では、とくに飽和脂肪酸が多くなると溜まりやすくなります。
研究はまだ糸口の段階ですが、心不全予防の新しい道筋が示されるかもしれません。
令和4年9月30日
飽和脂肪酸と甘いものとどちらが悪い?
悪いものどうしの比較です。
飽和脂肪酸(動物性脂肪に多い)と遊離糖を比較した論文(Diabetes Care 2020)です。遊離糖は聞きなれないかもしれません。食物に添加する単糖あるいは二糖類、または蜂蜜、シロップ、ジュースに含まれる糖を指します。ブドウ糖、果糖、果糖ブドウ糖液糖、蔗糖(砂糖)などで、分かりやすく言えば「甘いもの」です。
対象は16名の過体重の男性です。まず1週間の基準食を摂り、次に飽和脂肪酸の多い食事(SFA食)あるいは遊離糖の多い食事(FS食)を4週間続けます。ここで7週間のお休み期間をとります。また1週間の基準食を摂り、前回にSFA食を摂った人はFS食を、FS食を摂った人はSFA食を4週間続けます。
基準食→SFAあるいはFS食→お休み期間→基準食→FS食あるいはSFA食の順です。
SFA(飽和脂肪酸)食の組成は45%脂肪、40%炭水化物、15%蛋白質です。牛肉や肉製品、全乳製品、それにピザやハンバーガーなどのファストフードを勧め、チーズや全バタークッキー、ミルクチョコレートを渡しています。
FS(遊離糖)食の組成は20%脂肪、65%炭水化物、15%蛋白質です。遊離糖(FS)が20%を占めるようにします。キャンデーや砂糖入りの飲み物を渡しています。
調べているのは、肝内中性脂肪(IHTAG)と肝での新たな中性脂肪合成(DNL)、それに全身の代謝マーカーです。
肝内中性脂肪はSFA(飽和脂肪酸)食群で39%増加し、FS(遊離糖)食群ではほとんど変動しませんでした。中性脂肪合成(DNL)は2つの食事群間で差がありませんでした。総コレステロール、HDLコレステロール、非HDLコレステロール、 3-ヒドロキシ酪酸(ケトン体)はFS食群で低下していました。試験食を用いた負荷試験では、負荷後の血糖・インスリン反応は、SFA食群のほうがFS食群よりも増加していました。
飽和脂肪酸の多い食事の方が身体に悪そうです。
令和2年7月24日