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4秒の運動

前日に運動すると食後の中性脂肪代謝が亢進します。1日5000歩以上歩かないとその効果が出ないのですが、わずか4秒の全力運動を数時間おきにするだけで、同じ効果が出るそうです。

今回は運動による食後中性脂肪代謝亢進の論文(Amer Coll Sports Med 2022)を紹介します。

まず「運動すると食後の中性脂肪代謝が亢進する」ことについてです。どのくらい運動すれば脂肪代謝が亢進するかを検討しました。

はじめに全員が同じ運動量で2日間運動して条件を整えています。それから歩数を変えて(標準、中間、低の3群)2日間運動し、その翌日に検査しました。検査法ですが、脂肪の多い食事を食べてもらい、食後6時間までの中性脂肪面積(血清濃度x時間)と脂肪酸化量を検討しました。

標準群の運動量は8,481±581歩/日でした。運動量の少ない2,675±314歩/日の群と4,759±276歩/日の群は、標準群と比べて脂肪代謝が減少していました:食後中性脂肪面積が22-23%高くなり、脂肪酸化が16-19%低くなっていました。

次は4秒運動の成績です。8時間ずっと座り続けてもらいました。座っている間に4秒の全力サイクリング運動を5回してもらいました。翌日に食後脂肪代謝を座りっぱなしの群と比べました。

4秒x5回運動の群は対照群と比べて、食後の中性脂肪面積が31%低下し、脂肪酸化が43%増加しました。なぜ4秒なのかですが、「出来る限り短い運動」ということで4秒を選んだそうです。

次はトレーニング効果の検討です。強い運動を続けると「食後中性脂肪代謝」はさらに増加します。9日間16,048歩(高運動群)、あるいは4,767歩(低運動群)歩いてもらいました。これは毎日の運動です。

低運動群はトレーニング前後で「食後中性脂肪代謝」に変わりがありませんでした。高運動群では、トレーニング前と比べて食後の中性脂肪面積が31%低下、脂肪酸化が21%増加していました。トレーニング効果を示す良い結果ですが、毎日16,000歩はちょっときついかもしれませんね。


令和5年9月16日

コレステロールのサプリ

米国のコレステロールサプリの話です。

米国でよく使われているサプリの効果を、偽薬またはクレストール(ロスバスタチン:スタチン系薬剤)の効果と比較しています(JACC 2022)。

研究に参加したのは心血管系イベントがない40-75歳の人で、LDLコレステロール値は70-189mg/dlでした。

参加者を無作為に(ランダム化)1:1:1:1:1:1:1:1に分け、クレストール5mg、偽薬、サプリ(魚油、シナモン、ガーリック、ターメリック、植物ステロール、紅麹米)* のいずれかを28日間、摂ってもらいました。

190人が薬あるいはサプリの摂取を完了しました。クレストールを服用した人は偽薬、サプリを摂取した人と比べてLDLコレステロールの低下が大きく、偽薬と比べて35.2%低下しました。サプリについては、どのサプリを摂取した人も偽薬と比べてLDLコレステロールの有意な変化はありませんでした

米国はサプリ大国で、サプリに毎年500億ドル費やされているそうです。しかし米国で売られているサプリにはコレステロールを下げる効果を期待できないようです。日本のサプリも同じかもしれません。


令和5年2月10日

* 研究で使われたサプリ商品
魚油:Nature Made fish oil 2400mg
シナモン:Nutriflair brand cinnamon 2400mg
ガーリック:Garlique brand garlic (5000mcg allicin)
ターメリック:BioSchwartz brand turmeric curcumin (bioperine 4500mg)
植物ステロール:Nature Made CholestOffPlus (1600mg plant sterols)
紅麹米:Arazo Nutrition brand red yeast rice 2400mg

フィブラート系薬剤は心血管イベントを減らさない !?

中性脂肪が高くなると心血管イベント(心筋梗塞など)が増えます。しかし中性脂肪を下げる薬が心血管イベントを減らすかどうかはよく分かっていません。

これまでナイアシン製剤、フェノフィブラートが中性脂肪を減らしながらも、心血管イベントを減らさなかったことが報告されています。ただ、サブ解析から糖尿病をもつ人では何がしかの効果があるのではないか、と推定されていました。

今回、糖尿病の人を対象にペマフィブラート(パルモディア)が心血管イベントを減らすかどうかを検討した成績が報告されましたので、紹介します(NEJM 2022)。

ペマフィブラートは日本で開発された薬です。フィブラート系薬剤はPPARαに作用しますが、ペマフィブラートはPPARαに対する選択性が高く、注目された薬です。

今回の研究の対象は、2型糖尿病があり、中性脂肪200-499mg/dl、HDLコレステロール40mg/dl以下の方です。ペマフィブラート投与前の空腹時中性脂肪は平均271mg/dl、HDLコレステロールは平均33mg/dlでした。66.9%に心血管疾患があります。全員で10,497人、観察期間は〜3.4年でした。

プラセーボ(偽薬)と比較して、ペマフィブラート投与群では投与開始して4ヶ月で中性脂肪が26.2%減少、VLDLコレステロールが25.8%減少、レムナントコレステロールが25.6%減少。アポリポ蛋白C-IIIが27.6%減少しました。動脈硬化に関与するアポリポ蛋白Bは+4.8%と減少を認めませんでした。

主要評価項目は非致死性の「心筋梗塞+脳梗塞+冠動脈治療」、心血管死です。主要評価項目はペマフィブラート群で572人、偽薬群で560人起こり、ハザード比は1.03(0.91-1.15)、両群間で差を認めませんでした。

今回の対象集団では、コレステロールを下げるスタチンが95%の人に処方されています(強力スタチンは69%の人に処方)。スタチンが処方され、強力な脂質低下療法を受けている人では、ペマフィブラートで中性脂肪が下がっても、心血管イベントを抑える効果はないようです


令和4年11月22日

若い頃のコレステロール (続)

若い時のコレステロールが動脈硬化に大きく関連するという研究は昨年も発表されています(J Am Coll Cardil 2020)。

4,958人(18-30歳)を1985-1986年に登録し、16年追跡した研究(CARDIA)です。

275人が心血管疾患を発症しています。LDLc暴露面積(LDLcx年)のハザードリスクは1.053(100mg/dlx年ごと)、LDLc勾配とは0.797(mg/dl/年ごと)でした。LDLc暴露量が平均より多く、年齢とともにLDLcが下がっている人が最も多く心血管疾患を発症していました。

若い時のLDLcの方が影響が強く、動脈硬化を予防するには若い時期からLDLcをコントロールする必要がありそうです。

日本人で考えてみますと、「今の高齢者」が若い頃は、コレステロール値が低めでした。「今の若い人」は同年齢の米国人よりコレステロール値が高くなっています。若い人の食育は大切に思います。

動脈硬化疾患はこれからどんどん増えていくかもしれません。


令和3年10月11日

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