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糖尿病と鶏卵の介入試験

過去10年間に発表された「糖尿病と鶏卵の論文」を解析したメタ分析論文(Eur J Clin Nutr 2018)では、

(1) 介入試験では鶏卵には心血管系疾患リスクがない
(2) 観察研究で同リスクが指摘されるが、そのリスクは鶏卵そのものでなく、鶏卵摂取に付随した他の因子の影響だろうと結論付けています。

2型糖尿病患者と鶏卵の総説(Nutrients 2019)も、観察研究について同様の説明をしています。この論文では「鶏卵の動脈硬化予防効果」を述べ、鶏卵のどの成分が良い働きをするか、仮説をまとめています:卵白加水物、ルテイン・ゼアキサンチン、コリン、鶏卵由来ペプチドが研究されているそうです。

代表的な介入試験、DIABEGG研究を紹介します。DIABEGG研究はオーストラリアで行われました。まず観察期間3ヶ月の成績が発表され(Am J Clin Nutr 2015)、次いで観察期間12ヶ月の成績(Am J Clin Nutr 2018)が発表されました。参加人数は128人です。結果ですが、鶏卵摂取(朝食時に2個)は、糖尿病患者の心血管系疾患のリスク因子(血糖コントロール、血清脂質、炎症マーカー、酸化ストレス、アディポネクチン)に影響しませんでした

米国で行われた介入試験も紹介しておきます(Food Funct 2018)。42人の過体重〜肥満の糖尿病予備軍〜糖尿病の方(40-75歳)が対象です。「鶏卵1個を12週間食べる」と空腹時血糖が4.4%減少し、インスリン抵抗性(HOMA-IR)が改善しました。HDLコレステロールに関連するアポ蛋白A1、ABCA1が増加し、LDLコレステロールの変動は有意でありませんでした。結論は「毎日1個の鶏卵は糖尿病リスクを減らし、脂質に悪影響を与えなかった」です。

介入試験は残念ながら観察期間が短く、代替指標を用いていて、説得力が少し弱いところがあります。そのため「鶏卵全面解禁」にはもう少し研究が必要でしょう。鶏卵の厳しい制限は不要かもしれませんが、原則は健康的な食事として食べることです。


令和元年10月25日

鶏卵の影響:統計方法に問題?

鶏卵の成績が一定しない原因は「統計」に問題があるかもしれません。

米国国民健康栄養調査の18,988人を対象に「鶏卵摂取と肥満、心血管系疾患リスク」を検討した論文があります(J Nutr 2015)。この論文では (1) 通常の分析と (2) クラスター分析(類似している者同士を自動的にグループ分けする分析方法)を行っています。

通常の分析で、鶏卵摂取の有無で肥満・腹囲との関連を解析しました。そうしますと、鶏卵摂取と肥満・腹囲の間に有意な関連を認めました。

次にクラスター分析で「鶏卵を含めた食品の摂食パターン」を解析しました。そうしますと、鶏卵を摂取する人は8種類の摂食パターンに分類され、そのうち2種類の摂食パターンが鶏卵摂取と肥満・腹部脂肪と関連していました。また別の1種類のパターンが鶏卵摂取と拡張期血圧、LDLコレステロールと関連していました。

鶏卵以外にどういったものを食べるかに8通りのパターンがあり、そのパターンによって鶏卵の影響が観察されたのです。

この研究では、人口の2%足らずしかいない摂食パターンを持つ人が通常の統計分析結果に影響を与えたと結論しています。普通に統計をとると、統計学的に補正しても補正しきれず、その影響が残ってしまうのです。

悪い摂食パターンの人はファーストフードを倍くらい多く摂っています。鶏卵を摂る場合、自分が健康的な食事を摂っているか注意するのが良いかもしれません。


令和元年9月26日

とかく鶏卵の評価は難しい:コレステロール以外

鶏卵には良質の蛋白、ビタミン類、脂肪酸、コリン、抗酸化物質、微量金属が含まれています。コレステロールだけではありません。これらの栄養素はどう評価したら良いでしょうか。昔から鶏卵は栄養バランスが崩れている人には良い食品とされてきました。鶏卵を摂取する人の栄養状態によって鶏卵の効果が違ってくるかもしれません。

鶏卵に含まれる栄養素は餌の影響を大きく受けます。たとえば飽和脂肪酸の多い餌で飽和脂肪酸が多くなり、不飽和脂肪酸の多い餌で不飽和脂肪酸が多くなります(Vet Res Forum 2015)。餌にこだわった高級鶏卵を見かけますが、通常の鶏卵と比べてどれだけ身体への影響が違うのか悩みます。

魚卵は鶏卵と同様にコレステロールが多いのですが、魚卵と動脈硬化リスクを検討した論文は探しても見つかりません。魚卵はω3-不飽和脂肪酸が多く、もしこちらの影響が強いなら、魚卵は抗動脈硬化作用の食品かもしれません。興味があるのですが、残念ながら研究がありません。

米国人のための食事ガイドライン2015-2000では「鶏卵はコレステロールが多いが飽和脂肪酸が少ない、だから食べて良い」とコレステロール以外の栄養素で鶏卵の影響を説明しています。影響する栄養素は飽和脂肪酸だけでないのですが、まあ悪玉の代表ですね。

鶏卵以外の食品の影響もありそうです。鶏卵を止めると、別の食材で穴埋めをします。もし超加工食品など身体に悪い食材が増えるなら、却って良くないかもしれません。また鶏卵を食べる場合でも、何を一緒に食べるかが大切です。たとえばベーコンエッグが好きな人は、鶏卵でなくベーコンが悪さをする可能性が高いです。


令和元年9月18日

最近の鶏卵の統計:さまざまな結論

米国民を対象に鶏卵が心血管系疾患を増加させるという論文が発表されました(JAMA 2019)。この論文では、29,615人を17.5年観察しています。その結果は、コレステロールの摂取が300mg増える毎に心血管系疾患のリスクが1.17倍に増えました。なお米国の鶏卵は小ぶりで1個200mgのコレステロールが含まれています。

別の米国論文(J Am Coll Nutr 2019)は逆の結論です。23,524人の米国人を対象に「鶏卵を摂ると糖尿病と高血圧が増える」が、「全死亡と心血管疾患死亡のリスクは増えない」成績が発表されています。この論文では既発表論文のメタ分析もなされていて、メタ分析でも「全死亡と心血管疾患死亡のリスクは増えない」としています。おまけですが、男性では鶏卵で脳卒中死亡が減るようです。

次に中国の成績ですが、鶏卵が心血管系疾患を減らすという報告です(BMJ 2018)。この研究では鶏卵摂取量を5群に分けて検討しています。46,213人を平均8.9年観察し、鶏卵を最も多く摂取する群(平均0.76個/日)は、ほとんど摂取しない群(0.22個/日)に比べて心血管系疾患の発症リスクが0.89と低下していました。この論文では最も多い摂取群でも平均1日1個未満ですね。

論文によって結論がさまざまです。鶏卵の影響には地域特性もあります以前にも紹介しましたが、米国で行われた研究だけが「鶏卵を摂取すると糖尿病患者が増える」結果が出ています。「鶏卵を摂取すると糖尿病リスクが減る」とする北欧の論文もあります。鶏卵の影響に本来地域差があるわけがなく、明らかに「鶏卵以外の背景」が統計に影響を与えています


令和元年9月9日

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