院長ブログ一覧

朝ご飯を食べていますか?

朝の食事は王様のように。昼の食事は王子のように。そして夜の食事は乞食のように。

朝ご飯をスキップすると動脈硬化が促進するという報告がでました(J Amer Coll Cardiol 2017)。朝ご飯は抜かないのが良く、朝ご飯を食べても 軽く済ませるのでなく、しっかりと食べるのが良いようです。

対象は40-54歳、開始時に心血管系イベントがない4,052人です。食事問診表で15日間の食事内容を検討しています。

1日摂取カロリーの何%を朝食に摂っているかで3群に分けました。朝食抜きは<5%、軽い朝食は5-20%、しっかりした朝食は20%以上のカロリーを朝食に摂っている人たちとしました。朝食抜きの人は2.9%と少なく、軽い朝食の人は69.4%、しっかりした朝食の人は27.7%でした。

この研究では、病気になる前の段階の動脈硬化をチェックしました。エコー検査で両側の頚動脈、腎動脈分岐以降の大動脈、両側の腸骨〜大腿動脈の動脈硬化(全部で5ヶ所)を、CT検査で冠動脈の動脈硬化(石灰化)を検討しました。得られた結果は、一般的な動脈硬化因子(年齢、性別、腹囲、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙)、食事性因子(赤肉、アルコール、塩分)で補正しています。

エコー検査でプラークを検討しますと、朝食抜きの人の動脈硬化リスクは、朝食をしっかり摂っている人に比べて、腹部大動脈で1.79(1.16-2.77)、頚動脈で1.76(1.17-2.65)、腸骨〜大腿動脈で1.71(1.11-2.64)でした。

朝食抜きの人の「心臓以外の動脈硬化リスク(心臓以外の5ヶ所のうち1か所にプラークがある)」は1.55(0.97-2.46)、「全般的動脈硬化(全6ヶ所のうち4ヶ所以上で動脈硬化がある)」リスクは2.57(1.54-4.31)でした。

軽い朝食の人のリスクも少し上がっていました。頚動脈で1.21(1.03-1.43)、腸骨〜大腿動脈で1.17(1.00-1.37)でした。

朝食を抜く、あるいは軽く済ませる人としっかり朝食を摂る人では、食事配分以外にも生活習慣に違いがあります。因果関係は複雑かもしれませんが、朝食はしっかり摂るのが良いようです。


平成29年10月17日

カロリーゼロ炭酸飲料と認知症

人工甘味料によるカロリーゼロ炭酸飲料は食欲亢進をもたらし、肥満・メタボリックシンドロームを引き起こす可能性があります。平成21年に大阪糖尿病患者教育担当者研修会(ODES)でこのことを講演しましたが、当時はペプシ、コカ・コーラに続いて三ツ矢サイダーがカロリーゼロ飲料に参入したばかりでした。いまやカロリーゼロは大変な人気商品になっています。

カロリーゼロ炭酸飲料と脳卒中、認知症の論文が出ましたので紹介します(Stroke2017)。認知症については初めての論文になります。対象は脳卒中研究は45歳超の2888人、認知症研究は60歳超の1484人です。飲料摂取量は質問票で判断しています(食事記録との比較でカロリーゼロソフトドリンクとペプシ/コカ・コーラの相関係数は0.81と高く、大きな問題はなさそうです)。10年ほど観察し、97人の脳卒中(82人が虚血性)、81人の認知症(アルツハイマー型が63人)ありました。

年齢、性別、教育(認知症研究)、カロリー摂取量、食事の質、身体活動量、喫煙で補正しますと、”カロリーゼロ飲料”の最近の摂取量が多い、あるいは総摂取量が多い人で虚血性脳卒中、総認知症、アルツハイマー型認知症が増えていました。まったく飲まない人を基準にすると、最もよく飲む人(1日1本以上)では、虚血性脳卒中リスクが2.96、アルツハイマー型認知症リスクが2.89に増えていました(総摂取量による分析)。砂糖含有飲料では関連がありませんでした。

”カロリーゼロ飲料”をたくさん飲む人でなぜ認知症が増えていたのか、その仕組みはよく分かりません。観察研究なので因果関係まで言えませんが、カロリーゼロ炭酸飲料は控えめにするのが良いでしょう。


平成29年5月13日

アルコールは蒸留酒が良い?:アルコールの種類と糖尿病発症リスク

アルコールはなかなか難しい問題ですね。アルコールそのものの影響以外に、一緒に増えてしまう食事や気の緩みもあるでしょうし、肝障害、膵障害、さらに依存症も考える必要があります(注:身体に悪影響があることを知りながら飲んでしまう人は依存症です)。

飲酒後の血糖をみますと、炭水化物を含まない蒸留酒が一番影響が少ないかもしれません。 では、糖尿病発症リスクについてはどうでしょうか。

13編の前向き試験をメタ解析した論文(J Diabetes Investig 2016)が発表されました。参加者は397,296人、糖尿病は20,64人発症しています。アルコール飲料はワイン、ビール、蒸留酒の3つに分けて解析しています。

「ほとんどアルコールを飲まない人」に比べて、ワインを飲む人は糖尿病発症リスクが0.85と下がり、ビールと蒸留酒では下がる傾向に留まりました(0.96と0.95)。飲酒量との関連をみますと、3種の飲料ともU字型を示しました。最も糖尿病が少なくなるアルコール量はワインで20-30g(糖尿病リスクが20%減)、ビールで20-30g(同9%減)、蒸留酒で7-15g(同5%減)でした。

結論は逆でしたね。この研究で日本酒がないのが残念です。


平成29年2月2日

どの程度の食塩摂取が健康に良いか (5)

最後にLancet論文(2016)を紹介します。尿中ナトリウム排泄量が健康に及ぼす影響はU字型になりますが、このU字型が高血圧の有無で変わるかどうかを検討しています。

133,118人(高血圧63,559人、非高血圧69,559人)、55歳(中央値)、49ヶ国で行われた4つの大規模前向き研究のデータをプールして分析しています。観察期間は4.2年(中央値)、エンドポイントは心血管系疾患発症・死亡です。1日ナトリウム排泄量は朝スポット尿で推定しています。

1日ナトリウム排泄量が増えると血圧が上昇し、ナトリウム1g(食塩2.54g相当)増えるごとに高血圧のある人で2.08、ない人で1.22mmHgほど高くなりました。


高血圧のある人で、1日ナトリウム排泄量が4-5g(食塩10.1-12.7g相当)の人を基準にしますと、7g(食塩18g相当)以上の人のリスクは1.23、3g(食塩7.6g相当)未満の人のリスクは1.34でした(U字型)。


高血圧のない人で、1日ナトリウム排泄量が4-5gの人を基準にしますと、 1日ナトリウム排泄量が7g以上の人のリスクは0.90(増加なし)、3g未満の人のリスクは1.26でした(増加)。


まとめますと、(1) 高血圧のある人ではナトリウム排泄(食塩摂取)が多いと心血管系疾患と死亡リスクが増えます。(2) 高血圧のない人ではナトリウム排泄が多くても同リスクは増えません。(3) 高血圧の有る無しに関わらず、ナトリウム排泄が少ない人は心血管系疾患と死亡リスクが増えます。

この論文は5月20日にオンライン発表されました。有名雑誌に発表されたこともあってメディアの反応もあり、米国心臓病学会はすぐさま反対声明を発表しました。6月1日にはNew Engl J Med オンラインにも反論記事が掲載されています。

減塩をめぐる問題は決着していません。強力な降圧剤が使えるようになった現在、食塩が血圧を少し上げるとして、どの程度から過剰摂取でしょうか。「エビデンス(確固とした証拠)に基づく医学(EBM)」の総本山であるコクランデータベース(2014)では減塩による心血管系疾患予防のエビデンスレベルは低いと結論しています。減塩しなくて良いという意味でなく、確固とした証拠を得るにはまだまだ研究が必要というスタンスです。

いろいろ読んでいますと、明らかな食塩の摂りすぎは身体に悪そうです。かと言って、米国流の厳重な制限は現実的でないように思います。まずは穏やかな減塩に取り組んではいかがでしょうか。


平成28年7月28日