日本の糖尿病は増えているか (年齢調整有病率で評価)
「1980年からの糖尿病の世界的趨勢」についての論文が発表されました(Lancet 2016)。なかなかの大作で、住民対象論文751編(440万人が参加)の統合分析論文です。国は146か国に渡ります。世界の糖尿病統計は国際糖尿病連合(IDF)も発表していますが、IDFの統計は情報元によっては自己申告だけに基づいた糖尿病であり、他地方との比較は難しく、細かな傾向分析はしていません。
年齢調整した糖尿病有病率は、男性で1980年の4.3%から2014年の9.0%に、女性では同5.0%から7.9%に増加しています。同有病率は北西ヨーロッパで低く、ポリネシアやミクロネシアでは〜25%と最も高くなっています。次に高いのはメラネシア、中東、北アフリカです。論文では地域別に5年ごとの有病率グラフ、また有病率世界地図が示され、糖尿病発症抑制の到達度を示した世界地図まであります。
この論文の中で日本のデータが紹介されています。
「日本の年齢調整有病率はメタ解析論文で「増加なし」と発表されているが、自分たちの解析でも同様に増加がなかった」。健康日本21の最終評価でも紹介しましたが、年齢調整有病率は増えていません。
この論文に引用されているメタ解析論文(JDI 2015)は160,000人の解析で、糖尿病有病率は70歳以上の男性を除くすべての年齢層で男女とも変動がないと結論しています。そして70歳以上の男性の有病率の増加の一部はコホート効果(生まれ年による生活習慣の違い、特に第二次世界大戦以後の食糧事情の変化)の可能性を論じています。
日本の糖尿病患者数は増加していますが、これは主に糖尿病の多い年齢層の人口増加によるものです。
平成28年9月28日
年齢調整した糖尿病有病率は、男性で1980年の4.3%から2014年の9.0%に、女性では同5.0%から7.9%に増加しています。同有病率は北西ヨーロッパで低く、ポリネシアやミクロネシアでは〜25%と最も高くなっています。次に高いのはメラネシア、中東、北アフリカです。論文では地域別に5年ごとの有病率グラフ、また有病率世界地図が示され、糖尿病発症抑制の到達度を示した世界地図まであります。
この論文の中で日本のデータが紹介されています。
「日本の年齢調整有病率はメタ解析論文で「増加なし」と発表されているが、自分たちの解析でも同様に増加がなかった」。健康日本21の最終評価でも紹介しましたが、年齢調整有病率は増えていません。
この論文に引用されているメタ解析論文(JDI 2015)は160,000人の解析で、糖尿病有病率は70歳以上の男性を除くすべての年齢層で男女とも変動がないと結論しています。そして70歳以上の男性の有病率の増加の一部はコホート効果(生まれ年による生活習慣の違い、特に第二次世界大戦以後の食糧事情の変化)の可能性を論じています。
日本の糖尿病患者数は増加していますが、これは主に糖尿病の多い年齢層の人口増加によるものです。
平成28年9月28日
2%の差は大きいか小さいか (32.7% 対 34.7%)
コレステロールの高い人のための薬にゼチーア(エゼミチブ)という薬があります。ゼチーアは小腸に働き、コレステロールの吸収を抑えます。その結果 血中コレステロールが下がりますが、動脈硬化を抑える作用は実証されませんでした。2008年に発表されたENHANCE試験です(ENHANCE試験ではシンバスタチンとの合剤 ビトリンが使われました: シンバスタチンとビトリンを比較)。
製薬会社は効果がなかったことを隠して大きく宣伝し、売り上げを伸ばしました。2007年の米国ではビトリンの直接宣伝費(消費者への直接宣伝)だけで2億ドルが使われ、50億ドルの売り上げがありました。やがて隠していることがばれて社会問題に発展し、ENHANCE試験は製薬会社と無関係の第3者によって解析され、医学雑誌に発表されました(NEJM 2008)。
2015年にImprove-It試験が発表されました(NEJM 2015)。この試験はシンバスタチンにゼチーアを上乗せしてその効果を観察した研究で、観察期間が平均7年、対象は急性冠症候群後の患者18,144人(平均年齢64歳)です。Improve-It試験ではゼチーアの上乗せ効果が認められ、ゼチーアが動脈硬化を抑えることが実証されました。ただ主要評価項目の絶対差がわずか2%(32.7% 対 34.7%)でした。
これまでFDA(米国食品医薬局)はゼチーアにコレステロールを下げる効果しか認めていませんでした。製薬会社は、ゼチーアに有意な効果が認められたので「心血管系疾患を抑える効果」をFDAに申請しました。FDAはこの申請を却下しました。臨床的にインパクトがないという理由です。リスクの低下は心筋梗塞と脳梗塞の低下でもたらされたものであり、全死亡が下がっていないことも問題視されました。対象が急性冠症候群後の患者であり、安定期にある患者ではもっと差が小さくなるだろうことも指摘されました。
NEJM(2016)に統計の読み方の論文が掲載されました。その中で、統計学的に有意であっても臨床的な意義に乏しい研究として Improve-It試験が紹介されています。2%の差は統計学的には0-4%(95%信頼区間)のどこかであり、余分にかかる薬剤費や起こり得る副作用に見合わないと結論づけています。
最近シンバスタチンよりコレステロール低下作用の強いピタバスタチンを服用している患者にゼチーアの上乗せ効果を検討した成績の発表がありました。HIJ-PROPER試験です。まだ学会発表段階でこれから試験が続きますが、3.9年経過では有意差がありませんでした(32.8% 対 36.9%)。この試験の面白いところは、コレステロール吸収のマーカーであるシトステロールを測定していることです。ゼチーアの上乗せ効果はコレステロール吸収能で大きく変わります。シトステロールが2.2μg/ml未満の人ではゼチーアは効果がありませんでしたが、シトステロールが高い人では29%の相対リスク低減がありました。
ゼチーアはもしかすると、コレステロール吸収の強い人に良い薬かもしれません。しかしシトステロールは保険収載の検査でなく、欧米でも一般的検査でありません。コレステロール吸収の強い人を判別できない現状では、目の前の患者さんに対して効くかもしれないし、効かないかもしれない薬のようです。
平成28年9月23日