どの程度の食塩摂取が健康に良いか (1)
どの程度の食塩摂取が健康に良いかは実はわかっていません。これまで「糖尿病患者の食塩摂取量の基準」、「健康的な食事は慢性腎臓病を減らす」で紹介してきましたが、なかなか難しい問題です 。決着はついていませんが、最近の論文をまとめておきます。
最初に食塩量の表示法について説明します。多くの論文は食塩(NaCl, 塩化ナトリウム)をナトリウム量で示しています(ナトリウムg量を食塩g量に換算するには2.54を掛けて下さい)。疫学では食塩摂取量を推定するのに1日尿中ナトリウム排泄量や食事アンケートが使われています。尿中ナトリウム排泄量がよく使われるのは、摂取したナトリウムの大半が尿中に排泄されるためです。食事アンケートは手間がかかり、摂取量を過小評価する可能性があります。
1日尿中ナトリウム排泄量は24時間蓄尿あるいは朝のスポット尿から推定します。24時間蓄尿はきちんと行われると精度が高いと考えらえれます。しかし尿の一部が捨てられていてもわかりません。特別の薬剤(4-アミノ安息香酸)を用いて検証した論文では7割もの蓄尿検体が不十分な蓄尿だったとの報告もあります。スポット尿は蓄尿に関わる問題点がなく、尿検体の保存も良好です。しかしどの程度24時間排泄量を反映しているか、に弱点があります。
まずPURE研究(N Engl J Med 2014)です。雑誌の同じ号にPURE研究の論文が2つ載っていて、参加人数が102,216人(18ヶ国 )、156,424人(17ヶ国)となかなか壮大です。論文には、インターソルト研究(BMJ 1988)の参加人数が少なかったため、PURE研究では人数を増やしたと書いてあります。1日のナトリウム排泄量は朝スポット尿から推定しています(川崎法)。
PURE研究1つ目の論文は「ナトリウム排泄量・カリウム排泄量と血圧について」検討しています。結果を見ますと、集団全体では「ナトリウム排泄1g (食塩2.54g相当)が増える毎に血圧は平均 2.11/0.78mmHg上昇」していました。
血圧に対する影響は「ナトリウム排泄量の多い」、「高血圧のある」、「高齢者」で強いという結果でした。なおナトリウム排泄量の少ない群(3g/日未満:食塩として7.6g未満)では血圧に有意な影響がありませんでした(同0.74/-0.1mmHg)。カリウム排泄量については今回は割愛します。
おおむね納得のできる結果ではないでしょうか。
注: インターソルト研究(BMJ 1988)は52ヶ国 10,079人、20-59歳が参加した研究で、食塩摂取量(24日蓄尿検査で推定)と血圧に弱い相関を認め、塩分摂取制限の根拠にされてきました。しかし、食塩摂取量の極端に少ない外れ値の4施設(ブラジル原住民2種族、パプアニューギニア、ケニヤ:ナトリウムとして0.2、6、27、51mmol (注:単位がmmolです、食塩として0.01、0.35、1.6、3.0g)を除くと相関がなくなり、解釈が混沌としていました。
平成28年7月8日