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メトホルミン以外の糖尿病薬と認知症予防効果

3ヶ月前にメトホルミンの認知症予防効果についてお話しましましたが、メトホルミン以外の薬にも認知症予防効果がありそうなことが報告されました(Eur J Endocrinol 2019)。

対象はオランダ国民糖尿病レジスターに登録された2型糖尿病患者176,250人で、コホート内症例対照研究です。1995-2012年に登録を行い、2018年5月まで観察しています。観察期間中に認知症を発症した人は11,619人、それぞれの認知症患者1人につき4人の対照(認知症のない人)を設定しました。

使ったことのある糖尿病薬を「インスリン」「メトホルミン」「SU剤あるいはグリニド剤」「グリタゾン系」「DPP-4阻害薬」「GLP-1製剤」「SGLT2阻害薬」「アカルボース」に分け、認知症発症に影響のありそうな変数を補正して検討しました。

結果ですが、メトホルミン、DPP-4阻害薬、GLP-1製剤、SGLT2阻害薬の服用歴のある人の認知症オッズ比は、それぞれ0.94 (0.89-0.99)、0.80 (0.74-0.88)、0.58 (95%CI 0.50-0.67)、0.58 (0.42-0.81)でした

オッズは「見込み」のことです。薬のあるなしで「疾患の見込み」がどのくらい変わるか、割り算して比をとったのが、オッズ比です。オッズ比が低いことは「疾患の見込み、今回の場合は認知症の見込み」が低いことを意味します。

症例対照研究ですので、「こういった薬を使うと認知症が抑制される」とまで言えないのですが、GLP-1製剤、SGLT2阻害薬は良さそうに見えます。次の研究に期待したいですね。


令和元年11月21日

メトホルミンの認知症予防効果?

メトホルミンに認知症予防効果があるかもしれません。

65歳以上の糖尿病患者を対象にメトホルミンの認知症発症リスクを検討した研究があります(Neurology 2017)。SU剤服用を対照とした場合、メトホルミン服用は、(1) 75歳未満の人で認知症発症リスク(補正後)が 0.89と低くなっていました。(2) 残念ながら75歳以上ではメトホルミンの効果はありませんでした。

もう少し若い人(50歳以上)も対象に含めた新しい論文(Ann Fam Med 2019)が発表されましたので、紹介します。

この論文では退役軍人健康庁のカルテを分析しています。分析対象は、2000-2001年の段階で「糖尿病」と「認知症」がなく、その後に「SU剤」あるいは「メトホルミン」を開始した50歳以上の白人と黒人(計73,761人)です。「実地診療データ」の解析です。

結論を見ますと、(1) 50歳以上の黒人ではメトホルミンはSU剤対照に比べて、認知症リスクが少なくなりました(認知症発症リスク0.73)。(2) 白人ではこの効果はみとめられませんでした(同 0.96)。

もう少し細かくみますと、(3) 50-64歳の黒人が最もメトホルミンの効果が高く(同 0.6)、(4) 65-74歳では人種に係らず、メトホルミンの効果があり、(5) 75歳以上では効果がありませんでした。

SU剤には低血糖リスクがあり、低血糖が認知症に悪さをしている可能性も考えられます。つまり「メトホルミンが良いのでなく、低血糖を来しやすいSU剤が悪い」可能性があるのですが、論文では「平均血糖や低血糖イベントで補正しても認知症発症リスクにほとんど影響がなかった」としています。低血糖を来さない最近の糖尿病の薬ではどうなのか気になりますね。

人種差が何によるものか不明です。はじめに紹介した論文では、年齢を限ると白人の方に有意差が出ていて、結果がばらついています。もう少し追加論文が欲しいです。

日本人でも検討してほしいですね。


令和元年8月21日

ノセボ効果:偽薬(プラセーボ)で副作用を経験する

偽薬(プラセーボ)でも病気が良くなることがあります。これをプラセーボ効果(偽薬で治る効果)と言います。これと反対に偽薬で病気が悪くなる、あるいは副作用が出ることをノセボ効果と呼びます。もちろん、偽薬が副作用を引き起こすことはありません。「副作用があるのではないか」と思う不安な気持ちが元になって、悪い作用が起こってくるのです。

今回ノセボ効果をまとめた論文が発表されましたので、簡単に紹介します(Trials 2018)。

この論文では「ノセボ効果」と「系統的」の言葉が載っている論文を検索し、20編の系統的レビュー論文を探し出しました。これらの論文をまとめますと、ノセボ効果は49.1%の人に見られ(中央値)、5%の人がノセボ効果のために偽薬の服用を中止しています。「副作用が出ない偽薬」で「服用中止するほどの副作用」が出た人が、20人に1人いるわけです。かなり多いですね。

偽薬でなくて普段のお薬でも、「この薬で副作用が出るのではないか」と思うだけで副作用が出ます

その例の1つがスタチンによる筋症状です(Lancet 2017)。スタチンはコレステロールを下げる薬で、筋障害を起こすことがあります。そのためスタチンを処方する時は前もって副作用を説明します。自分の飲んでいる薬が偽薬か実薬かわからない場合は、偽薬と実薬で筋症状の訴えに差がありません(偽薬=実薬)。しかし飲んでいる薬が偽薬か実薬か分かっている場合は、実薬で筋症状の訴えが多くなります(偽薬<実薬)。


平成31年3月29日

オメガ3脂肪酸は心血管系疾患予防に効く?、効かない?

オメガ3脂肪酸は魚油に多く含まれる脂肪酸で、代表的なものにEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)があります。市販されているサプリでもオメガ3脂肪酸は人気ですね。

最近、オメガ3脂肪酸の心血管系疾患予防効果に対するメタ分析が報告されましたので、紹介します(JAMA2018)。

一定の基準(500人以上参加、1年以上の治療観察、オメガ3脂肪酸服用、ランダム化比較試験)を満たした10論文を解析しています。全体を合わせると、61.4%が男性、平均年齢64.0歳で、平均観察期間4.4年の間に6273件の心血管系疾患のイベント(2695件の致死性心筋梗塞、2276件の非致死性心筋梗塞)、2001件の主要血管イベントがありました。

その結果ですが、心血管死にも、非致死性心筋梗塞にも、どのタイプの冠動脈疾患にもオメガ3脂肪酸サプリの効果はありませんでした。また、全体でもサブグループ分析でも主要血管イベントに有意な差はありませんでした。

ということで、このメタ分析論文では「オメガ3脂肪酸のサプリに効果なし」と結論しています。

組み入れられた試験を眺めてみます。
服用したEPAの量を見ますと、1800mg/日と服用量の多いJELIS試験では主要心血管系イベントが2割減少していました。次に服用量が多いDOIT試験(1150mg)も好ましい傾向が得られています。論文では「参加人数が563人と少なく有意差が出なかった」と結論づけています。次に多いのはGISSI-HF試験とGSIIS-P試験(ともに850mg)で、両論文ともに有意差をもって死亡、心血管死が減少しています。

もしかすると、本当の結論は「オメガ3脂肪酸の中途半端なサプリは効果がない」かもしれません。

EPAの服用量を多くした試験が進行中です。近いところではREDUCE-IT試験がほぼ終了しています。スポンサーは以前に紹介したアマリン社です。今年末(2018年)に解析結果がでるようで、この結果に期待したいと思います。


平成30年6月22日