院長ブログ一覧

SGLT2阻害薬の心血管系保護作用

SGLT2阻害薬(カナグル、フォシーガ、ジャディアンスなど)は尿糖を増やして血糖を下げる薬です。

これまで無作為試験でSGLT2阻害薬に心血管系保護作用があることが報告されていましたが、実際の臨床の場でも保護作用が確認されました(BMJ 2020)。

カナダ7州とイギリスの2013-2018年の臨床データの解析です。SGLT2阻害剤を初めて処方された209,867人と、処方傾向をマッチさせたDPP-4阻害薬処方の209,867人の比較です。

DPP-4阻害薬(ジャヌビア、エクア、ネシーナ、トラゼンタ、テネリアなど)はインクレチンの働きを高めて血糖を下げる薬です。DPP-4阻害薬は東アジア人で効果が高いことが知られています。

主要評価項目はMACE(主要心血管イベント:心筋梗塞+脳梗塞+心血管死)です。二次項目がMACEの個々のイベント、心不全、全死亡です。観察期間は0.9年です。

結果ですが、MACEのリスク比0.76(心筋梗塞0.82、心血管死0.60)、心不全0.43、全死亡0.60と各項目のリスク比が減少していました。またSGLT2阻害薬(カナグル、フォシーガ、ジャディアンス)の薬物間の差を認めませんでした。

脳梗塞についてはリスク比0.85(0.72-1.01)と減少傾向にありましたが、有意差がありませんでした。SGLT2阻害薬は脱水を来して脳梗塞が増える怖れがありましたが、その心配はなさそうです。

この研究でSGLT2阻害薬のMACE抑制効果がさらにはっきりしたことになります。


令和2年11月25日

プロトンポンプ阻害剤(胃酸分泌抑制剤)と新型コロナウイルス感染

プロトンポンプ阻害剤(PPI:胃酸分泌抑制剤、ランソプラゾール、ラベプラゾールなど)とコロナウイルス感染の論文が発表されました。初めは短報としてオンライン掲示されたものですが、多くの人の興味を引いたため、分析を追加し、討論内容を深めて大きな論文として再発表されたものです(Amer J Gastroenterol)。

最初の短報では3人の専門家が査読(論文審査)していました。再審査にあたり、外部査読者が2人追加されています。査読者以外にも、短報の読者から批判的吟味がなされています。さらにAmer J Gastroenterolは全データセットを送ってもらい、著者とは別の統計学者2人に分析を依頼しています。審査体制は万全です。

論文の内容は単純です。新型コロナウイルスとよく似たSARS-CoV-1ウイルスは、酸性環境(pH<3)で感染力が抑えられます。著者らは新型コロナウイルスでも同じではないかと考えました。PPIは胃酸分泌を抑えて胃内pHを上げます。そこでPPIの影響を見たところ、PPI服用者で新型コロナウイルスの感染が増えていることが観察されました。

参加者は53,130人、そのうち3,386人がコロナ陽性でした。PPIを1回/日服用している人で2.15倍、2回/日服用している人で3.67倍ほどコロナウイルス陽性者が多くなっていました。なおH2ブロッカー(胃酸分泌抑制剤:ガスター、ラフチジンなど)ではリスクの増加を認めませんでした(むしろ減少傾向)。

PPIは1回/日が原則の薬です。ところが処方医が2回/日で処方したり、また薬局で購入して自己判断で2回/日服用しています(米国では薬局で買える薬です)。2回/日以上服用している人の8割は、逆流性食道炎の症状悪化なしに1回/日に減量可能だそうです。著者の勧めはPPI減量、またはH2ブロッカーに変更です。PPIとコロナ重症度の関連を検討した研究が次に望まれます。

必要があって処方されているPPIは継続して服用して下さい。


令和2年9月10日

スタチン(コレステロール低下薬)とコロナウイルス感染症

コレステロールを下げる薬として、スタチン(プラバスタチン、ピタバスタチンなど)があります。我が国で開発され、心筋梗塞など動脈硬化性疾患を減らす効果が強く、副作用が少なく、評価の高い薬です。

スタチンはコロナウイルス感染症と関係がなさそうですが、新型コロナウイルス感染症の重症化を抑制する、あるいは促進するという2つの見解がありました。今回メタ分析の結果が報告されましたので、紹介します(Amer J Cardiol)。

2020年7月27日までにコロナウイルス感染症とスタチン使用に関連する論文は274編出版されています。この中から良質の論文を探すと4編の論文が抽出されました。うち3編は大規模研究で多変量で交絡因子を調整しています。

総勢8,900人の新型コロナウイルス患者さんの分析になります。スタチン服用者の重症化〜死亡リスクは非服用者と比べて0.70(0.53-0.94)と低くなっていました。スタチンによる重症化促進作用は否定的でした。

これが本当なら魅力的な結果ですね。ただスタチンのリスク減少効果をはっきり言うには前向き介入試験が必要です。ぜひ次の研究を期待したいです。


令和2年8月30日

メトホルミン以外の糖尿病薬と認知症予防効果

3ヶ月前にメトホルミンの認知症予防効果についてお話しましましたが、メトホルミン以外の薬にも認知症予防効果がありそうなことが報告されました(Eur J Endocrinol 2019)。

対象はオランダ国民糖尿病レジスターに登録された2型糖尿病患者176,250人で、コホート内症例対照研究です。1995-2012年に登録を行い、2018年5月まで観察しています。観察期間中に認知症を発症した人は11,619人、それぞれの認知症患者1人につき4人の対照(認知症のない人)を設定しました。

使ったことのある糖尿病薬を「インスリン」「メトホルミン」「SU剤あるいはグリニド剤」「グリタゾン系」「DPP-4阻害薬」「GLP-1製剤」「SGLT2阻害薬」「アカルボース」に分け、認知症発症に影響のありそうな変数を補正して検討しました。

結果ですが、メトホルミン、DPP-4阻害薬、GLP-1製剤、SGLT2阻害薬の服用歴のある人の認知症オッズ比は、それぞれ0.94 (0.89-0.99)、0.80 (0.74-0.88)、0.58 (95%CI 0.50-0.67)、0.58 (0.42-0.81)でした

オッズは「見込み」のことです。薬のあるなしで「疾患の見込み」がどのくらい変わるか、割り算して比をとったのが、オッズ比です。オッズ比が低いことは「疾患の見込み、今回の場合は認知症の見込み」が低いことを意味します。

症例対照研究ですので、「こういった薬を使うと認知症が抑制される」とまで言えないのですが、GLP-1製剤、SGLT2阻害薬は良さそうに見えます。次の研究に期待したいですね。


令和元年11月21日