院長ブログ一覧

果物の種類について

実は果物が糖尿病を悪くするか、はっきりしていません。最近、果物の種類によって糖尿病発症のリスクが異なることが発表されました(BMJ 2013)ので、紹介します。


対象と観察年は、(1) 看護婦さんの集団(1984-2008年)66,105人 (2) 看護婦さんの集団(1991-2009年) 85,104人 (3) 男性医療従事者の集団(1986-2008年)36,173人です。観察開始時に主要な慢性疾患がない人たちで、2型糖尿病の発症を観察しています。

10種類の果物の摂り方を調べています。糖尿病リスクは、1週間で3皿(〜450g)摂取する毎に、ブルーベリー 0.74(0.66-0.83)、ブドウ/干しブドウ 0.88(0.83-0.93)、プルーン 0.89(0.79-1.01)、リンゴ/西洋ナシ 0.93(0.90-0.96)、バナナ 0.95(0.91-0.98)、グレープフルーツ 0.95(0.91-0.99)、モモ/プラム/アプリコット 0.97(0.92-1.02)、オレンジ 0.99(0.95-1.03)、イチゴ 1.03(0.96-1.10)、カンタロープメロン 1.10(1.02-1.18)でした。

何によって果物の差が出たかはわかっていません。アントシアニンという色素が糖尿病リスクを下げると言われたこともありますが、今回の研究でははっきりしませんでした。グリセミックインデックスグリセミック負荷(グリセミックロード)も糖尿病リスクと関連がありませんでした。グリセミックインデックスは炭水化物による血糖の上がりやすさの指標で、グリセミック負荷はその指標に摂取量を掛けたものです(果物によるグリセミック負荷は全体の負荷量からみると10%くらいで大きくありません)。

一方で、果物ジュース(リンゴジュース、オレンジジュース、グレープフルーツジュース他)の糖尿病リスクは1.08(1.05-1.11)でした。

結論は特定の果物摂取が糖尿病リスク低下と関連していて(とくにブルーベリー、ブドウ、リンゴがよろしい)、果物ジュースは糖尿病リスク上昇と関連 していました。


平成25年9月27日

果物と糖尿病

日本人が食べている果物の量は、(1) 所帯所得200万円未満: 男性73.9g、女性110.6g (2) 所帯所得200万円〜600万円未満: 男性94.8g、女性124.8g (3) 所帯所得600万円以上: 男性93.9g、女性135.6g となっています(平成23年度国民健康・栄養調査報告)。所得の高い人の方が、果物をよく食べていますが、これは果物が高いからでしょう。

では、果物は糖尿病にとってどうなのでしょうか。我が国の食品交換表では果物は表2に分類され、果物はビタミンの補給に大切なので1日に1単位(80kcal)程度食べることを勧めています。しかし、糖度が高く血糖の上昇や中性脂肪の増加をまねく場合があるので食べ過ぎないようにしましょう、とも書かれています。食べる必要がありますが、あまり積極的に摂らないように、という指導です。

米国ではどうでしょうか。
米国糖尿病学会(ADA2013)では、果物と野菜を8-10皿摂るように勧めています。1皿は果物150g、野菜では1カップ(〜240ml)です。ジョスリンクリニックの食事療法(2011)では、果物はグリセミックインデックスが低く食物線維が豊富なので、勧めるべき食品に分類しています(グリセミックインデックス:基準量の炭水化物による血糖の上がりやすさの指標)。

なお、糖尿病に対してではありませんが、米国立保健研究所は、高血圧予防食としてDASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension:高血圧予防食) を勧めています。DASH食は、(1) 野菜・果物・低脂肪の乳製品を十分摂る (2) 肉類および砂糖を減らす、ことを基本にしています。具体的には、2000kcalの食事で果物4-5皿摂るよう勧めています。


平成25年9月27日

健康的な食事は慢性腎臓病を減らす

健康的な食事が慢性腎臓病(CKD)を減らすと発表されました(JAMA2013)。この研究は大規模なONTARGET試験(25,620人)から出てきた研究です。明らかな腎障害のない2型糖尿病患者(6213人)が対象です。健康的な食事の判定はmAHEIスコア*で行っています。mAHEIスコアは食事ガイドライン遵守度を示すスコアで、高いスコアは野菜などの健康的な食品が多く、揚げ物などの不健康な食品が少ないことを示します(あくまで米国人基準による健康的食事です)。


平均5.5年観察し、
(1) 生存していて、CKDの発症あるいは進展がない 
(2) 生存していて、CKDの発症あるいは進展がある 
(3) 死亡 を見ています。いろいろな指標(スコア)で患者を3群に分け、高スコア群と低スコア群を比較しています。

(1) 健康的な食事をしている人は、CKDリスク、死亡リスクが少ない(OR0.74、0..61)。週に3皿以上の果物を摂っている人はCKDリスクが少ない。
(2) 総蛋白、動物性蛋白の摂取が少ないとCKDリスクが増える(OR1.16)。
(3) 塩分摂取量はCKDリスクと関連しない。
(4) 中等度のアルコール摂取はCKDリスクと死亡リスクを減少(OR0.75、0.69)


これまで蛋白質の摂取量が増えると腎に負担がかかり、腎症の進展に影響すると考えられていましたが、この研究ではそうでもなさそうです。塩分(NaCl)は死亡リスクにU字型の影響があり、多くても少なくても良くないようです

観察研究であり、お互いに影響しあう因子が多い食事内容の研究ですので、「これで解決」というほどの説得力はありませんが、与えるインパクトは大きいように思います。

*「米国人のための栄養ガイドライン」をどれだけ守っているかを計算するのに米国農務省が作ったのがHealthy Eating Index (HEI)。それを修正したのがAlternative Healthy Eating Index (AHEI)、さらに修正したのがmodified Alternative Healthy Eating Index (mAHEI)です。

平成25年9月11日

飽和脂肪酸と動脈硬化:乳製品がすべて悪いわけでない

飽和脂肪酸はLDLコレステロール(LDLc)を上昇させますが、一方でHDLコレステロール(HDLc)も上昇させます。LDLcが増加すると、動脈硬化リスクが増加します。HDLcが増加すると、動脈硬化リスクが減少します。飽和脂肪酸を炭水化物に交換すると、HDLcが低下します。そのため、「飽和脂肪酸が動脈硬化を促進するかどうか」を判定するにはLDLcではなく、心血管イベントや死亡など、もっと確固とした評価項目で評価する必要があります。

乳製品には飽和脂肪酸が豊富に含まれています。しかし乳製品と動脈硬化の関連を検討した最近の論文を見ますと、乳製品すべてが悪いわけではなさそうです。全乳製品摂取は心筋梗塞リスクと逆相関するという論文がいくつかあります。結論が少し相反する論文もありますが、おおよそをまとめると、チーズ、発酵させた乳製品がリスクを減らし、バターがリスクを上げるようです。

スエーデンの女性を対象にした研究(乳腺撮影コホート、J Nutr2013)では、33,636人(48-83歳)、11.6年観察しています。全乳製品摂取と心筋梗塞リスクは逆相関(HR0.77:五分位両端比較)、チーズ摂取が逆相関(同 0.74)、パンに塗るバターが正相関(同 1.34)でした。

同じくスエーデンの成績ですが、別の論文(Eur J Epidemiol2011)では、26,445人(44-74歳、女性が62%)、12年観察しています。全乳製品摂取は心血管系疾患と逆相関しました。個々の乳製品でみると、発酵乳のみが逆相関(15%減少)、チーズは女性でのみ有意に逆相関でした。

Epic-Potsdam研究は乳製品に絞った研究でありませんが、23,531人、8年観察しています。主要慢性疾患(心血管系疾患+糖尿病+癌)で評価しています。結果は、バター摂取は慢性疾患の増加と関連(Eur J Clin Nutr2013)。

動脈の硬さを指標にした研究では、乳製品はバターだけが悪影響と関連していました(Hypertension2013)。



低脂肪乳を使ったヨーグルトは通常のヨーグルトよりリスクを下げるでしょうか。興味があるのですが、よくわかっていません。乳製品ではバターを控えるのが賢明のようです。

注:
  正相関:一方の因子が増加すると他方が増加し、減少すれば他方が減少する関係
  逆相関:一方の因子が増加すると他方が減少し、減少すれば他方が増加する関係


平成25年8月22日