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旧石器時代の現人類の食事

旧石器時代の現人類の食事内容です。昔のことがどこまでわかるのか不思議なところもありますが、考古学の進歩と共に得られる情報量が多くなっているそうです(Eur J CLin Nutrition 1997)。

典型的な炭水化物摂取量は総カロリーの45-50%、現代日本人よりやや少なめかもしれませんが、現代人とそう変わりません。しかし野菜、果物の摂取量が極めて多く、穀類はごくわずかしかなく、精白したものがありません(旧石器時代後期)。野菜と果物はよく食べていて、摂取量はおそらく現代西洋人の3倍くらいだそうです。食物繊維も1日100gを超えるようです。

家畜肉はまだありません。狩りをして捕ってくる野生動物の肉ですので、家畜肉よりも身体に良い肉かもしれません。「狩猟肉」は「家畜肉」より脂肪が少なく(100g中にそれぞれ4.2gと20.0g)、コレステロールを上げやすいミリスチン酸+パルミチン酸含量も少ない(100g中にそれぞれ0.99gと5.64g)とされています。蛋白摂取量は総カロリーの30%あり、体重1kgあたり2.5-3.5gと相当に多めだったと考えられています。

コレステロール摂取量は〜480mgとかなり多かったようです。しかし、不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸比が高く、飽和脂肪酸が少なく、摂取総脂肪量が低い食事だったので、血中コレステロールは高くなかったと推定されています(平均125mg/dlくらいと書いてありますが、どのように推定したのでしょうね)。


平成30年4月4日

ネアンデルタール人の食事

考古学の進歩はすごいですね、今回の話題はネアンデルタール人が食べていたものです。ネアンデルタール人は約20万年間に現れ、4〜3万年前に絶滅した旧人です。現人類とも交流があります。

ベルギーのスピ洞窟(北緯50度)に住んでいたネアンデルタール人(〜36,000年前)は、植物性が20%、動物性が80%の食事を摂っていました。この食性は骨コラーゲンの同位元素研究から推定されましたが、歯石に残されていたDNA研究からも裏付けされました。彼らは主に肉類を食べ、毛深犀(氷河期を代表する大型動物)や野生のヒツジを好んでいたようです(Nature 2017)。

一方でスペインのエルシドロン洞窟(北緯43度)のネアンデルタール人(〜49,000年前)は主に野菜やでんぷんを摂っていました。歯石のガスクロマトグラフィー質量分析で肉類からの脂肪や蛋白はほとんど検出されず、種々のアルキルフェノール、芳香族炭水化物、焦げたでんぷん顆粒などが検出され、煙っぽいところにいて調理した野菜を食べていたようです。歯石DNA分析からも肉類は検出されず、キノコ、松の実、コケ類が検出され、この結果からも森林で採集生活をしていたと考えられます。

住んでいる所の環境によって食べるものが大きく違いますね。狩猟採集民族では「狩猟は高緯度地域でのみ主要な生存手段であり、採集が主な生存戦略である(Man the Hunter 1968)」と言われます。ネアンデルタール人でも同じだったでしょうか。


平成30年3月8日

蛋白質をしっかり摂っていると脳卒中が減りそうです

北九州にある久山町で行われた研究です。久山町研究は「日本人のデータ」で重要ですし、世界的にみても研究の質が高いことで知られています。

対象は40-79歳の2400人で、これまで脳卒中や冠動脈疾患のない人たちです。食事内容は70項目にわたる質問票で確認しました。19年間に渡って経過観察したところ、254人が脳卒中を起こしました:172人が虚血性脳卒中(脳梗塞)、58人が脳内出血、24人がクモ膜下出血です。

蛋白摂取量を4群に分けて分析しています。最も少ない群をQ1、最も多い群をQ4とします。

まず全体の蛋白摂取量で分析しています。蛋白摂取量が多くなるにつれ、虚血性脳卒中と脳内出血が減少しました。

植物性蛋白摂取で分析しますと、Q4(39g以上摂取)はQ1(30g未満)に比べて、総脳卒中、虚血性脳卒中がそれぞれ40%、40%減少しました。脳内出血は減少しませんでした。

動物性蛋白摂取で分析しますと、Q4(25g以上摂取)はQ1(16.1g未満)に比べて脳内出血が53%減少しました。Q2(16.1-20.2g摂取)、Q3(20.3-24.9g摂取)でもそれぞれ55%、47%減ですので、動物性蛋白が最も少ないQ1だけがリスクのようです。残念ながら総脳卒中、虚血性脳卒中は動物性蛋白の摂取量と関連していませんでした

クモ膜下出血はどの分析でも有意でありませんでした。

以上の成績を考えますと、脳卒中を減らしたければ植物性蛋白質が重要かもしれません。動物性蛋白質はそこそこに摂っておれば良さそうです。


平成29年11月29日

朝ご飯を食べていますか?

朝の食事は王様のように。昼の食事は王子のように。そして夜の食事は乞食のように。

朝ご飯をスキップすると動脈硬化が促進するという報告がでました(J Amer Coll Cardiol 2017)。朝ご飯は抜かないのが良く、朝ご飯を食べても 軽く済ませるのでなく、しっかりと食べるのが良いようです。

対象は40-54歳、開始時に心血管系イベントがない4,052人です。食事問診表で15日間の食事内容を検討しています。

1日摂取カロリーの何%を朝食に摂っているかで3群に分けました。朝食抜きは<5%、軽い朝食は5-20%、しっかりした朝食は20%以上のカロリーを朝食に摂っている人たちとしました。朝食抜きの人は2.9%と少なく、軽い朝食の人は69.4%、しっかりした朝食の人は27.7%でした。

この研究では、病気になる前の段階の動脈硬化をチェックしました。エコー検査で両側の頚動脈、腎動脈分岐以降の大動脈、両側の腸骨〜大腿動脈の動脈硬化(全部で5ヶ所)を、CT検査で冠動脈の動脈硬化(石灰化)を検討しました。得られた結果は、一般的な動脈硬化因子(年齢、性別、腹囲、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙)、食事性因子(赤肉、アルコール、塩分)で補正しています。

エコー検査でプラークを検討しますと、朝食抜きの人の動脈硬化リスクは、朝食をしっかり摂っている人に比べて、腹部大動脈で1.79(1.16-2.77)、頚動脈で1.76(1.17-2.65)、腸骨〜大腿動脈で1.71(1.11-2.64)でした。

朝食抜きの人の「心臓以外の動脈硬化リスク(心臓以外の5ヶ所のうち1か所にプラークがある)」は1.55(0.97-2.46)、「全般的動脈硬化(全6ヶ所のうち4ヶ所以上で動脈硬化がある)」リスクは2.57(1.54-4.31)でした。

軽い朝食の人のリスクも少し上がっていました。頚動脈で1.21(1.03-1.43)、腸骨〜大腿動脈で1.17(1.00-1.37)でした。

朝食を抜く、あるいは軽く済ませる人としっかり朝食を摂る人では、食事配分以外にも生活習慣に違いがあります。因果関係は複雑かもしれませんが、朝食はしっかり摂るのが良いようです。


平成29年10月17日