2%の差は大きいか小さいか (32.7% 対 34.7%)
糖尿病大血管障害、腎障害の動向
大血管障害は動脈硬化に基づく障害で脳・心臓・末梢動脈疾患を指します。最小血管障害(眼・腎・神経の障害)と対比して、この言葉が使われます。
細かく見て行きますと、この20年で急性心筋梗塞が起こる相対リスクが 3.8→1.8、脳卒中が起こる相対リスクが 3.1→1.5、下肢切断が起こる相対リスクが 18.8→10.5、末期腎障害が起こる相対リスクが 13.7→6.1 に減少しています。(この数字は糖尿病の人が糖尿病のない人に比べてどれだけ疾患が多いかを示す数字です)
糖尿病のある人の急性心筋梗塞、脳卒中の発症率は、20年間でそれぞれ67.8%、52.7%も減っています。糖尿病のない人の発症率低下がそれぞれ31.2%、5.5%減少ですから、糖尿病のある人の発症率が大きく減少していることがわかります(米国では糖尿病のある人の急性心筋梗塞、脳卒中の発症率はほぼ同じで、年齢調整後人口1万人あたり、それぞれ45.5、52.9人です(2010年))。
大血管障害、腎障害のリスク低下は糖尿病の管理が良くなったこと、合併症の危険因子の管理が進んだことが挙げられます。日本においても、どうぞ、しっかり管理していきましょう。
平成26年5月30日
日本では脳梗塞は多いのか
脳卒中の死亡率は世界的にみて、この20年で格段に減少しています。最近の脳卒中発生率を国別に比較すると、日本は脳出血、脳梗塞とも中等度の発生率のようです(Lancet2013)。この論文から、脳卒中の大半を占める脳梗塞の成績を紹介します。この論文は119編の研究から国別の疫学データを推計しています。
脳梗塞の発生率と死亡率(2010年・年齢調整して10万人当たり)は、日本はそれぞれ(128.65、24.63)です。米国は(143.11、19.06)で、日本とほぼ同じです。
ヨーロッパ諸国と比べてみますと日本はイタリア(71.17、28.40)、イギリス(85.22、24.15)、フランス(83.56、12.98)より高いですが、ドイツ(141.66、21.11)やデンマーク(121.39、24.02)と同等、ポーランド(173.18、51.06)やスロバキア(216.15、62.38)より低いです。最悪の国はリトアニアで、(433.97、65.69)です。
アジアですが、中国は(240.58、46.71)で、インドが(143.45、38.83)です。
論文では「年齢調整後の脳卒中発症率は減っているが、脳卒中の絶対数は増えており、低〜中等度収入の国で脳卒中が重荷になっている」と言っています。日本は高収入の国で、欧米と同等なくらいまで脳梗塞を減らしてきました。しっかり治療すれば、脳梗塞は減らせます!
平成26年4月23日
DPP-4阻害剤は心血管系イベントを増やさない、減らさない
オングリザの研究は、16,492人の糖尿病患者を平均2.1年観察しています。主要エンドポイントは心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞です。ネシーナの研究は、5,380人の心筋梗塞直後の糖尿病患者を平均18ヶ月観察しています。主要エンドポイントは心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞です。両研究とも実薬群とプラセーボ(偽薬)群を比較し、両群間で心血管系イベントに差がありませんでした。
DPP-4阻害剤に大血管合併症の減少を期待していた人には残念ですが、心血管系イベントを増やさないことが確認され、安心して使えることがわかりました。ただオングリザで心不全による入院が増えていました。これについては、本当に意味のある増加かどうか、次の確認研究が必要です。
両研究とも実薬群の方がHbA1cが改善しています。HbA1cの差が0.3%と小さく、短期間の研究ということもありますが、HbA1cが下がっても心血管イベントは変わらないようです。心血管イベントを減らすには、血圧や脂質異常のコントロールが大切です。
なお両研究ともDPP-4阻害剤で懸念される膵炎、膵癌は増えていませんでした。
平成25年10月23日