院長ブログ一覧

普通の飲み方ができるGLP-1受容体作動薬の開発

GLP-1受容体作動薬(ビクトーザ、バイエッタ、リキスミア、オゼンピックなど)は心血管系疾患を減らし、腎障害進行を遅らせるなどの効果があり、評価が高い糖尿病薬です。減量効果が強い薬もあって抗肥満薬としても期待されています。

GLP-1受容体作動薬は基本的に注射薬です。消化管から吸収されるよう工夫した飲み薬(リベルサス:セマグルチド)がありますが、起床時に服用し、30分は身体を起こしたままでいて、他に飲食をしないなど、特別な飲み方が必要です。

こういったことから、普通の飲み方ができるGLP-1受容体作動薬が望まれています。

オルフォグリプロンはリリー社が開発中の部分的GLP-1受容体作動薬で、飲み薬です。アミノ酸が連なったペプチド構造をもたないため、特別な飲み方を必要としません

オルフォグリプロンの第2相試験の結果が発表されました。肥満患者を対象にした論文(NEJM 2023)と糖尿病患者を対象にした論文(Lancet 2023)の2つがあります。

肥満患者の論文(NEJM)を紹介します。参加者は272人、平均体重は108.7kg、BMIは37.9、観察期間は36週です。26週と36週で体重の変化率を検討しました。オルフォグリプロンは12、24、36、45mgを1日1回投与しています。

体重変動ですが、26週時点でオルフォグリプロン群は -8.6〜-12.6%と大きく減量しました。偽薬は-2.0%でした。36週時点では、オルフォグリプロン群 -9.4〜-14.7%、偽薬 -2.3%でした。

少なくとも10%の体重減少があったのはオルフォグリプロン群で46〜75%、偽薬群で9%でした。抗肥満薬として期待されます。

糖尿病患者を対象にした治験(Lancet)では血糖コントロールも改善しています。26週経過した時点のHbA1cは、オルフォグリプロン群で 2.10%減少、偽薬群で0.43%減少でした。その差はΔ1.67%で、なかなか強力な血糖改善剤として期待されます。

ぜひ薬になってほしいですね。


令和5年7月19日

自分のHbA1c値を覚えてますか?

HbA1cは過去1-2ヶ月間の平均血糖を教えてくれる検査で、とても重要な糖尿病コントロール指標です。

自分のHbA1c値を知らない人が案外多いという調査結果が報告されました。米国の話で、日本と事情が異なるかもしれませんが、紹介します。

分析に用いられたのは、2013-2020年の米国国民栄養調査です。この調査で、糖尿病とすでに診断されている成人の22%が自分のHbA1c値を知らないと答えました。

自分のHbA1cを知らない人は白人以外の人種に多く、低所得層、正規教育を受けていない人が多くいました。自分のHbA1c値を知っている人でも、覚えている値と調査時に測定したHbA1c値が少しずれていました(相関が中等度に留まりました)。

当院でも、紹介状を持たずに来られた方にHbA1c値を尋ねて「知らない」と答える方がおられます。

糖尿病を良くするには、自分のコントロール状態を知り、自分自身も糖尿病治療に参加することが大切です。ご自分のHbA1c値を覚えてられない方は、ぜひ検査結果を見直しておきましょう。


令和5年6月21日

コーヒーは体重減少を介して糖尿病を予防する

コーヒーをよく飲む人は糖尿病発症が少ないようです。これまでいくつかの報告があります。しかし、カフェインそのものは急性効果として血糖を上げる作用があり、どのように糖尿病予防に働いているか、よく分からないところがありました。

カフェインの影響をメンデルランダム化試験で検討した論文が出ましたので、紹介します(BMJ 2023)。メンデルランダム化試験は、遺伝子多形を利用してランダム化(無作為化)する方法で、統計分析に影響を与える交絡因子の影響が少なくなります。

カフェインは主に肝臓のcytochrome P450 isoform 1A2(CYP1A2)で代謝されます。CYP1A2の働き方が違えば血中カフェイン濃度が変わってきます。そこで今回の研究では、CYP1A2遺伝子と、CYP1A2発現調整を行うAHR遺伝子の近くにある遺伝子多形を選びました。対象はヨーロッパ系の人たちです(FinnGenとDIAMANTE)。

遺伝的にカフェイン濃度が上がりやすい人は痩せている人が多く、体脂肪量も低くなっていました。BMI(体格指数)の標準化偏回帰係数(β)はカフェイン濃度の1SD毎に -0.08(-0.10〜-0.06、BMIの1SD 4.8kg/m2)、体脂肪量は -0.06(-0.08〜-0.04、1SD 9.5kg)でした。

2型糖尿病発症も少なく(オッズ比 0.81(0.74〜0.89))、カフェインの2型糖尿病予防効果の43%(30〜61%)はBMI減少によるものと推定されました。

カフェイン濃度は心血管系疾患とは関連しませんでした。

カフェインをとると急性的には血糖が上がりやすくなりますが、慢性的には体重を減らし、糖尿病発症を少なくすると考えられました。


令和5年4月20日

グリタゾンは認知症を予防する?

グリタゾンはインスリン抵抗性を改善する糖尿病の薬です。我が国ではピオグリタゾン(アクトス)が使われています。外国ではピオグリタゾンに加えてロシグリタゾンが使われたことがあります。

最近、グリタゾンが認知症予防に働くという論文がでましたので、紹介します。

最初の論文(BMJ 2022)は米国退役軍人の成績です。2001年から2017年の治療記録から解析しました。対象は60歳以上、認知症のない2型糖尿病の方です。実臨床のビッグデータ解析です。

平均年齢65.7歳、559,106人の経過観察中に、8.2人/1000人・年の認知症が発症しました。メトホルミン服用者を基準に比べました。そうしますと、少なくとも1年間グリタゾンを服用した方は22%認知症が少なくなりました。逆にSU剤服用者は12%認知症が多くなりました。アルツハイマー型認知症、血管性認知症と認知症の原因別にみても同様でした。

2つ目の論文は韓国からの報告(Neurology 2023)です。

韓国国民健康保険データのビッグデータ解析です。平均10年観察して、ピオグリタゾン服用者は16%ほど認知症が少なくなる結果でした。

50歳以上で新しく2型糖尿病を発症した、認知症がない91,218人が対象です(2002-2017年の記録)。糖尿病を発症してから4年以内にピオグリタゾンを服用した人は8.3%認知症を発症し、ピオグリタゾンを服用しなかった人は10.0%認知症を発症しました。ハザード比は0.84(0.75-0.95)です。ピオグリタゾン服用量の多い人ほど認知症が少ないという、用量依存性が確認できました。

ピオグリタゾン服用者の認知症減少は、虚血性疾患や脳卒中の既往がある人でさらに強く認められました:それぞれのハザード比は0.46(0.24-0.90)、0.57(0.38-0.86)でした。脳卒中発症もピオグリタゾン服用者で減少しました(ハザード比0.81)。


令和5年3月9日