院長ブログ一覧

再び三者併用療法

2013年に糖尿病の三者併用療法を紹介しました。言い出しっぺはデフロンゾ博士です。糖尿病薬を小出しにするのでなく、最初から3つの薬をまとめて使う治療法です。またβ細胞(インスリン分泌細胞)に負担をかけるSU剤を使いません。今回デフロンゾ博士の三者併用療法が論文(Diabetes Care 2020)になりましたので紹介します。

三者併用療法で使われる薬剤「メトホルミン、ピオグリタゾン(アクトス)、エキセナチド」は前回紹介時と同様です。エキセナチドは注射薬です。比較する対照は米国のかつての標準的治療法:最初にメトホルミン、コントロールが悪くなればグリピジド(SU剤)を、そしてインスリン療法を追加する治療法です。観察期間は3年です。

318人の初めて治療を受ける2型糖尿病患者が対象です。治療前のHbA1cは三者併用療法で9.0±0.2、従来療法で8.9±0.2%でした。治療後のHbA1cはそれぞれ、6.4±0.1、6.9±0.1%で、三者併用療法の方が0.5%低い値でした。

三者併用療法がすごいのはインスリン感受性(インスリンの効きやすさ)とβ細胞機能(インスリン分泌能)の改善です。インスリン感受性の低下とβ細胞機能の低下は2型糖尿病の特徴です。三者併用療法ではインスリン感受性が3倍に増加し、β細胞機能(インスリン分泌能)が30倍になりました。これに対して、従来療法ではインスリン感受性は変わらず、β細胞機能も34%の増加にとどまりました。

5年、10年後の成績もみたいものです。


令和3年2月10日

ペットの糖尿病と飼い主の糖尿病

すでに「肥満は交友関係を通じて拡がる」論文(NEJM 2007)や「夫婦の糖尿病」の論文 (BMC Medicine 2014)がありますが、これは「ペットと飼い主の糖尿病」の話です(BMJ 2020)。

共通するのは「生活習慣の共有」でしょうか。

スエーデンの研究です。208,980人の飼い主/イヌ、123,566人の飼い主/ネコのペアが対象です。イヌの飼い主の7.7人/1000人・年、ネコの飼い主の7.9人/1000人・年が2型糖尿病をもっていました。ペットの糖尿病は、イヌで1.3匹/1000匹・年、ネコで2.2匹/1000匹・年でした。

まずペットがイヌの場合です。飼っているイヌが糖尿病の場合、飼い主も糖尿病であるハザード比は1.38(1.10-1.74)、多変量で補正して1.32(1.04-1.68)でした(飼い主の糖尿病も多い結果です)

逆に飼い主が糖尿病である場合、ペットのイヌが糖尿病であるハザード比は1.28(1.01-1.63)でしたが、飼い主の年齢で補正すると1.11(0.87-1.42)と関連が薄くなりました。

ネコの場合、飼い主との糖尿病関連を全く認めませんでした。

考えてみますとイヌとは散歩を共有しますが、ネコとは散歩しません。生活習慣の共有がネコでは少ないことの現れかもしれません。

以上をまとめますと、「糖尿病のイヌ」の飼い主は糖尿病になりやすいようです。イヌを糖尿病にしないようによく散歩させましょう。自分も一緒に運動しましょう。


令和3年1月2日

DPP4阻害薬とコロナウイルス感染症

ウイルスが細胞に感染する時、ウイルスが最初にすることは「細胞にくっつく」ことです。ウイルスは細胞にくっつく仕組みを開発しています。

コロナウイルスで言うと「外側のスパイク糖蛋白」が私たちの細胞表面にある特定の標的に結合します。標的にされた構造物をウイルス受容体と呼んでいます。

新型コロナウイルスが流行する前に重篤な呼吸器症候群を起こしていたコロナウイルスに、広東省起源のSARS(重症急性呼吸器症候群)とラクダが媒介するMERS(中東呼吸器症候群)があります。

話を簡略にしていますが、SARSは細胞表面のACE2に結合します。MERSはDPP4と結合します。ACE2、DPP4がそれぞれのウイルスの受容体ですね。新型コロナウイルスの受容体は、発見当初ACE2だろうと推定されました。

新型コロナウイルスのスパイク糖蛋白はSARSとMERSの中間で、お互いによく似ています。このことから、新型コロナウイルスは、ACE2以外にDPP4にも結合するのではないかと仮定されました。

スパイク蛋白の結晶構造の解析から、新型コロナウイルスのスパイク蛋白はDPP4に対する親和性も高く、DPPに結合するドメインはMERSと同じと発表されました(iSience 2020)。

新型コロナウイルス重症感染者では血中の可溶性DPP4が減少していると報告されました(242.70、健常人497.70ng/ml)。敗血症も重篤な感染症ですが、新型コロナウイルス感染症と違い、敗血症では可溶性DPP4の減少を認めませんでした(Int J Obesity 2020)。新型コロナウイルス感染によってDPP4が何等かの影響を受けていることが推定されます。

重症の新型コロナウイルス感染症で入院した人にジャヌビア(DPP4阻害薬)を投与してその効果をみた研究があります(Diabetes Care 2020)。北イタリアの7つの病院の研究で、338人の入院患者が対象です。標準治療はインスリン療法ですが、半数の169人にジャヌビアも投与しました。結果は素晴らしいもので、ジャヌビアは死亡率を減らし(18%、対照37%、ハザード比0.44)、臨床スコア改善も多く(60%、対照38%)、退院者(120人、対照89人)も多い結果でした。

現在DPP阻害剤の研究が進行中です。もしこの研究の指し示すものが本当ならとても頼もしいと思います。


令和2年12月16日

1週間に1回のインスリン注射

1週間に1回のインスリン(アイコデクインスリン)が開発途上です。開発しているのはノボノルディスク社です。その効果と安全性を検討した論文が発表されました(NEJM 2020)ので紹介します。

2型糖尿病患者247人を無作為に1:1に分け、アイコデクインスリン(週1回注射)とグラルギンインスリン(1日1回の注射)を比較しました。

注射回数が異なるインスリンの比較ですが、二重に偽薬をつかって盲検法(医師も患者もどちらのインスリンを使っているかわからない)を成立させています。

具体的には、アイコデク群は「アイコデク週1回注射+偽薬毎日注射」を行い、グラルギン群は「偽薬週1回注射+グラルギン毎日注射」を行いました。研究ではこの2群を26週観察しています。

インスリン開始前のHbA1cはアイコデク群で8.09%、グラルギン群で7.96%でした。観察終了時はそれぞれ、6.69%(Δ -1.33%)、6.87% (Δ -1.15%)でした。両群間の変化差は-0.18%で有意差はありませんでした

低血糖は両群とも少なく、アイコデク群で0.53件/人年、グラルギン群で0.46件/人年でした。インスリン注射に係る副作用も両群間で差がなく、過敏反応や注射局所の反応も、両群とも少ない結果でした。アイコデクインスリンに対して有望な結果ですね。

週に1回のインスリンは、注射して1週間はインスリン必要量が変わらないことが前提になります。急性胃腸炎その他で食べることができなくなったり、運動を開始してインスリン必要量が少なくなった場合、低血糖リスクが考えられます。週1回注射で便利なところがありますが、注意も必要です。


令和2年12月5日