院長ブログ一覧

1週間に1回のインスリン注射

1週間に1回のインスリン(アイコデクインスリン)が開発途上です。開発しているのはノボノルディスク社です。その効果と安全性を検討した論文が発表されました(NEJM 2020)ので紹介します。

2型糖尿病患者247人を無作為に1:1に分け、アイコデクインスリン(週1回注射)とグラルギンインスリン(1日1回の注射)を比較しました。

注射回数が異なるインスリンの比較ですが、二重に偽薬をつかって盲検法(医師も患者もどちらのインスリンを使っているかわからない)を成立させています。

具体的には、アイコデク群は「アイコデク週1回注射+偽薬毎日注射」を行い、グラルギン群は「偽薬週1回注射+グラルギン毎日注射」を行いました。研究ではこの2群を26週観察しています。

インスリン開始前のHbA1cはアイコデク群で8.09%、グラルギン群で7.96%でした。観察終了時はそれぞれ、6.69%(Δ -1.33%)、6.87% (Δ -1.15%)でした。両群間の変化差は-0.18%で有意差はありませんでした

低血糖は両群とも少なく、アイコデク群で0.53件/人年、グラルギン群で0.46件/人年でした。インスリン注射に係る副作用も両群間で差がなく、過敏反応や注射局所の反応も、両群とも少ない結果でした。アイコデクインスリンに対して有望な結果ですね。

週に1回のインスリンは、注射して1週間はインスリン必要量が変わらないことが前提になります。急性胃腸炎その他で食べることができなくなったり、運動を開始してインスリン必要量が少なくなった場合、低血糖リスクが考えられます。週1回注射で便利なところがありますが、注意も必要です。


令和2年12月5日

SGLT2阻害薬の心血管系保護作用

SGLT2阻害薬(カナグル、フォシーガ、ジャディアンスなど)は尿糖を増やして血糖を下げる薬です。

これまで無作為試験でSGLT2阻害薬に心血管系保護作用があることが報告されていましたが、実際の臨床の場でも保護作用が確認されました(BMJ 2020)。

カナダ7州とイギリスの2013-2018年の臨床データの解析です。SGLT2阻害剤を初めて処方された209,867人と、処方傾向をマッチさせたDPP-4阻害薬処方の209,867人の比較です。

DPP-4阻害薬(ジャヌビア、エクア、ネシーナ、トラゼンタ、テネリアなど)はインクレチンの働きを高めて血糖を下げる薬です。DPP-4阻害薬は東アジア人で効果が高いことが知られています。

主要評価項目はMACE(主要心血管イベント:心筋梗塞+脳梗塞+心血管死)です。二次項目がMACEの個々のイベント、心不全、全死亡です。観察期間は0.9年です。

結果ですが、MACEのリスク比0.76(心筋梗塞0.82、心血管死0.60)、心不全0.43、全死亡0.60と各項目のリスク比が減少していました。またSGLT2阻害薬(カナグル、フォシーガ、ジャディアンス)の薬物間の差を認めませんでした。

脳梗塞についてはリスク比0.85(0.72-1.01)と減少傾向にありましたが、有意差がありませんでした。SGLT2阻害薬は脱水を来して脳梗塞が増える怖れがありましたが、その心配はなさそうです。

この研究でSGLT2阻害薬のMACE抑制効果がさらにはっきりしたことになります。


令和2年11月25日

やっぱり運動は身体に良い

新型コロナウイルスの流行で運動量が減り勝ちになっていませんか。

通りですれ違うくらい程度ならコロナ感染リスクは高くありません。運動不足は身体に良くありません。裏通りなど人の少ない場所の散歩はいかがでしょうか。人の姿が見えない時はマスクも外せます。軽い筋トレもお勧めです。歩くだけでは転倒を防げません。運動メニューに軽い筋トレを加えましょう。

米国の成績ですが、59,819人の8.75年にわたる観察から「余暇時間の運動が全死亡、特定疾患(心血管系、癌、下気道)による死亡を大きく減らす」と報告されました(BMJ 2020)。全死亡でみると、心肺トレーニングでハザード比0.71、筋トレで0.89です。両方の運動を行った人は0.60まで低下しています。

アジア人では運動の研究が少ないかもしれません。今年のヨーロッパ糖尿病学会で台湾の成績が発表されています。対象は4859人の2型糖尿病患者です。中等度の運動(800kcal/週)で全死亡リスクが0.75、激しい運動(800kcal以上/週)で0.68に低下していました。

無理な運動は避ける必要がありますが、少しずつ身体を動かしてみましょう。きっと良いことがあります。


令和2年10月6日

糖尿病と新型コロナウイルス感染症

糖尿病があると新型コロナウイルス感染症が重症化しやすいことが知られています。調査対象を糖尿病患者さんに絞った詳しい分析が報告されましたので紹介します。英国の糖尿病患者さんの98%が含まれる膨大なデータの解析です(Lancet 2020)。

調査期間は2月16日〜5月11日です。英国で一般診療を受けている1型糖尿病264,390人、2型糖尿病2,874,020人のうち、それぞれ464人、10,525人が新型コロナウイルス感染症で亡くなりました。

超過死亡も急増しています。超過死亡というのは、普段の年よりどのくらい亡くなられる人が増えているかを見たものです。大ざっぱですが、他の病気が増えていないと仮定した場合「コロナと診断がつかずに亡くなられた人も含む指標」になります。その超過死亡ですが、糖尿病患者の死亡者数は過去3年の同時期と比べて1型糖尿病で50.9%、2型糖尿病で64.3%増えています。

新型コロナウイルス感染で亡くなるリスクが高いのは、男性、高齢、腎障害、非白人、貧困、脳卒中既往、心不全既往がある人です。

男性は女性より重症化しやすく、1型、2型糖尿病とも男性の危険率は1.61でした。年齢の影響はとても大きく、60歳代の人を基準にすると、70歳代の危険率は1型糖尿病で1.89、2型糖尿病で1.94、80歳以上では1型糖尿病で4.79、2型糖尿病で4.52でした。

糖尿病コントロールが悪いのも良くありません。HbA1c7.6%以上で死亡リスクが高くなりました。HbA1c 6.5%の人に比べて、HbA1c10%超の人の危険率は1型糖尿病で2.23、2型糖尿病で1.61でした。

BMI(体格指数:体重kg/(身長mx身長m))の危険率はU字型を示し、痩せすぎと肥満で高くなりました。最もリスクが低いのがBMI25.0-29.9でした。英国では肥満が悪いとして、コロナの重症化リスクを下げる政策:肥満解消キャンペーンをしています。

なおBMIについてはちょっと注意が必要です。日本人はそれほど太ってなくても肥満の影響が出ます。そのため肥満の基準は日本では欧米より厳しくなっています(日本ではBMI25以上、欧米では30以上が肥満)。コロナウイルス感染症において日本ではどちらの数字で考えるのが良いかは分かりません。


令和2年8月28日