院長ブログ一覧

やっぱりバランスのとれた食事

以前に、極端な低炭水化物食は身体に良くないことを紹介しました:PURE研究、ARIC研究によると、炭水化物の割合50%台が最も全死亡リスクが少ないようです。

今回は日本人データの紹介です(J Nutr 2023)。日本多施設共同コーホート研究(J-MICC study)で、男性34,893人、女性46,440人が参加しています。年齢は35-69歳、平均BMI(体格指数)は男性23.7、女性22.2なので、太ってない人たちですね。

平均8.9年追跡観察し、その期間中に2,783人(男性1,838人、女性945人)が死亡しています。

男性では炭水化物の割合が50-55%の群を基準にしますと、炭水化物の割合が40%未満の群(低炭水化物食)で全死亡リスクが1.59(1.19-2.12、傾向性P値0.002)、癌死亡リスクが1.48と高くなりました

女性は観察期間によって炭水化物の割合の影響が一定でなく、解釈が難しいところがあります。5年以上観察した場合、炭水化物の割合が65%以上の群では全死亡リスクが1.71(0.93-3.13、傾向性P値0.005)と高く、癌死亡リスクも同様の傾向を認めました。

次に脂肪摂取量の検討です。男性では脂肪摂取量が多くなると、癌死亡と循環器疾患死亡のリスクが多くなりました。論文では、不飽和脂肪酸の摂取量が少ないことが原因と考察しています。女性では脂肪摂取が多くなると、全死亡と癌死亡リスクが減少する傾向でした。

性別で結果が異なりますが、極端なバランスの食事は良くないようです


令和5年10月25日

健康的な植物性食品

植物由来の食品を健康的な食品、非健康的な食品に分け、それぞれの食べ方と病気の起こり方を検討した研究(JAMA Open 2023)が発表されました。

対象は英国人(UK Biobank:全126,394人、平均56.1歳、55.9%が女性、91.3%が白人)です。

健康的な植物性食品を多く食べている人は全死亡、癌、心血管疾患が少なく、心筋梗塞、脳梗塞も少ない成績でした。摂取量を4分位に分けますと、健康的な食品摂取が最上位の群は最低位の群と比較して、全死亡で0.84、癌で0.93、心血管疾患で0.92のリスクでした。

逆に、非健康的な植物性食品が多いと全死亡、脳心血管疾患、癌が多くなるという成績でした。

健康的な食品と非健康的な食品の分類基準が気になりますね。この論文ではOxford WebQ toolをつかっていて、(1) 健康的な植物性食品は、全粒穀類、果物、野菜、ナッツ類、豆類、紅茶とコーヒーなど、(2) 非健康的な植物性食品は、精白した穀類、ジャガイモ、砂糖の入った飲料、果物ジュース、スイーツやデザートなどをあげています。

米飯では「玄米が健康的で、白米は非健康的な食品」になります。勘違いされる方も多いですが、果物ジュースは非健康的な食品であることを覚えておきましょう。


令和5年6月26日

血圧の高い人のコーヒー

コーヒーと糖尿病の話題が出ましたので、今回はコーヒーと高血圧の論文(J Am Heart Assoc 2022)を紹介します。

対象は日本人(JACC)です。18,609人(40-79歳:男性6,574人)が参加し、18.9年観察している間に842人の心血管死が起こりました。

血圧は5階層に分類しています。
 正常130未満/85未満mmHg、
 正常高値130-139/85-89mmHg、
 グレード1高血圧140-159/90-99mmHg、
 グレード2高血圧160-179/100-109mmHg、
 グレード3高血圧180以上/110以上mmHgです。

グレード2高血圧とグレード3高血圧は人数が少ないため、グレード2高血圧とグレード3高血圧を合わせて分析しました。

結果ですが、グレード2-3高血圧の人でのみ コーヒー消費量と心血管死の関連が認められました。ハザード比は、一日1杯未満0.98(0.67-1.43)、2杯0.74(0.37-1.46)、2杯以上2.05(1.17-3.59)でした。正常血圧〜グレード1高血圧の人では関連が認められませんでした。

緑茶もコーヒーと同様にカフェインを含みますが、どの血圧グレードの人も心血管死との関連を認めませんでした。論文では、緑茶に含まれるエピガロカテキンが良いのかもしれないと考察しています。

血圧の高い人はコーヒーを控えめにして、緑茶にした方が良いようです。


令和5年5月6日

コーヒーは体重減少を介して糖尿病を予防する

コーヒーをよく飲む人は糖尿病発症が少ないようです。これまでいくつかの報告があります。しかし、カフェインそのものは急性効果として血糖を上げる作用があり、どのように糖尿病予防に働いているか、よく分からないところがありました。

カフェインの影響をメンデルランダム化試験で検討した論文が出ましたので、紹介します(BMJ 2023)。メンデルランダム化試験は、遺伝子多形を利用してランダム化(無作為化)する方法で、統計分析に影響を与える交絡因子の影響が少なくなります。

カフェインは主に肝臓のcytochrome P450 isoform 1A2(CYP1A2)で代謝されます。CYP1A2の働き方が違えば血中カフェイン濃度が変わってきます。そこで今回の研究では、CYP1A2遺伝子と、CYP1A2発現調整を行うAHR遺伝子の近くにある遺伝子多形を選びました。対象はヨーロッパ系の人たちです(FinnGenとDIAMANTE)。

遺伝的にカフェイン濃度が上がりやすい人は痩せている人が多く、体脂肪量も低くなっていました。BMI(体格指数)の標準化偏回帰係数(β)はカフェイン濃度の1SD毎に -0.08(-0.10〜-0.06、BMIの1SD 4.8kg/m2)、体脂肪量は -0.06(-0.08〜-0.04、1SD 9.5kg)でした。

2型糖尿病発症も少なく(オッズ比 0.81(0.74〜0.89))、カフェインの2型糖尿病予防効果の43%(30〜61%)はBMI減少によるものと推定されました。

カフェイン濃度は心血管系疾患とは関連しませんでした。

カフェインをとると急性的には血糖が上がりやすくなりますが、慢性的には体重を減らし、糖尿病発症を少なくすると考えられました。


令和5年4月20日