肥満と神経障害
マウスを食餌性に太らせると脳神経障害が起きるようです(Nature 2026)。肥満が脳神経障害の原因になるとは考えていなかったので驚きました。
研究者たちはマウスマッパー(Mouse Mapper)という特殊な検査システムを開発しました。マウスマッパーは、組織を透明化し、ライトシート顕微鏡をもちいて、31種類に及ぶ臓器や組織の正確な位置・状態をマッピングする技術です。ライトシート顕微鏡は比較的最近の技術で、シート状に薄くした照明光をサンプルの横から当て、上から覗いて2次元画像を取得します。光を当てる位置を変えながら観察することで3次元のイメージングが可能になります。
論文は主にマウスマッパーの紹介ですが、研究者たちは、これを用いて「食餌性にマウスを太らせると、三叉神経(第5脳神経)の眼窩下枝に構造的変化が起こる」ことを発見し、ヒゲ感覚が低下することをみつけました。肥満おそるべしです。
肥満は糖尿病性末梢性神経障害(DPN)のリスク因子になります。論文を紹介します(Eur J Neurol 2025)。対象は英国バイオバンク(UK Biobank)に登録された糖尿病がある人です。DPNはミシガン神経障害スクリーニングインスツルメント質問票(MNSIq)で判定しました。MNSIqは小神経線維障害からおこる対称性多発性神経障害を拾い上げます。有痛性DPNは痛み〜不快感が3ヶ月以上続くものとしました。参加者7090人のうち1271人がDPNを有し、その28.1%が有痛性DPNでした。
身体計測法、BIA法(生体電気インピーダンス分析)、DEXA法(二重エネルギーX線吸収測定法)、aMRI(腹部MRI)法で肥満判定を行いました。参加者はそれぞれの検査を 100%、98.4%、2.3%、3.9%受けました。それぞれの方法にはそれぞれ複数の計測・肥満判定項目がありますが、それぞれの項目の13/13、27/29、21/34、8/14がDPNと関連していました。肥満の検査法は単純なものでよさそうです。肥満と有痛性DPNの関連は認めませんでした。脂肪沈着部位との関連ですが、男性は特に関連がなく、女性では中心性肥満がもっとも強くDPNと関連していました。
もう少し話を続けます。上の論文は糖尿病があるのでDPNと判定していますが、糖代謝に問題がなくても「肥満は末梢性神経障害リスク」になるかもしれません。中性脂肪高値以外の代謝障害がない人の症例対象研究で、神経障害をきたしてくる疾患を除外して(糖尿病も除外)、BMI30以上とBMI30未満を比較した論文があります(Hormones 2024)。肥満があると、110.09倍神経障害リスクが高くなるそうです。
令和8年8月31日
ホップエキスと体重減少
ホップエキスは腸の苦味受容体を介して消化管ホルモンの分泌に影響を与えます。食前のグレリン、食後のCCK、GLP-1、peptide YY反応が増加し、食後のインスリン、GIP、pancreatic polypeptide反応が減少します(Am J Clin Nutrition 2022)。こういったホルモン反応は全体として食欲を低下させる方向に働きます。今回ホップエキスが筋肉量を維持しながら体脂肪量を減少させるという研究が報告されました(Obesity Pillars 2026)。
対象は、体格指数(BMI)が 25〜35kg/m² と 過体重〜肥満を呈する 成人150人、年齢は 18〜45歳です。65名がBHE(bitter hop extract: ホップ苦味エキス) 500mgを、63名が偽薬を1日1回、徐放性カプセルで服用しました。カプセル服用なので、舌で苦味を感じることはありません。4週間ごとに、体重測定+生体電気インピーダンス分析(BIA)による身体組成推定を行い、食欲と食べ物への欲求について尋ねました。
24週目において、BHE群は平均4.3%(3.8kg)体重が減少しましたが、偽薬群では0.5%(0.4kg)にとどまりました。体脂肪量はBHE群で4.5kg減少しましたが、偽薬群では0.7kgにとどまりました。内臓脂肪面積は、BHE群で33cm2減少しましたが、偽薬群では9cm2の減少にとどまりました(すべて p<0.05)。筋肉量はBHE群で約1kg、偽薬群で0.3kg増加しましたが、有意な差ではありませんでした。
空腹感は、BHE群でベースラインと比較して有意に低下し、4週目、8週目、12週目、20週目には偽薬群よりも低くなりました。一般的な食べ物、脂肪分の多い食べ物、塩辛い食べ物、風味豊かな食べ物への欲求は、BHE群でベースラインと比較して、すべての時点において有意に減少しました。また、複数の時点において偽薬群との間に有意差が認められました。エネルギー摂取量は、BHE群で偽薬群と比較して、12週目と24週目でそれぞれ748kJと545kJ(それぞれ179、130kcal)多く減少しました。
BHE投与群の約10%に投与量の調整が必要なほどの消化器系副作用(主に下痢と吐き気)がありました。各治療群で1名ずつ副作用のため試験を中止しましたが、全体として消化器症状の増加は軽微でした。
ビールにもホップは含まれていますが、アサヒビールのホームページ(お客様相談室)に「ビールには胃液の分泌促進作用があり、このため食欲が増進して、ついつい食べ過ぎになります。その結果として太ることはあります」 とあります。ホップが含まれていても注意しましょう。
令和8年8月27日
GLP1(+GIP)受容体作動薬と筋肉
GLP1受容体作動薬、GLP1+GIP受容体作動薬は体重を大きく減らします。このときに筋肉も大きく減ってしまわないか心配になりますが、それほど心配しなくてよさそうです。セマグルチド(ウゴービ:GLP1受容体作動薬)とチルゼパチド(マンジャロ:GLP1+GIP受容体作動薬)の成績を紹介します。
はじめにセマグルチドの成績を紹介します(Diabetes Obes Metab 2025)。糖尿病患者で使われる場合はオゼンピックという商品名で1mgまでしか使えませんが、肥満に使われる場合はウゴービという名前で2.4mgまで使えます。この研究ではセマグルチド2.4mgを使っています。
106名(平均BMI 46.3kg/m2)の分析です。体重は12ヶ月で13%減少しました。総脂肪量は7ヶ月で10%、12ヶ月で18%減少しました。除脂肪体重は7ヶ月で3kg減少しましたが、それ以降は一定でした。除脂肪体重は筋肉・骨・内臓・水分などの総量を指します。〜50%が筋肉ですので、おもに筋肉量の指標になります。握力は12か月後で4.5kg増加していました。また、サルコペニア肥満(筋肉が減少している肥満)は12か月後で49%から33%に減少しました。除脂肪体重で補正した安静時エネルギー支出は7ヶ月後から12か月後にかけて増加しました。
セマグルチドで減量した場合、減り続けるのは脂肪のようです。筋肉の減少は少なく、握力はむしろ増加していました。
次にチルゼパチド(マンジャロ)の成績を紹介します(Lancet Diabetes Endocrinol 2025)。この研究では肥満(+過体重)のある2型糖尿病患者が対象で5、10、15mgを使いました。3割の人がSGLT2阻害薬を併用しています。
246名(平均BMI 33.4kg/m2、平均HbA1c8.3%)の分析です。MRI検査を行い、筋肉内脂肪浸潤、筋肉容積、筋肉容積のZスコア(性、BMIをそろえた人の平均筋肉容積と比べた場合の偏り具合)をみています。デグルデクインスリン使用群を対照にしています。
チルゼパチド群を合算しますと、試験開始後52週で筋肉内脂肪浸潤、筋肉容積、筋肉容積のZスコアはそれぞれ、-0.36%point、-0.64L、-0.22 と減少しました。デグルデクインスリン使用群では体重と筋肉容積が増加し、他の変数は変わりませんでした。集団に基づく推定変化と比べると、チルゼパチド群の筋肉容積は同様(つまり体重変化に伴う自然変化程度の減少しか認めなかった、-0.04)でしたが、筋肉内脂肪浸潤(-0.42%point)が大きく減少していました。筋肉容積のZスコアはチルゼパチド15mg使用群でのみ減少しました(-0.18)。
チルゼパチドは筋肉容積を減少させますが、その減少は体重減少に見合う適応範囲内であり、体重減少に見合う以上に筋肉内脂肪浸潤が減少するという好ましい結果をもたらしたと結論しています。
GLP1受容体作動薬、GLP1+GIP受容体作動薬で体重が減少しても筋肉には悪影響がなさそうです。
令和7年12月24日
人工甘味料を使った飲料は基本的に避けるようにしましょう
人工甘味料を使った飲料(カロリーゼロ飲料)はメタボリックシンドロームを増やし、糖尿病によくありません。学会発表ですが、興味深い演題がでていましたので紹介します。
一つめの発表は4,564人(平均年齢24.9歳、女性54.4%)を対象に、1985-6年から30年以上にわたって経過観察した成績です(Current Development in Nutrition 2025)。「人工甘味料飲料」を多く摂っている人(5分位の第5群)はあまり摂らない人(5分位の第1群)と比較して、糖尿病発症リスクが2.29(1.66-3.18)倍に増えていました。摂取した人工甘味料総量とは関連を認めませんでした。
二つめの発表は81人の成人糖尿病女性(肥満/過体重あり)を対象にした減量プログラムの成績です(Diabetes 2025)。対象者を無作為に「水」群と「人工甘味料飲料水」群に分けて、6ヶ月観察しました。減量成績をみますと、「水」群では6.82kg減量したのに対して、「人工甘味料飲料水」群では4.85kgの減量に留まりました。糖尿病状態が寛解した人も「水」群の方が多く、「人工甘味料飲料水」群の2倍でした。
人工甘味料を使った飲料水は食欲中枢を乱します。基本的に避けるのが良いかもしれません。
令和7年7月28日