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人類の歴史4000年にわたる動脈硬化

動脈硬化性疾患は生活習慣病に入れられていますが、最近に始まった疾患ではありません。紀元前〜3000年前のアイスマン(現在のイタリアで発見)に動脈硬化が発見されていますし(CT検査)、エジプトのミイラにも動脈硬化がありました(解剖、CT検査)。

これら古代人の動脈硬化は特殊な人だから起こってきた病変なのでしょうか。最近、地理的にも時代的にも文化的にも異なる古代社会で普遍的に動脈硬化性病変が存在することが報告されました(Lancet2013)。

対象は古代エジプト人、古代ペルー人、プエブロ族(北米)の先祖、ウナンガン人(アリューシャン諸島の先住民)で、時代的には4000年にわたります。方法はCT検査で、動脈壁に石灰化したプラークがある場合に確実な動脈硬化、動脈の予想走行部位に沿って石灰化がある場合を動脈硬化の可能性としています。

結果ですが、全137人中47人(34%)に動脈硬化がみつかりました(確実例と可能性例の合計)。内訳は、古代エジプトでは76人中29人(38%)、古代ペルー人で51人中13人(25%)、プエブロ人で5人中2人(40%)ウナンガン人で5人中3人(60%)です。部位は、大動脈が28人(20%)、腸骨〜大腿動脈25人(18%)、膝〜脛骨動脈25%(18%)、頚動脈17人(12%)、冠動脈6人(4%)です。動脈硬化のある人の平均死亡時年齢は43歳で、ない人の32歳より高齢でした(当時は衛生状態が悪く、死亡原因の75%は感染だそうです(老衰は10%))。



現代においても、動脈硬化は先進国社会だけのものではありません。たとえばチベット人は動脈硬化が強いですね(塩入りバター茶と栄養バランスの悪い食事が原因)。古代社会において、どういった生活習慣が動脈硬化を強くしていたのかわかりません。この研究でわかったことは、動脈硬化は時代や地理を問わず一般的な病気であることです。

動脈硬化に伴う病気はサイレントキラーと呼ばれ、症状なく身体にダメージを与えます。ぜひ、予防対策をしていきましょう。


注: 対象になった人たちの食生活

古代エジプト人は小麦、大麦、豆類、ナツメヤシ、オリーブ、イチジク、ザクロ、ラディッシュ、キュウリ、レタス、キャベツ、ビール、ワイン、牛、羊、ヤギ、豚、ハイエナ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、キジなどを食べていました。ミイラになった古代エジプト人は貴族であり、食事を含めた生活習慣は同時代の民衆と大きく異なっていたと考えられます。

古代ペルー人はトウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、マニオック(キャッサバ)、豆類、バナナ、トウガラシなどを育て、アルパカ、モルモット、アヒルを飼っていました。アンデス鹿、鳥類、ザリガニ、魚などを採っていました。

プエブロ族の先祖はトウモロコシやスクワッシュ(カボチャの仲間)を育て、松の実や種、アマランサス(ヒユの仲間)、野草を摂り、ウサギ、ネズミ、大角羊、ミュール鹿などを狩りし、魚を採っていました。

ウナンガン人は、アシカ、アザラシやラッコ、クジラを狩りして、卵類、ベリー類、魚を採っていました。農業はありません。エスキモー(イヌイット)には動脈硬化が少ないと言われているので、ウナンガン人の成績は意外に感じました。




平成25年8月1日
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