HDLコレステロール濃度って、どこまであてになる?
HDLコレステロール(HDLc)はリポ蛋白HDLにくっついて血液中を流れているコレステロールです。LDLコレステロールと流れる向きが逆で、末梢から肝臓に運ばれます。 HDLcはいわゆる「善玉コレステロール」と言われ、HDLc濃度の高い人は動脈硬化が少なく、低い人は動脈硬化が多くなるとされてきました。
最近、「HDLc濃度は高い方が良い」という単純な考えが揺らいでいます。それはHDLc濃度を増加させる薬が動脈硬化予防に失敗しているからです。たとえば持続型ナイアシン製剤です。中性脂肪を減らしHDLc濃度を増加させる薬ですが、この薬をシンバスタチン(LDLコレステロールを強力に下げる薬)を服用している人たちに飲んでもらいました。そうするとHDLc濃度は確かにあがるのですが、動脈硬化は予防できませんでした(NEJM 2011)。同じような報告がいくつかあります。内皮リパーゼ遺伝子Lipgを欠失させてHDLcを増加させたApoEノックアウトマウスも、同じように動脈硬化が予防されませんでした。
統計解析の問題も上げられています。一般の集団でHDLc濃度の影響をみようとすると交絡因子(見かけ上の関連をもたらす外部因子)の影響をどうしても避けることができません。たとえば要因AがHDLc濃度に影響し、かつ動脈硬化予防に働くと仮定します。そうするとHDLc濃度に動脈硬化を予防する効果がなくても、HDLc濃度と動脈硬化予防が関連していると統計処理されます(見かけ上の関連)。この要因Aが交絡因子です。
交絡因子の影響を避ける方法のひとつに、メンデルランダム化法があります。この方法は、HDLc濃度に影響を与える遺伝子多形を求め、その多形群間で動脈硬化を比較します。年齢、性別だけでなく、住環境、栄養環境、喫煙、飲酒などの後天的因子までひっくるめてランダム化され、交絡因子を考えなくて済みます。そしてメンデルランダム化法を用いた研究では、HDLc濃度は動脈硬化予防に関与していませんでした(Lancet2012)。
そうすればHDLの何が良いのでしょうか。最近注目されているのはHDLのコレステロール引き抜き能です。末梢から肝臓へコレステロールを転送するときの最初の”かなめ”になる反応で、これが最も大切なようです。単なる濃度より、「しっかり働いている機能」が正解のようです。
平成29年6月16日
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