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糖尿病患者の基礎エネルギー消費は多い

現在の栄養指導では「糖尿病患者のエネルギー消費は健康人より少ないという設定」で栄養指導が行われています。

例えば「日本人の食事摂取基準2015年」を読みますと、50-69歳男性の参照体位は166.6cm、65.3kgです。この体格で活動レベル1(生活の大部分が座位)の人の栄養所要量は2100kcalです。

ところが同じ体格の糖尿病の人は1530-1830kcal(軽い労作:25-30kcal/kg)と低いエネルギー量の指示がなされ、重い労作に従事している時に2100kcalが指示されます(糖尿病食事療法のための食品交換表)。随分違いますね。

最近の論文(Frontiers in Nutrition 2016)を読みますと、糖尿病患者の基礎エネルギー消費(BEE)は高いとされています。栄養指導の設定と逆ですね。HbA1cが8%を超えている人は健常人よりBEEが7.7%高くなります。糖尿病がコントロールされて安定すると、BEEの増加はなくなります。

糖尿病患者の基礎エネルギー消費(BEE)が高い理由として、(1) 尿糖で喪失する糖が計算上BEEを上げる、(2) 糖新生がBEEを上げる ことが考えられています。糖新生は「肝臓で新たにブドウ糖が作られる」ことで、糖尿病では糖新生が亢進しています。

実は糖尿病食事指導にある低めのエネルギー設定には根拠がありません。3年前の糖尿病学会の講演(勝川Dr)では、「低めのエネルギー設定は食品交換表作成委員会で提案され、根拠となったデータ公表がない」そうです。「糖尿病患者は摂取エネルギーを過小評価するので、少な目の設定で問題なく使われてきた」のが実情です。もし過小評価をしないのであれば、もう少し多めのエネルギー量を指示すべきです。

なお、糖尿病患者では健常人に比べて「運動によるエネルギー消費(AEE)」が少ないです。これは主に「糖尿病患者はあまり運動しない」ことと関連しています。その他の原因も考えられていますが(神経障害が進行すると歩き方が変わるなど)、運動することをぜひお勧めします。


平成30年12月13日

EPA製剤は動脈硬化を抑える

オメガ3脂肪酸は魚油に多く含まれる脂肪酸で、代表的なものにEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)があります。

オメガ3脂肪酸はサプリとしても動脈硬化を予防する効果が人気ですが、どうもそういった予防効果はなさそうです(平成30年6月に紹介)。この時に高純度、高用量のEPA製剤の研究結果が待たれていると書きました。今回はそのREDUCE-IT研究の紹介です(NEJM 2018)。

対象は動脈硬化リスクが高い8179人です。この人たちにエチルエステルEPA製剤4g、あるいは偽薬を服用してもらい、4.9年観察しました。偽薬はミネラルオイルで、多施設の二重盲検法です。

この研究では、スタチン製剤でLDLコレステロールが十分に下がっている状態(75mg/dl)で、EPA製剤を追加しています。ここがこの研究のポイントの一つです。これまで中性脂肪を下げる薬で心血管イベントを抑制した薬はいくつかありますが、スタチン製剤で十分にLDLコレステロールが下がっているとその上乗せ効果が認められなくなっていたからです。なお、この研究では中性脂肪中央値は216mg/dlでした。

主要判定項目は、心血管死+非致死的心筋梗塞+非致死的脳卒中+冠状動脈再建術+不安定型狭心症です。

研究結果ですが、観察を始めて2年あたりから動脈硬化が抑制され、最終的には25%もイベントが抑制されましたこれは中性脂肪低下だけでは説明できないほど良い結果です(中性脂肪低下で説明できるのは、せいぜい6-8%くらいだそうで、さらにEPA製剤がもつ抗炎症作用、抗不整脈作用を合わせても説明しきれないそうです)。

DHAを含まないEPAが良かったのか、あるいは高用量であることが良かったのか、については今後の研究が必要です。


平成30年12月3日

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