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新しいHbA1c目標値

日本糖尿病学会では平成25年6月1日からHbA1cの目標値を変更します。ここでのHbA1cはNGSP表記*で示す値です。新しいHbA1c目標値は、(1) 血糖正常化を目指す際の目標が 6.0%未満、(2) 合併症予防のための目標が 7.0%未満、(3) 治療強化が困難な際の目標が 8.0%未満 です。

注意書きがついていて、治療目標は年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して、個別に設定します。いずれも成人に対しての目標値であり、また妊娠期は除く としています。これまで合併症予防の目標値は6.9%未満(NGSP)でしたが、国際的に数字を合わせて7.0%未満(NGSP)にしました。

なお「治療強化が困難な際の目標の8.0%未満」は、明確な根拠がありません。米国老人医学会の値を参考に、とりあえず設定をしたそうです。6-7-8とキリがよく、覚えやすくて良いのではないかと思います。

諸外国の様子を見ますと、


アメリカ糖尿病学会とヨーロッパ糖尿病学会の合同声明(2012)では、2型糖尿病のコントロール目標としてHbA1cの記載がありません。それは、ガイドラインの数字が一人歩きして危険という考えです。患者中心のアプローチを重視し、コントロール目標は個別に設定します。

アメリカ糖尿病学会とアメリカ老人医学会の高齢者糖尿病に関する合同声明(2012)では、根拠に基づいた医学(EBM)を痛烈に批判しています。高齢者は研究から外されることが多く、目標設定の根拠(エビデンス)がありません。いろいろな研究を紹介していますが、一つの数字に集約していません。

アメリカ糖尿病学会の2013年ガイドラインでは、多くの人で7%未満、限られた人(罹病期間が短い、予測寿命が長い、心血管疾患がない)で、6.5%未満、最後に「我が国の治療強化が困難に当たる人」で8%未満の数字を挙げています。アメリカは数字をあげたり、あげなかったりで、統一されていません。

イギリス糖尿病学会では、一般的目標は6.5-7.5%(48-58mmol/mol:IFCC表記)ですが、「我が国の治療強化が困難に当たる人」ではそのリスクを考えて、となっています。

オーストラリア糖尿病学会(2012/13)では、一般的目標は7.0%以下。「我が国の治療強化が困難に当たる人」は7%超が妥当としています。



昨年からHbA1cの表記方式がJDS(日本のこれまでの表記方式)からNGSP(米国の表記方式)に変わっています。


平成25年5月31日

代謝とがん発生

糖尿病薬のメトホルミンはがんを抑える作用が期待され、治療試験が開始されています。今回は「メトホルミンが作用する場所」と「がん抑制遺伝子が働く場所」が共通している可能性について紹介します。

Li-Fraumeni症候群という病気があります。世界で400家系しかいないそうですから、非常にまれな病気です。親から子に伝わる遺伝子(TP53)に突然変異があり、がんが多発します。TP53というのは、p53を作る遺伝子です。p53は細胞周期や遺伝子(DNA)修復などを調節してがんを抑える働きがあります(がん抑制因子)。
  
このLi-Fraumeni症候群で、骨格筋のミトコンドリア呼吸代謝(酸化的代謝)が強くなっていることが示されました(NEJM 2013)。呼吸代謝は、酸素を使って多量のエネルギーを生み出す代謝です。p53は代謝系にも働いています

メトホルミンは、ミトコンドリア呼吸代謝を抑えることで効果を発揮します。「メトホルミンの作用」と「p53の働き」はつながっているように見えます。がん発生は遺伝子の変化だけが強調されてきましたが、代謝的な側面も重要です。今後その関連が明らかにされ、新しい治療に結びつくことを期待します。


平成25年5月9日

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