アクトスと膀胱癌の統計について
「アクトスが膀胱癌を増加させる」可能性が指摘されて1年が経過しました。フランスは自国の成績をもとにアクトス処方中止を決定し、EUに中止をせまりました。しかしEUや米国、日本では根拠が不十分なため、科学的な成績が出るまで待つことにしました。心配されている方が多いと思いますが、この決着はなかなかつきそうにありません。
最近、同じ集団を対象にした2つの研究で、正反対の成績が発表されました。 (1) 英国医学雑誌の論文は「アクトスは膀胱癌を増加させる可能性」、(2) 英国臨床薬理学雑誌の論文は「増加させない可能性」を報告しました。今回はこの2つの論文を紹介します。
どちらも英国のプライマリーケアのデータベース(GPRD)がもとになっています。観察年度は2つの論文で異なりますが、それだけの影響でしょうか。
2つの論文の大きな違いは統計方法です。論文の中核にある統計方法は、(1) の論文はコホート内症例対照研究、(2) の論文はプロペンシティスコアを用いた手法です。
比べ方がまったく違いますね。本当は、ランダム化して前向き(未来にむけて)に調査する方法がベストなのです。しかし、ベストの方法は実行がなかなか困難で時間もかかります。そこで過去の調査を生かす方法を考えて研究がなされたわけです。正反対の結果ということは、過去調査の限界を示しているのかもしれません。
まだ学会報告(米国糖尿病学会2012)のみで慎重な対応が必要ですが、アクトスと膀胱癌関連の発端となったPROactive研究のその後です。追跡観察期間を6年に延長すると、最初に疑われた関連が認められなくなりました。PROactive研究は前向きランダム化二重盲検プラセボ対照試験です。この発表の丁寧な査読、および現在進行中の10年間の調査に期待します。
この問題に対して早く科学的な結論が出ることを期待します。
平成24年6月28日
最近、同じ集団を対象にした2つの研究で、正反対の成績が発表されました。 (1) 英国医学雑誌の論文は「アクトスは膀胱癌を増加させる可能性」、(2) 英国臨床薬理学雑誌の論文は「増加させない可能性」を報告しました。今回はこの2つの論文を紹介します。
どちらも英国のプライマリーケアのデータベース(GPRD)がもとになっています。観察年度は2つの論文で異なりますが、それだけの影響でしょうか。
2つの論文の大きな違いは統計方法です。論文の中核にある統計方法は、(1) の論文はコホート内症例対照研究、(2) の論文はプロペンシティスコアを用いた手法です。
(1)の論文では、「膀胱癌1人」に対して「20人の対照」を選んでいます。実際の人数は「膀胱癌集団」が376人、「対照集団」が6699人です。この2つの集団を対象にアクトス処方と膀胱癌発症の関連を検討しました。この方法では対照の選び方が重要で、ここに偏りが出ると間違った結果が導き出されます。
(2)の論文では、まず個々の患者でアクトス処方を選ぶ傾向(プロペンシティ)を計算します。この傾向スコアが同一点になるように、アクトス「処方症例」と「非処方症例」を選んでいます。実際の人数は「処方症例」が17,249人、「非処方症例」が17,249人です。この2つの集団を対象にアクトス処方と膀胱癌発症の関連を検討しました。この方法は偏りをなくす手順(ランダム化)を統計的に行い、症例対照研究より優れた方法です。傾向スコアの計算をどのような変数で行うかが鍵になります。
比べ方がまったく違いますね。本当は、ランダム化して前向き(未来にむけて)に調査する方法がベストなのです。しかし、ベストの方法は実行がなかなか困難で時間もかかります。そこで過去の調査を生かす方法を考えて研究がなされたわけです。正反対の結果ということは、過去調査の限界を示しているのかもしれません。
まだ学会報告(米国糖尿病学会2012)のみで慎重な対応が必要ですが、アクトスと膀胱癌関連の発端となったPROactive研究のその後です。追跡観察期間を6年に延長すると、最初に疑われた関連が認められなくなりました。PROactive研究は前向きランダム化二重盲検プラセボ対照試験です。この発表の丁寧な査読、および現在進行中の10年間の調査に期待します。
この問題に対して早く科学的な結論が出ることを期待します。
平成24年6月28日
我が国の糖尿病食事療法の歴史(3)
食事療法の歴史の最後の区分は、食品交換表時代(1960年代〜)です。食品交換表の原型は1920年代にさかのぼるそうです。
似たような交換表は我が国でも作られていました。1932年発刊の小澤、岩鶴先生共著の「糖尿病と食餌計算」には含水炭素等量表が出ています。さらに100kcalの交換表も作られていました。
しかし我が国に大きな衝撃を与えたのは1950年に作られた米国糖尿病学会の食品交換表であったようです。この表では食品を6表に分類していますが、我が国の交換表とは異なり、各表の1単位あたりのカロリーは異なっています。
この影響を受けて1960年頃から日本各地で食品交換表の原型のようなものが試み出されました。済生会中央病院堀内先生、東北大後藤先生は米国方式、岡山大山吹先生は独自の方法だったそうです。そして統一した食品交換表を作ろうとする機運が高まり、1963年に作成委員会が開かれました。
発表当時は、日本人の平均食事より蛋白質・脂肪が多く贅沢食と言われたそうです。1800kcalの食餌で、蛋白83g、脂質53gを含んでいました。当時の健常者は平均2184kcal 摂取していましたが、蛋白71g、脂質36gに過ぎませんでした。今の交換表と違って「基礎食+付加食」の考え方が使われていました。しかし特に指示をしなくても、当時は炭水化物を多く含む食品が付加食に選ばれていました。
食品交換表は1993年に大改訂されました。カラーの大判になり、手にとって美しくなりました。この版で「基礎食+付加食」の考え方がなくなりました。それは付加食に脂肪を多く含む食品を選ぶ人が増えてきたためです。目安となる単位配分例が示され、「バランスのとれた食事」に近づける工夫がされました。し好食品の項目が新設され、「原則として好ましくない食品」と位置づけが明確になりました。
食品交換表を用いる方法は健康食としての評価も高く、現在に至っています。来年には新たな改訂が予定されています。
平成24年6月8日
von Lichtwitz:白パン単位
Lawrence:黒と赤の食品リスト(黒が10g炭水化物、赤が7.5g蛋白質、9g脂質) など
似たような交換表は我が国でも作られていました。1932年発刊の小澤、岩鶴先生共著の「糖尿病と食餌計算」には含水炭素等量表が出ています。さらに100kcalの交換表も作られていました。
しかし我が国に大きな衝撃を与えたのは1950年に作られた米国糖尿病学会の食品交換表であったようです。この表では食品を6表に分類していますが、我が国の交換表とは異なり、各表の1単位あたりのカロリーは異なっています。
この影響を受けて1960年頃から日本各地で食品交換表の原型のようなものが試み出されました。済生会中央病院堀内先生、東北大後藤先生は米国方式、岡山大山吹先生は独自の方法だったそうです。そして統一した食品交換表を作ろうとする機運が高まり、1963年に作成委員会が開かれました。
食品交換表作成委員会(第1回:1963年9月9日)
4群6表+付録の分類(主にどの栄養素を供給するかで食品を分類)
1単位80kcal、基礎食(1200kcal)の設定
食品交換表初版発刊(1965年9月10日、200円)
発表当時は、日本人の平均食事より蛋白質・脂肪が多く贅沢食と言われたそうです。1800kcalの食餌で、蛋白83g、脂質53gを含んでいました。当時の健常者は平均2184kcal 摂取していましたが、蛋白71g、脂質36gに過ぎませんでした。今の交換表と違って「基礎食+付加食」の考え方が使われていました。しかし特に指示をしなくても、当時は炭水化物を多く含む食品が付加食に選ばれていました。
食品交換表は1993年に大改訂されました。カラーの大判になり、手にとって美しくなりました。この版で「基礎食+付加食」の考え方がなくなりました。それは付加食に脂肪を多く含む食品を選ぶ人が増えてきたためです。目安となる単位配分例が示され、「バランスのとれた食事」に近づける工夫がされました。し好食品の項目が新設され、「原則として好ましくない食品」と位置づけが明確になりました。
食品交換表を用いる方法は健康食としての評価も高く、現在に至っています。来年には新たな改訂が予定されています。
平成24年6月8日